先日、自宅で陰陽座を聴いていた。
そしたら、隣の自分の部屋にいた高校生の息子にそれが聞こえてたらしく、しばらくして息子がドアを開けて顔をのぞかせて僕にこう言った。
「凄いカッコいいね。なんて声優のバンド?」
僕はズッこけてしまい、なぜ声優のバンドだと思ったか具体的に理由を聞いてみた。そしたら息子いわく、「声がいい。あと歌もとてもうまい。」「でも歌詞が奇妙。物語の唄っぽい。」という事だった。あとエラそうに「演奏も凄いし(歌手を支える超テクバンドっぽいって事らしい)」と言い、まとめると「ハード系時代劇とかのアニソンを歌う女性と男性の声優のスーパーバンドみたいなもの」だと思ったんだそうだ。
その答えに笑いながらも、僕は「なるほど」とも思った。
陰陽座は1999年に結成され、2001年にデビューしたバンドなので、活動歴はもう20年近い歴史と熱狂的ファンを沢山持つバンドだ。
実際過去にアニメの楽曲もやっているが、声優とかでは当然ない。そして歌詞に関しては、“妖怪へヴィメタル”というコンセプトのバンドなので、日本古来の妖怪を題材にした古い言いまわしや漢字だらけなので、確かに奇妙だし、全く普通ではない。そりゃ、一般の曲から「人を殺(あや)めた」とか、「生肝 抜いてやる お前」なんて歌詞は絶対に出てこないよな。
でも要するに、「物語性を感じさせる詞を超テクの歌と演奏で奏でる」という陰陽座が昔からずっとやってきた世界観が、高校生の息子には今大人気のアニソンや声優の楽曲やライブとかに通ずるものがあったという事だろう。そうやって考えると、陰陽座がアニメファンにも凄く人気があるのもうなずける。
それでもう一つ思い出したが、BABYMETALや和楽器バンドを初めて見聞きした時、すぐに僕のように陰陽座を彷彿した昔からの日本のロックリスナーも多かったと思う。
本人達は無意識だと思うが、コンセプチュアルな日本詞の歌と演奏を武器に18年も前から第一線でずっと活動し続けている陰陽座は、そんなアニメからBABYMETALなどの音楽まで、いまや世界を席巻する「JAPAN POP CULTURE」という分野においての先駆者的アーティストなのかも知れない。
陰陽座「愛する者よ、死に候え」(MV)
陰陽座「愛する者よ、死に候え」(MV)【Animation Mix ver 】
陰陽座はとてもストイックなバンドだ。
“妖怪ヘヴィメタル”というコンセプトと、歌詞は日本語のみで、いっさい英語を入れないという徹底したポリシーを見事に貫き通している。
演奏も新しいものを取り入れはするが、基本は自分達のルーツとなるヘヴィメタルクラシックの正統派ストロングスタイルに忠実で、2017年の今の音楽シーンにおいても、招鬼(まねき)と狩姦(かるかん)のツインリードギタリスト2人はギターソロをがんがんハモるし、楽曲の中でドラムソロまでも登場する。普通のバンドがそれをやったりすると懐古的なギャグやパロディになってしまうが、陰陽座の場合は、それがそこに絶対になくてはならない「必然」となっている。
バンドの顔で最大の特徴でもある黒猫(くろねこ)と瞬火(またたび)の男女ツインボーカルは、ここに来てますますその声と歌の上手さに脂が乗り、更に凄みが増してきている。こんな進化力は、やはり並外れた探究心と努力がないと手に入れることはできないだろう。
そして何より、陰陽座のストイックな部分を一番象徴しているのはやはりライブ活動だ。デビューから毎年、いまだ休まず必ずツアーを行ない、全都道府県も2回まわっている。
陰陽座はアンコールの回数が多い事でも有名だが、昨年末の横浜でもアンコールに3回応え1時間近く行なわれたが、それも会場の閉館時間の都合で終わらせただけで、普段なら長い時は本編とほぼ同じくらいアンコールライブを続ける事も多い。
陰陽座とはそういうバンドなのだ。色んなバンドに色んな形のポリシーがあると思うが、ライブに集まった全国のファン達に対して、ここまで誠実なヘヴィメタルライブバンドを僕は知らない。
今年もまた4月末から、陰陽座のライブハウスを中心とした全国ツアーが始まる。
各地でまたアンコールがどれだけ繰り返されるのか楽しみだ。
横山シンスケ
お台場から渋谷移転したイベントハウス「東京カルチャーカルチャー」店長・プロデューサー。その前10年間くらい新宿ロフトプラスワンのプロデューサーや店長。→東京カルチャーカルチャー
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