兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第155回[2024年2月前半・ケミカル・ブラザーズやQUBITなどの5本を観ました]編

コラム | 2024.02.27 17:00

イラスト:河井克夫

 音楽などのライター兵庫慎司が、生もしくは配信で観た、基本的に音楽・時々それ以外のすべてのライブレポを書いて、月14本までなら月に二回、月15本以上の時は月に三回のペースでアップしていく連載です。通算155回目の今回=2024年2月前半編は、以下の5本でした。
 同じ時期に東京ドームでテイラー・スウィフトが4デイズ、クイーン+アダム・ランバートが2デイズやっていたのに、どっちもスルーかい。と、自分でも思います。クイーンはちょっと迷ったんですが。10年前にサマーソニックで来た時「アダム・ランバートが歌うって……」と思いながら観たら、「あれ? いいじゃん!」となったので。

2月2日(金) 19:30 ケミカル・ブラザーズ @ 東京ガーデンシアター

 2020年10月の来日公演の時もチケットを買っていたが、コロナ禍で流れたので、観るのは2019年のフジロック以来。かつ、2020年の時は前年リリースのアルバム『No Geography』のツアーだったが、その後2023年にニューアルバム『For That Beautiful Feeling』が出ているので、内容も意味合いもその時とは変わっているだろうが、そんなことはいいです、とにかく観れることがうれしいので。
なお、追加公演を合わせて、東京ガーデンシアター3デイズで、この日はその2日目。開場から開演までゲストのJames HoloydがDJを務めた。
 『For That Beautiful Feeling』から5曲、『No Geography』から5曲。他は「Hey Boy Hey Girl」「Swoon」「Star Guitar」「Setting Sun」などの、それ以前の歴代のヒット曲の数々などで、全27曲、2時間15分(くらい)。
 プロディジーやアンダーワールドやファットボーイ・スリムなどの、1990年代中盤〜後半あたりにブレイクした、デジ・ロックとかビッグ・ビートとか呼ばれていたUKのダンス系アーティストたち、当時大好きだったし、今でも大好きだから、来日公演にもフェスにも行く。
 で、今観ると、その音楽性や存在のありかたも含めて、ああ、懐メロだなあ、と思う。当時はピカピカに新しくてラジカルだっただけに、特にそう感じるのだろう。でも、それでいいとも思う。それでも観に行くし、CDはもちろんアナログ盤も買うし、こっちは。
 ただし。ケミカルだけは──僕の中で、だけかもしれないが──なぜか、そうならないのだ。いつも新しくて、いつもラジカルで、いつも今の音楽。
 過去の曲もトラックをリメイクしてアップ・トゥ・デイトしているから、とか、映像の使い方などの演出を新しくしているから、という理由ではないと思う(それは他のアーティストもやっているので)。「Chemical Beats」なんかの超初期の曲に、特にそれを感じたりもする。もう30年近く前の曲なのに。つくづく不思議。

2月4日(日)17:30 Caravan @ 川崎クラブチッタ

 毎年この時期に川崎クラブチッタで行うのが恒例になっている「新年祭」。このDI:GA ONLINEにレポを書きましたので、ぜひ。
Caravan、2024年のファースト・アクション「新年祭」。今年もアグレッシヴに幸福だった

2月7日(水)19:00 QUBIT/Zepp Shinjuku

 この日のZepp Shinjukuは、音楽専門誌ミュージック・マガジンのイベントで、同誌の2023年のジャンル別ベストのJ-POP/歌謡曲部門で1位になったQUBITと、ロック[日本]部門で1位になった君島大空が出演。オープニング・アクトで、J-POP/歌謡曲部門2位のHana Hopeも出演した。
 で、僕が目当てで行ったQUBITは、もともとDAOKOのライブ時のバックバンドがそのままバンドになって2023年4月から正式始動、同年11月にファーストアルバム『9BIT』をリリースしている。ボーカルDAOKO、ギター永井聖一、ベース鈴木正人、キーボード網守将平、ドラム大井一彌という、バックバンドと考えると「よく揃えられたなあと思うけどありえなくはない」が、ひとつのバンドとして捉えると「まずありえない」メンツである。
 『9BIT』収録の9曲のうち「Room Tour Complex」以外の8曲が演奏された。80年代90年代00年代10年代20年代が全部あるような、「よく知っているこういうの」と「聴いたことないこんなの」が入り交じるような、懐かしくて新鮮で不思議で楽しい音楽体験。昔のSFアニメテイストなMV(AIアートで作られているそうです)がステージ後方の壁一面の巨大LEDに映し出された「Mr.SONIC」が、特にもうクラクラきた、観ていて&聴いていて。
 にしても、このバンドとTESTSETの両方のメンバーである永井聖一ってすごい。

2月9日(金)19:00 ルサンチマン、ハンブレッダーズ、CINEMA STAFF @ リキッドルーム

 CINEMA STAFFは『BATTLE OF LIQUID ROOM & MASTER OF LIQUIDROOM』というイベントを、2月から3月にかけて行っている。2月2日(金)・9日(金)・16日(金)・25日(日)・3月1日(金)・8日(金)・15日(金)・24日(日)、と、8週連続でリキッドルームで対バンライブをやる企画で(最終日のみワンマンで、それが『MASTER OF LIQUIDROOM』)、この日はその2回目。対バンでハンブレッダーズ、オープニング・アクトでルサンチマンが出演した。
 爆音と叫び(のようなボーカル)で終始オーディエンスを唖然とさせた(ように見えた、僕には。かっこよかった!)ルサンチマンも、12日後にニューアルバム『最初から自由だった』(いいタイトルだなあ)のリリースを控えたハンブレッダーズも、MCでCINEMA STAFFへのリスペクトを言葉にした。
 ルサンチマンは、高校1年生の時にこのバンドで最初にコピーした曲がCINEMA STAFFの「great escape」だそうで、北(Vo,Gt)曰く「すごく感慨深いです」。「ギター」で始まりニューアルバムからの「グー」や「ビートアディクション」や「DANCING IN THE ROOM」等を経て「BGMになるなよ」で終わる10曲をプレイしたハンブレッダーズは、最初のMCでボーカル&ギタームツムロアキラが今日呼んでもらえたことの喜びを告げる。そして、このライブの直前に、CINEMA STAFFのファンクラブ会員サイトに、辻友貴とルサンチマンもぎの対談動画がアップされたことに触れ、「それには呼んでもらえないんだ?」。ベースのでらしは大学生の頃CINEMA STAFFのコピーバンドをやっていたそうで、「俺とか呼んでもらえたらいくらでもしゃべれるのに」。オーディエンス、笑って拍手。
 そのあとCINEMA STAFFが、混沌と美しさを塊にして喰らわせて、聴き手の脳味噌を異次元に飛ばしっぱなしにしてしまうようなライブを、ぴったり1時間。ルサンチマンもハンブレッダーズもどえらくすばらしかったが、CINEMA STAFFは言わば「経験の分厚さ」の分、一日の長あり、と言いたくなるような貫禄だった。
 なお、MCで飯田瑞規(Vo/Gt)、「あの対談は、O.A(オープニングアクト)のバンドを紹介するっていうので辻が独断と偏見でやってますので」とフォロー。
 それから。この(ご本人たち曰く)「8週間リキッドルーム生活」、ライブで撮った写真を即座にステッカーにして、先行予約でチケットを買ってくれた人に翌週プレゼントする、というサービスを行っているそうなのだが、今週は、雪の影響による交通の乱れでステッカーが届かなかった、後日対応します──というお詫びと説明が、アンコールであった。
 金曜日にライブをやると、工場は土日は動かないから月曜にならないと入稿できない、だからギリギリになる、そんなスケジュールを組む方が悪い、と自嘲しておられました。わかります。昔、長年出版社に務めていたので、私。

2月15日(木)19️:00 突然少年 @ 新宿紅布

 ろくようび、突然少年、三輪二郎バンド。この日、自分は「ライブ行ってねえで早く原稿書け」状態だったのだが、突然少年は、前回書いたように、4月30日新代田FEVERのワンマンを最後にドラムの篠原賢a.k.a.ピエール畳がバンドを去ることが決まっている。なので、彼がいる間のライブは少しでも観ておきたくて、突然少年の出番に間に合うように、大急ぎで観に行った。
 で、この日も、とてもよかった。1曲1曲を今この場に「放つ」というよりも「刻みつける」ように演奏し、歌っているような感触で。突然少年、『未来』という6曲入りミニアルバムをリリースしたばかりなのだが(CDは7月23日下北沢シェルターから販売を始め、各サブスクには12月13日に入った)、そこに収録されていない、つまりそれ以降に作ったと思しき新曲を、何曲かやっている。で、それがどれもいちいちとてもいい。どうするんだろう、これらの曲は。ピエール畳と一緒に作ったんだから彼がバンドを離れる前に録るのか、それとも録るとかは新体制になってから考えるのか。

  • 兵庫慎司

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    兵庫慎司

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