兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第120回[2022年11月後半・TESTSET、『ツダマンの世界』など5本を観ました]編

コラム | 2022.12.20 17:00

イラスト:河井克夫

 フリーのライター兵庫慎司が、基本的に音楽、時々それ以外(演劇とか演芸とか格闘技とか)の、自分が生もしくは配信で観たすべての公演について、半月に一回書いてアップしていく連載の、120回目・2022年11月後半編です。今回はすべて生で5本、うち音楽4本で演劇1本・東京4本で広島1本、でした。

11月16日(水)21:00 TESTSET@Billboard Live東京

 東京・大阪、それぞれ1日2公演ずつのビルボードライブ、その東京の2公演目(なので21:00開演)。ちょっと前に、まりん(砂原良徳)とLEO今井に、今のところ唯一のTESTSETのインタビューをしたのだが(こちらです ≫ billboard japan:<インタビュー>待望の初音源をリリースしたTESTSET・砂原良徳×LEO今井が語る、METAFIVEからの意欲的メタモルフォーゼ)。)、それ以降はライブがなかったので、楽しみにしていた。
 チケット、奮発してサービスエリアにしたら(ビルボードライブ東京、サービスエリアとカジュアルエリアの二種類の座席があるのです。この日の料金差は500円)、とてもいい席だった。右端のドラム白根賢一とその隣のまりんの間で、フロアのかなり前の方。TESTSETのライブ、何度も観ているが、各メンバーの動きや表情を、こんなに至近距離で目で追えるのは初めて。近いから音もいいし。
 普段のTESTSETのライブでは必須である効果映像、この日はなかったが(というのはビルボードでライブをやるという時点で予想できたが)、ない、ということが、まったく気にならなかった。というか、途中まで忘れていて、半分くらい観たあたりで「あ、そういや映像、ない」と気がついた。
 TESTSETになってからリリースした曲はもちろん、「懐メロをやります」(LEO今井)と披露した「Luv U Tokio」など、METAFIVEの曲もあり。さらに、後半、直前で出演が発表になったゲスト=立花ハジメが登場、プラスチックスの曲を1曲とソロ曲を2曲、一緒に演奏した。
 ビルボードライブ東京、後半になるとステージ後方の幕が開いて、六本木の夜景をバックに演奏する、というのが(夜は)恒例だが、そのシチュエーションで観る永井聖一・LEO今井・立花ハジメ・まりん・白根賢一の5人、とても画になっていた。

11月19日(土)17:30 フラワーカンパニーズ@広島Live space Reed

 コロナ禍で地方へ行きづらくなった期間を経てからは、親が高齢なので、なるべくまめに、故郷の広島に帰るようにしている。で、これはコロナ禍よりも前からだが、どうせ帰るなら、観たいバンドの広島公演がある時に、合わせるようにしている。
 というわけで、今回は(「今回も」か)フラワーカンパニーズに合わせた。ニューアルバム『ネイキッド!』のリリース・ツアーの4本目、会場はコロナ禍直前の2019年秋にオープンした新しいライブハウス、広島Live space Reed。
 このツアーを僕が観たのは、1本目の11月5日(土)水戸ライトハウス以来だが、その1本目とは全然違うセットリストだった。1本目と4本目が違った、というよりも、そんなふうに、1本ごとにどんどんセットリストを変えながら進んでいくツアーのようだ。
 ただし、この日も1本目と同じく、『ネイキッド!』収録の11曲は、全曲演奏された。毎回新作を全曲披露しつつ、毎回セットリストが大きく違うツアーをやるバンド、なかなかいないと思う。フラカン、コロナ禍以降も、極力ライブ活動を止めなかったバンドだが、であっても、33本も回るツアーは久々なので、いろんな意味で気合いが入っているのだろう。歌も演奏もエネルギーに満ち溢れたものだったし。次に観るのは、大晦日、新代田FEVERの年越しワンマンの予定。もう楽しみ。

11月22日(火)19:20 浦小雪バンド@渋谷TOKIO TOKYO

 最近、デビュー前の、もしくはデビューして間もない、新人バンドのライブに誘われることが多い。兵庫は新人バンドを見る目が確かだ、なんていう業界内の評判とかは、残念ながらまったくないので、たぶん僕だけじゃなくて、音楽メディアの関係者はみんな、誘われることが増えているのだろう。要は、シンプルに、いい新人が増えているから、それをフックアップしようというスタッフの動きも、活発化しているんだと思う。
 というわけで、この日誘われて観に行ったのは、渋谷のTOKIO TOKYO主催のフリーライブ・イベント『FREE!!!』に出演した、浦小雪バンド。浦小雪、長崎を拠点にSundae May Clubという3ピース・バンドをやっている人である。じゃあ、東京とかでライブが入った時は、バンドじゃなくてひとりで来て、東京のミュージシャンたちと「浦小雪バンド」として出演する、ということなのか?
 と思って、観終わったあとで調べたら、この日やった5曲は、Sandae May Clubの曲ではなくて、彼女のソロのレパートリーだったようだ。サブスクに上がっているSandae May Clubの曲は1曲もなかったし、浦小雪名義でアップされている唯一の曲「夏の速度」を1曲目にやったので。じゃあそれ以降の曲も、音源未発表のソロの曲、なのか?
 というような按配で、こっちがまだよくわかっていないことが多いが、楽曲そのもの、歌そのものは、とてもいい、というか、かなり自分の好み。ここ20年くらいで自分が好きになった、いろんなロックのいろんな影響が見えるが、それらのブレンドのしかたが絶妙なのか、そのままやってるつもりでも自然と自分のカラーが出てしまうのか、その両方なのか、なんだか絶妙にオリジナル。
 声を張った時の通り方もいいし、歌詞がはっきり聴き取れるのもいい。浦小雪バンドもまた観たいし、Sandae May Clubも観たい。

11月27日(日)18:30 グソクムズ@西永福JAM

 同じく、誘われて新人を観に行くシリーズ、今回は既にデビューしているグソクムズ。デビューの時に、レーベルのスタッフ(知っている人だった)が送ってくれた音源が良かったのと、ついこの間、友達の息子(大学1年、ベーシスト)が、「このバンドすごくいいけど知ってる?」とLINEを送って来たので、気にはなっていたのだった。で、観に行ったのは、西永福JAMがやっている企画イベントに出演したこの日。
 ちょっと前だったらシティ・ポップと形容されただろうな、という音楽性から察するに、淡々としたライブをやるバンドだろうな、だとしたら音源の方がいいかもな、と勝手に想像していたのだが、ライブも音源に負けず劣らず、とてもグッとくるものだった。
 ステージングは予想どおり淡々としているが、鳴っている音が、放たれている声が、とても豊かで、とてもクリアに耳に入ってくる。ボーカル&ギターのたなかえいぞをの声、特に低音域が、耳に心地いい。
 後半のMCで、この次のライブは、12月27日(火)下北沢シャングリラ、早稲田大学のライブイベントサークルUBCのイベントで、yonawoとサニーデイ・サービスと共演、という告知があった。うわ、いい対バン。

11月29日(火)18:00 『ツダマンの世界』@渋谷Bunkamuraシアターコクーン

 松尾スズキ作・演出の新作。シアターコクーンで11月23日(水・祝)に始まって、この回で7公演目。12月18日(日)までが東京公演で、その後12月23日(金)から29日(木)まで、京都公演もあり(@ロームシアター京都メインホール)。阿部サダヲ、間宮祥太朗、江口のりこ、吉田羊などの豪華キャストが出演。
 ざっくり言うと、戦前・戦中・戦後の文壇とその周囲の人たちの物語で、松尾スズキにとって、まだ舞台にしたことがなかったが、非常に興味を惹かれるテーマだったのだろうなあ、と思う。あらすじが知りたい方は公式サイトをどうぞ。≫ https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/22_tsudaman/
 で。「頭から最後までものすごく松尾スズキ」でありながら「松尾スズキの新境地」でもある作品だった。今年還暦の先輩にこんなトライアルをやられたら、後続の劇作家・演出家たち、イヤだろうなあ、と思う。「追いつけねえよ」という意味で。
 あと、この作品、初めて、部分的にではなく全面的に、松尾スズキ自身が音楽も手掛けている。基本的に楽器は弾けないので、鼻歌を録音して、それをアレンジしてもらったそうだが、それらの音楽の、物語への合いっぷりが、もう絶妙だった。ライブで、ボーカリストが本来のパートではない楽器を演奏しているのを観たら、その歌とのタイム感がぴったりでびっくりしたことが、僕は何度かある。奥田民生の叩くドラムとか、ホフディランのワタナベイビーが弾くベースとか。というのと近い気がした、この、脚本を書いて演出する人が自分で作った劇中音楽は。
 もう一度観に行く予定があるので、後日また書きます。

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    兵庫慎司

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