兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第121回[2022年12月前半・電気グルーヴと桑田佳祐の2デイズ、宮本浩次@神戸、syrup16g、などの11本を観ました]編

コラム | 2022.12.22 17:00

イラスト:河井克夫

 音楽などのライター兵庫慎司が、基本的に音楽、時々それ以外(演劇とか演芸とかプロレスとか)の、自分が生で、もしくは配信で観たすべてのライブのレポを、月に二回ペースでアップしていく連載の121回目・2022年12月前半編です。
 半月の間に合計11本・12月3日と12月9日は1日に2本・2デイズを2日とも観に行ったのが2組。という、なんだかひたすらライブばかり観ている、2022年の年の瀬でした。さらに年の瀬になる次回は、ここまで多くはない予定。

12月2日(金)19:00 電気グルーヴ@Zepp Haneda(TOKYO)1日目

 10月15日(土)ぴあアリーナMMのアンコールで発表された、福岡・大阪・東京を回るZeppツアーの東京編、Zepp Haneda(TOKYO)2デイズの1日目。
 福岡と大阪は、メンバー=石野卓球とピエール瀧+サポートメンバー=agraph牛尾憲輔とギター吉田聡、という、ここ数年は不動の4人で回ったが、その後、牛尾憲輔がコロナに罹患。急遽、代打で、石野卓球と親交が深い、しかし電気のライブに参加するのは初めてのDJ、SUGIURUMNがサポートした。翌日の2日目に続く。

12月3日(土)14:00 チョーキューメイ@下北沢近松(『下北沢にて』出演)

 その電気の2日目に行く前に、チョーキューメイというバンドを観た。音楽業界の知人が「このバンド良くないですか?」と音源を送って来て、聴いたらえらくかっこよくて、YouTubeで映像を観たらさらにかっこよかったのと、チョーキューメイという、落語『寿限無』の中の一節をバンド名にするセンスに惹かれたのが、観に行った理由。THEラブ人間が、毎年この時期に行っているサーキットイベント『下北沢にて'22』で、14:00から近松に出るところを狙って行った。
 で。おもしろかった! ボーカル&ギター&バイオリンの麗(女性)、ピアノとベースとドラム(3人とも男性)の4人編成。一瞬「××みたい」とか言いたくなるが、ちゃんと聴くと全然違う。強いて挙げれば、ピアノやリズムにジャズっぽい感じがあるところが、ミドリを思い起こさせるような……いや、やっぱり違うな、全然。ミドリのようなハードコアやインダストリアルな感じはなくて、もっと歌ものだから。
 なお、ジャズ以外にもいろいろ、ロック以外の音楽が、ルーツに入っている感じもある。歌詞は日本語で、耳に強く刺さる言葉が並ぶ。と、一筋縄ではいかないポイントだらけで、「なんだこれは?」と思いながら凝視していたら、あっという間に終わってしまった。また観たい。
 チョーキューメイが終わってからZepp Hanedaに行くまで、ちょっと時間があったので、『下北沢にて』に出ている他のバンドもいくつか観た。20店舗以上のライブハウスで開催されていたので、どうせなら、と思い、行ったことのないハコを重点的に回った。
 あるのは知っていたけど入ったことはなかったハコから、「こんなところにライブハウスあったのか!」とか、「この作りででかい音出して大丈夫?」みたいなハコまであって、おもしろかったです。

12月3日(土)19:00 電気グルーヴ@Zepp Haneda(TOKYO)2日目

 というわけで、下北沢からZepp Hanedaへ移動して、電気グルーヴの2日目を観る。前日はSUGIURUMNだった、agraph牛尾憲輔の代わりのサポートメンバー、この日はなんと、元メンバーのまりん(砂原良徳)。まりんがゲストとかではなく、頭から最後まで参加したのは25年ぶり、という大事件。
 なので、急遽ブログを書きました。≫ 兵庫慎司のブログ:2022年12月3日(土)、電気グルーヴのライブに、サポートで砂原良徳が参加した

12月6日(火)19:00 特撮@渋谷クラブクアトロ/Streaming+

 特撮、今年4本目にして今年最後のライブ。このDI:GA ONLINEにレポを書きましたので、未読の方はぜひ。≫ DI:GA ONLINE:特撮、2022年最後の活動をレポ!ほぼ全キャリアから選ばれたセットリスト

12月7日(水)18:30 宮本浩次@神戸国際会館こくさいホール

 『ROMANCE』に続く2作目のカヴァー作品(今回は6曲入り)である『秋の日に』をリリースしてのライブは、東京・国際フォーラムホールAの2デイズと、神戸国際会館こくさいホール2デイズ。
 という日程だったが、宮本の体調不良で東京2デイズが延期になった。その後、この神戸2デイズの時点では、宮本の体調は回復していたが、行われなかった東京公演の振替公演ができるのか、このまま中止になるのかは、まだわからない状況だった。だから神戸まで行ったわけではなくて、どのみちこの2デイズの1日目は、行くつもりだったんですが。
 なお、これを書いている現在は、東京の振替公演を、1月16日(月)に東京ガーデンシアターで行うことが、もう発表されている。2デイズだったのを、キャパ約2倍の会場で1日でやる形に変更、ということですね。
 だから、ネタバレするのはよくないので、セットリストとかには触れないでおきます。すんごい触れたいけど。というのは、今回のこのライブ、「カヴァー曲を中心としたスペシャルなコンサート」(公式サイトより)なんだけど、全体の選曲・曲順・構成が、「オリジナル曲ならわかるけどカヴァーを並べてここまでできるのか!」と言いたくなるほど、それはもう見事だったのだ。シンガー、作詞作曲家、としてはもちろん、プロデューサーとしてもすごいんだな、宮本浩次。ということが、改めてわかった気がした。
 あと、メンバーは、ギター名越由貴夫・ドラム玉田豊夢・キーボード小林武史は『日本全国縦横無尽』ツアーと同じだが、前もって告知されていたように、ベースはキタダマキから須藤優に代わっていた。キタダマキが参加できなかった理由は、翌日に続く。

12月8日(木)19:00 syrup16g@KT Zepp Yokohama

 キタダマキがメンバーであるsyrup16gのライブの、Zepp NambaとKT Zepp Yokohama×2のうちの、この日=横浜の1本目が、宮本浩次の2本目とぶつかってしまったから、そちらには出られなかった。ということだったのだ、と思います。
 で、syrup16g、5年ぶりのニューアルバム『Les Misé blue』をたずさえてのこのライブを観て、レーベルのオフィシャルレポを書きました。こちらです。 
 ≫ SPICE:syrup16g、アルバム『Les Misé blue』のリリース・ツアーを開催 横浜KT Zepp Yokohama公演のオフィシャルレポート到着

12月9日(金)13:00 『ツダマンの世界』@渋谷Bunkamuraシアターコクーン

 この連載の前回で、11月29日(火)18:00の7公演目を観たことを書いた、松尾スズキ作・演出の『ツダマンの世界』、19公演目であるこの日も観た。
 前回も書いたが、阿部サダヲ・間宮祥太朗・江口のりこ・吉田羊、という豪華キャスト、どの人もいちいち良かった。阿部サダヲは、松尾スズキの舞台で何度も観たことがあるので、ある程度予想がついたが、江口のりこも吉田羊も間宮祥太朗も「え、こういう俳優だったのか!」と驚かされる瞬間だらけ。皆川猿時や笠松はる、見上愛、町田水域、河井克夫等、他のキャストもすばらしい。
 特に河井克夫。そもそも漫画家兼俳優で、漫画家として松尾スズキとタッグを組んでいて、本作には「文芸部」と「俳優」の両方で参加していて、かつ舞台では三味線も弾いている。彼のことを知らなかった人は「この人、何者!?」と思うだろうなあ、と、観ながらニヤニヤしてしまった。

12月9日(金)19:00 Bug Holic@下北沢CLUB Que

 ファーストアルバム『バグホ』をリリースしたばかりの新人バンド、Bug Holicの、通算10回目のライブにして初ワンマン。なんでまだ10回目なのかというと、結成されたのが、コロナ禍の最中だったから……というようなことは、私が書いたこのバンドの推薦文が公式サイトにアップされていて、それを読めばわかりますので、よろしければぜひ。≫ Bug Holicオフィシャルサイト
 さて。いつ以来だろう、こんなギュウギュウのCLUB Queに来たのは。と、己の記憶を辿りたくなるほどの超満員だった。ライブを初めて1年半・10回目で、メディアとかにもさして出ていなくて、音源の配信と口コミ(ネットも含む)だけで、こんなにお客を集めてしまうのって、すごい。
 自分がライブを観るのは3本目以来で、その時は、演奏もパフォーマンスも、正直、いかにもライブを始めたばかりな感じだったが、この10本目では見違えるほど良くなっていた。
 音源は、PC上で細部まで作り込むタイプだが、それをライブで再現しようとするのではなく、むしろ逆に振っている。生ならではの荒々しさや激しさを大事にしている。というのも、正解だと思う。配信で音源を聴く→ライブに来る→さらに好きになってまた来る、という健全な連鎖が、今後もどんどん続いて行きそう。

12月10日(土)17:30 桑田佳祐@東京ドーム 1日目

 ベストアルバム『いつも何処かで』を携えての五大都市ドームツアーの東京編の1日目。が、これを書いている段階で、その五大都市ツアーは終わっているんだけど、追加公演=12月28日(水)・30日(金)・31日(土)の横浜アリーナがまだなので、ネタバレはできないのだった。
 ともあれ、「ソロを始めて35周年なので35曲」である『いつも何処かで』に収められている、歴代の曲をたっぷり堪能できる、そしてそこに入っている新曲も聴けるライブ。
 ただ、であっても「聴きたい曲全部やってくれた」には決してならないのが、桑田佳祐の恐ろしさだなあ、と、改めて思った。観ている間はもう夢心地レベルで幸せで「あ、この曲やってくれた!」「これもやってくれた!」という気持ちなんだけど、帰り道「あ、でも、あの曲はやってない」「あれもやってない」と思い出すのだ。『いつも何処かで』の収録曲だけではなく、それ以外のレパートリーも含めて。
 そんな、「名曲だらけでやってもやってもやりきれない」勘定に、当然だが、サザンオールスターズの曲はカウントされていない。ソロとKUWATA BANDの曲だけで、そう感じさせるのだ。つくづくモンスターだと思う、桑田佳祐。

12月11日(日)17:30 桑田佳祐@東京ドーム 2日目

 で、2日目。桑田佳祐がモンスターだと思うところ、もうひとつ。毎年すごい本数のライブを、何十年もやり続けているボーカリストを、普段からたくさん観ているので、「今日のノドのコンディション、どうかなあ」とか、「この曲のサビ、出る声の高音域ギリギリだけど大丈夫かな」などと、観ながら思うことはよくある。もっとコンディションをちゃんと保てよ、とかいう話ではなくて、長年やっている人は誰もがそういうものだ、歌うという行為はアスリートと同じ、肉体労働なので。
 ただ、何年経っても、ライブでそういうことを一切感じさせない恐ろしい人が桑田佳祐なのだ、僕にとって。僕は54歳だが、初めて生で彼のライブを観たのは高1、16歳の時である。ファンになったのは「勝手にシンドバッド」の時だから、それよりさらに6年前、小4、10歳の時。もう一回言う。恐ろしい、桑田。

12月15日(日)19:00 THE SPELLBOUND@渋谷Spotify O-EAST

 テレビアニメ『ゴールデンカムイ』第四期エンディングテーマの新曲「すべてがそこにありますように。」のリリース・パーティー。だからなのか、1曲目がそのカップリング曲の「約束の場所」、2曲目が「すべてがそこにありますように。」と、新曲を2曲並べてスタートした。
 いつもは中野雅之と小林祐介のメンバーふたりに、福田洋子と大井一彌(DATS、yahyel)のサポートドラム×2が加わった4人でライブをやっているが、この日は「すべてがそこにありますように。」のレコーディングに参加している女性シンガー、XAIも参加。コーラスというよりもほぼツイン・ボーカルくらいの重要度だった、歌いっぷりが。
 THE SPELLBOUND、最初は、「このへんは中野雅之」「このあたりは小林祐介」というふうに、それぞれのカラーが出ている部分を楽しみながらライブを観ていたが、自分がもうそういう観方をしなくなっていることに、終わってから気がついた。自分がTHE SPELLBOUNDの音楽に慣れたからか、ライブを重ねるうちに、バンドがひとつの生き物として動くようになってきたからか。前者もないことはないだろうが、後者の方が大きい気がする。
 ライブで、BOOM BOOM SATELLITESとTHE NOVEMBERSの曲もやるのが恒例になっていて、この日も後半でブンブン3曲ノベンバ1曲を披露したが、演奏する方も聴く方も、それを自然に受け入れて楽しんでいるのも、同じ理由なような気がした。やりようによっては、もしくはバンドの状態によっては、微妙な感じになってもおかしくないと思うが、ただただハッピーな空気だったし、満員のO-EAST。

  • 兵庫慎司

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    兵庫慎司

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