──では、皆さんそれぞれに今回の制作を振り返っていちばん印象に残る曲を1曲あげてください。
和嶋僕は、リード曲になっている「無情のスキャット」を作れたことがよかったなあと思います。アルバムに余韻を持たすということをいつも考えるんですが、それに相応しい曲が作れたなと思って。この曲は、アルバムを締めくくる曲にしようと思っていたので、リフ自体は早くに浮かんでたんですが、仕上げるのにはけっこう時間がかかってしまいました。重い響きのリフなので、歌詞もある意味ルサンチマン的な立場から光を見るというような内容が合うと思い、そこでスキャットというアイデアが浮かんだところで、イケると思いました。いい歌詞になったのではないでしょうか。
鈴木「宇宙のディスクロージャー」という曲を、和嶋くんに何回もダメ出しされたんです(笑)。家に持ち帰って直し、持ち帰って直し、ということを何回も繰り返したんですけど、おかげで本当にいい曲になったと思います。最初は、「こういうの、出来たんだけど」とみんなに聴かせていながら、自分でもちょっと“どうかな?”と思うところもあったんですよね、実は。で、自分の場合は、何度も考え直すことを繰り返していい曲になっていくタイプだから、それがしっかりやれたという意味でこの曲には思い入れがあります。
ナカジマ「月のアペニン山」は、僕の出番はいちばん少ない曲なんですが、この曲の全体的なバランスというか出来栄えがすごくきれいで、このアルバムの中でもちょっと違う次元にあるように感じてるんです。僕自身はほとんどパーカッションで、それも人間椅子ではこれまでやったことがなかったアプローチなんですよ。そういう意味でも、印象に残っています。
──アルバムの幕開けを飾る「新青年まえがき」という曲が、順番としてはいちばん最後にできた曲だそうですね。
和嶋曲作りの最後の段階、そろそろレコーディングが始まりますよというあたりで“もしかするともう1曲足りないかな”と思ってしまいまして…。そこまででいちばん最後にできたのが「無情のスキャット」で、ヘヴィなアルバムの最後を飾るのに相応しい曲ができて、このままでもいいかなとも思ったんですけど、でもレコーディングに入ってすぐくらいの時期にやっぱり『新青年』という作品を象徴的に表すような曲があるといいいなあと思って。コンパクトでいいから、そういう曲が欲しいなと。その時点では漠然としたイメージしかなかったんですけど、でもレコーディングが進むにつれて、ますますそういう曲があるほうがアルバムが締まるなという思いが強くなり、それでリズム録りがいったん終わって歌詞を書く期間に入ったんだけど、スケジュールをやりくりして録りました。
──「『新青年』という作品を象徴的に表すような曲」というイメージはつまり、最初に「このアルバムはこういう作品ですよ」と簡単に説明するような曲というようなイメージでしょうか。
和嶋ちょっと勢いのある曲が入ったほうがいいと思ったんですよね。ヘヴィな曲が多くて、それはとても成功したんですが、でも同時に煮詰まったカレーのような感じも強くなったから、その前に前菜のサラダのような曲が入ると、全体の流れが美しいかなって。そういうイメージで作ったら、たたみかけるようなリズムのサビが出てきたので、そこに初期サウンドを彷彿とさせるようなリフが乗っかると、30周年っぽいなとも思って。そういう意識で作った曲ですね。あのサビは多分30年前には作れなかったと思うんです。ずっとやってきた今だからこそ作れるもので、それと初期を思わせるリフとを組み合わせると新旧合体という感じになっていいと思ったんですよね。
──「初期を思わせるリフとを組み合わせる」というのがポイントだと思いますが、それはひと言で言えば「初期衝動こそがいちばん新しい」というような感覚でしょうか。
和嶋というか、初期衝動こそ大事にしないといけないと思うんです。ずっとやってると、こなれちゃうじゃないですか。どんな職種でも。それは成長だから良いことなんですが、でも大事なことは、例えば料理を作る人だったら“美味しいものを人に食べさせたい”という最初のいちばん素朴な気持ちだと思うんですよね。
──さて、この『新青年』というアルバムを携えて出かけるツアーは、どんな内容になりそうですか。
鈴木がんばって作っただけあって、いい曲ばかりなので、今やりたい曲ということで選ぶと新曲ばかりになってしまいそうで、そうならないように考えないといけないなと思ってるところです。ただ、同じセット・リストでは2回やらないという自分らのポリシーがあるので、何箇所かで見ると、その違いが面白いと思うんですよね。
和嶋何箇所か来てくださればアルバム全曲聴けることになると思うので、このアルバムを気に入った方はぜひ複数箇所に来ていただけるといいと思います。