昔、ある有名な新人発掘プロデューサーに聞いた、印象に残ってる話がある。
そのプロデューサーは、ロック好きなら誰でも知っている、ある超有名な二つのバンドのデビュー前のオーディションのデモテープを聴いたそうだ。
片方のバンドのデモテープは素晴らしくよかったが、ライブを見に行ったらあまりにヘタクソで、ライブは全然ダメだったそうだ。
そしてもう片方のバンドのデモテープは、勢いはあるが、あまりピンとこなかったそうで、でもなんか心のどっかで気にかかってて、ライブを見に行ったら凄まじくよかったそうで、すぐにメジャーデビュー交渉をしたそうだ。
その最初のバンドは、もうとっくに解散してるが、いわゆるレコード作品の評価が高いアーティストで、今でもそのメンバー個々の作品が、色んな音楽メディアのベストアルバムランキングとかでトップを取り続けている。
そして後者のロックバンドは、今や日本を代表するライブバンドになっている。
いきなり話がそれてるが、デビュー当時、「すごい」と噂になり始めていたTHEイナズマ戦隊の最初のインディーズミニアルバムを聴いた時、勢いもあるし楽曲もよかったが、実は正直僕はすぐには反応ができなかった。
その時、僕が思い出したのが、このプロデューサーとの話だった。
「わかった。このバンド、きっとライブが凄まじくイイな。」
そう直感した僕は、すぐイナ戦のライブを見に行った。
予感した通りだった。イナ戦のライブは、そのバンドの実力も、お客さんの盛り上がりも、本当に凄まじかった。
そして僕はそのライブの時に、まだ正式には発表されていなかったあの「応援歌」を初めて聞いた。
僕はもうすでにいい歳だったが、直球のアツい歌詞に年甲斐もなく、聞いていて泣いてしまった。
そのタイトル通り、自分がその日初めて見たこのバンドに、なぜか昔からずっと応援されてたような気持ちになってしまい、感動してしまったのだ。
きっとこの曲は今後、彼らをブレイクスルーさせるだろうと思った。
そして、翌年に「応援歌」は正式に発表され、すぐに名曲としてロックファンだけでなく広く世の中にも知れ渡り話題になった。
それからイナ戦はバンドの実力も、楽曲のクオリティも格段に上がっていった。
若さや勢いやライブの盛り上がりだけではない。イナ戦は「本物」になっていた。
イナ戦はバンド結成から今年で21年目となる。
そうなると、当然バンドもファンも、一緒に歳を重ねていく。
去年末に発売されたホント素晴らしい作品となったニューアルバム『PUMP IT UP!』でも、結婚の歌や、老けた自分をぼやく歌や、地元に帰った時の歌など、年相応なテーマも楽曲にしていて、歌もサウンドも、イナ戦の表現力の幅はますます拡がっている。
そしてイナ戦といえば、やはり「ライブ」で、去年からなんと全国47都道府県ツアーを決行している。結成20~21年目にして47都道府県全部で全58公演もの壮絶なライブツアーが実行できてしまうというのが、やはりイナ戦がライブバンドとして、いまだにいかに凄いかという事を実証している。
イナ戦のライブはいつも集まったお客さんを不思議な気持ちにさせる。
僕が初めて「応援歌」を聞いた時のように、そのバンドが昔からずっと自分のそばにいたような気分にさせる。いつも隣にいて、本当に自分を見てくれてたような不思議な気持ちにさせる。それは、21年経った今でも全然変わらない。
それはきっと今も、等身大な僕らと同じ日常を歌にするボーカル上中丈弥の歌詞と、同じく今も等身大の自分達をぶつけてくるシンプルで生身な3人のバンドサウンドが、昔からのファンだけでなく、それを見たり聴いたりした誰をもそういう気分にさせるのだろう。
5月にイナ戦は野音でワンマンライブを行なう。
実はイナ戦が野音でワンマンライブを行なうのは、結成21年目にして何と今回が初めてとなる。
野音という場所は、何年かの歴史を重ねてきたバンドと、その歴史を一緒に歩んできたファンが一同に集まった時、そこに何ともいえない感動的な空間が生まれる。そのバンドと、そのファンのためだけの、神聖で特別な景色になる。
そこに、不器用に僕達のための応援歌を、21年間歌い続けてきたあのイナ戦が初めて立つのだ。想像しただけでグッときて泣きそうになる。近年のイナ戦はフェスにも積極的に参加してるので、イナ戦のライブを初体験した若いロックファンもきっと沢山集まるだろう。
この野音のライブタイトルにもある通り、「応援歌」をはじめ、イナ戦のライブで盛り上がり必至の定番曲も全て披露されるだろう。そして上中が野音の事を考えて作ったという新たな名曲「そして夜空に浮かぶ月のように」も、きっと野音の夜空に綺麗な月が浮かび、それを集まったみんなが見上げる中、歌われるだろう。
ああ、想像しただけで何度でもグッときて泣きそうになる。
でも、きっとみんな同じ気持ちだよね。