4月5日。この日のライヴは、開演時間の19時を5分まわったあたりから始まった。
おきまりのオープニングSEであるThe Zanies の「The Mad Scientist」が会場に響きわたると、3人は下手にある階段の上で、絶叫とも言えるほどの大きな声を重ねて気合いを入れて気持ちを一つにし、勢い良く階段を降りて行った。
この日彼らが放っていた熱は特別だった。
恩師の様な存在である加藤氏に初めて見せるニュードールズのライヴへの想いと、第二のホームとも言っていた場所への特別な想いが重なっていた、特別な気合いを彼らは纏っていたのだ。
「黒い太陽」「カラリカラマワリ」など、今までの首振りDollsのノリには存在しなかった横ノリのグルーヴに、オーディエンスはツーステップを踏んで盛り上がった。ループする独特なサウンド感もショーンが加入したことでの化学変化と言っても過言ではない。
赤い照明が似合うバンドであった首振りDollsが、緑の照明も似合うバンドになったことは、実に大きな変化である。
「愛するべきあなたたちが、1人で涙をこぼさない様にーーーー」
ナオの言葉から繋がれていったバラードを届けたブロックでは、ロックンロールナンバーを歌うときとは全く別の人格が宿るのでは? と思うほど、切なさが込み上げてくる様な柔らかな肌触りの声質が浮き彫りになり、その歌声を包み込む嫋やかなジョニーのギターとショーンのベースのバランスが、心地良い温度でオーディエンスを酔わせていった。
ロックンロールナンバーと歌モノに宿るバンドの個性はまったく別モノ。そんな二面性、多面性こそ、彼ら首振りDollsの魅力だろう。
ショーンが加入して3ヶ月、アルバム『アリス』に収録された新曲たちが生まれてからもわずか4ヶ月ほどである。彼らはそこから何本もライヴを重ねて来てはいるが、この短期間の間に、旧曲たちを実に見事にニュードールズが放つ世界観に融合させたのである。
首振りDollsの看板曲でもあった、乱歩地獄を思わす「鏡地獄」は、少しテンポが速くなったことをきっかけに、フロアからはクラップが自然発生するという光景が広がったのだ。同じ空気感を放つ旧曲「金輪罪」や「ピンクの実」などのアングラな世界観の楽曲でも、オーディエンスはこれまで以上に体を揺らして応えていたのも、新生首振りDollsが新たに築き上げた個性であると感じさせられた。
ショーン・ホラー・ショーという新たな武器を手に入れた首振りDollsのライヴを、加藤氏はこれまでと変わらず、入り口近くの定位置から優しくあたたかな眼差しで見守っていた。
終演後、興奮気味に3人に“最高だったよ! いや、想像以上で驚いた! 最高! いままでのファンの人達もこれなら納得だし、新たに首振りDollsを知ってくれる人達も、きっと夢中になると思うよ!”と大絶賛し、ライヴで全てを出し切った彼らを労い力強く抱きしめながら加藤氏はこう言った。
「で、次のライヴ、いつにする? 今日決めちゃおう!」
そんな加藤氏の言葉に、安堵の表情を見せていた3人。
ライヴバンドとライヴハウスの絆を見た気がした。
この先も、FANDANGOと首振りDollsがこれまで以上のあたたかな関係で続いていけることを。
そして、FANDANGOが新たな出発に選んだ堺市という地で、首振りDollsとFANDANGOが築き上げてきた絆の様に、たくさんのバンドをシーンに送り出していってくれます様に。
7月末で営業を終了する十三FANDANGOに感謝を。
そして、堺市で産声を上げるFANDANGOに期待を。
新生首振りDollsがロックシーンの台風の目となっていけることを願って。