兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第80回[2021年5月後半]編

コラム | 2021.06.04 18:00

イラスト:河井克夫

 音楽などのライター兵庫慎司が、生で観たライブすべてのレポを書き、半月に一回アップしていく連載の、2021年5月後半編です。新型コロナウイルス禍になった2020年2月後半からは、「配信ライブを観て書くのもOK」というルールにして続けています。
 三度目の緊急事態宣言が延期になった期間にあたる今回=2021年5月後半は、生で観たライブ5本、配信で観たライブ1本、という結果になりました。文中でも触れていますが、その配信で観た1本は、「終わってからライブがあったことを知った、でも配信があったから後から観れた」という例でした。

5月20日(木)19:00 the telephones@新木場USEN STUDIO COAST

 2020年6〜7月に行うはずだった、5年ぶりのニュー・アルバムのリリース・ツアー「NEW! TOUR」が新型コロナウィルス禍で中止。対バンツアーだったのをワンマンに切り替えるなどして、15周年ツアー『15th Anniversary“Tour We Go”』として2021年3月〜5月で行った、そのファイナル公演がこの日。
 床に立ち位置指定あり、声出しNG、マスク必須、アルコールの販売なし、等、感染予防対策の下に行われたライブだったが、にもかかわらず、終始自由で幸福な空気に満ちた時間だった。
 「ようやく実施できた」わけだし、「大変な時期だけど実行した」ツアーだし、「同じくお客さんも、大変な時期だけど足を運ぶことに決めた」のであって、よって、もっとシリアスで必死なムードが漂うライブになっても不思議はないだろうに、ただただ楽しかった。
MCのたびにグダグダにリラックスする、しかし曲に入った瞬間にビッと引き締まってがつーんとテンション上がる、という、コントラストがはっきりしたライブであったことも、よかったのかもしれない。
 このバンド、タフだなあ、と改めて思った。

5月21日(金)19:00 JUN SKY WALKER(S)@東京キネマ倶楽部/Streaming+

 2年ぶりのライブであり、寺岡呼人と袂を分かち、宮田和弥・森純太・小林雅之の3人体制になってから初めてのライブがこの日、だったのだが。サポートでベースを弾くのが市川勝也であることを、知らなかった。
 というか、ライブがあること自体、ノーマークだった。ページを作って何年もほったらかしのFacebookを、たまたま見たら、ライブの前日に市川が、ジュンスカのサポートで弾くことを告知していて、「え、マジで!? しまった、もう終わってる。あ、でも配信あるのか、じゃあアーカイブで観よう」と、なったのだった。
 って、なんで市川にこだわっているのかというと、高校時代に対バンとかしていた、地元広島のバンド仲間なのです。市川勝也、THE STREET BEATSでプロになり、GEENA→POTSHOT等を経て、現在ROCK'N'ROLL GYPSIESで弾いている、僕と同じ歳のベーシスト。
 最後に一緒に飲んだのは、もう6年くらい前だけど、共通の知人が多かったりして、普段から動向はなんとなく追っていた。で、市川、POTSHOT時代は小林雅之と一緒にリズム隊を組んでいたので、こうしてサポートを頼まれたのは、考えてみれば納得、なのだった。
 配信プラットフォームはStreaming+で、視聴チケットは3,300円、5月26日(水)23:59までアーカイブ視聴可能だった。
 ライブが始まって、最初は「うわあ、市川がジュンスカにいる、わははは、新鮮!」みたいな気持ちで観ていたが、すぐにセットリストの方に気持ちをひっぱられていった。近年の曲たちの中に歴代の名曲が入り交じる、その感じが絶妙で。中盤で歌われた「さらば愛しき危険たちよ」が、特にグッときた。
 などと思いながら、観ていたら、途中で一回宮田和弥がはけて、3人編成・森純太ボーカルで「あきらめたくない」をやる前に、森純太、「これ、3分の2、POTSHOTじゃねえ?」。確かに。
 なお、新曲も2曲披露した。というのも、バンドの現在進行形感があって、よかった。

5月23日(日)19:00 マカロニえんぴつ@横浜アリーナ/CSテレ朝チャンネル1・スカパー!オンデマンド

 全公演チケット完売の『マカロックツアーvol.11〜いま会いに行くをする篇〜』のツアー・ファイナルの横浜アリーナ(大阪公演が延期になったことによって、結果、ファイナルではなくなったが)。あとから追加公演として同日の昼公演が追加になり、昼夜二公演で行われた、その夜の方を観た。なお、CSのテレ朝チャンネル1とスカパー! オンデマンドで生配信もあり、つまりスカパー! と契約している人は無料で視聴可。スカパー! オンデマンドでは5月30日(日)23:59まで視聴可能だった。
 コロナ禍でライブ活動がままならない2020年にメジャー・デビューした新人の中で、もっとも躍進したバンド、と言っていいと思う。ここ1年の「テレビの音楽番組からひっぱりだこ」っぷりを見るに。途中のMCで、満員(コロナ禍なので半数だが)の客席にはっとり(Vo.Gt)が「マカロニえんぴつを初めて観る人!」と問いかけたら、すごい数の手が挙がった。最近ファンになったけど、コロナ禍でライブがなかったので行けなかった、今日ようやく観れた、という人が多かったんだと思う。あと、コロナ禍前にファンになっていたんだけど、その頃のキャパではチケットが即完すぎて取れなかった、今回は会場が大きいからようやく取れた、という人もいるか。
 バンド結成9年だそうで、9年かかってここまで来れました、というようなことを、アンコールではっとりは言っていた。感慨深そうだった。が、実は、ライブが始まった瞬間に、僕が思ったのは、それとはまったく逆のことだった。
 うわ、普通。
 という。「よくない」という意味の普通ではなくて、「横浜アリーナでやっているのがあたりまえに見える」という意味での普通だ。効果映像やスモーク、照明なんかの演出も、「気が利いてるけどやりすぎない」範囲の、抑えめなものだった。花道がステージ中央から伸びているとか、アリーナ後方にサブステージが設けられていてそっちでも演奏するとか、そういうような、大会場ならではの仕掛けも、特になかった。
 コロナ禍だからできなかった、というのもあるのかもしれないが、それ以上に、演奏そのもの、歌そのものの力だけで、どこまで伝えられるのかに挑んでいるように、僕には思えた。で、それ、見事なくらい成功していた。若くて、男の子も多いオーディエンスの、マカロニえんぴつの音楽への魅了されっぷり、みんなマスクをしていても、伝わってきたので。
 スケールでかい、このロック・バンド。

5月27日(木)19:00 Hump Back@東京国際フォーラム ホールA

 当初は2020年3月25日に行われるはずだったツアー『僕らの夢や足は止まらないツアー』の東京公演。新型コロナウイルス禍の影響で開催できず、いったん2020年7月7日パシフィコ横浜になったが、それもやれなくて、ツアーまるごと2021年に延期になった。で、三度目の正直で実現したのが今回。
 というわけで、あと東京初の大会場ライブだということもあって、ステージの上の3人も、オーディエンスも、終始喜びが爆発していて、そのさまがなんともグッとくる、とても感動的なライブだった。
 中央にギュッと寄った3人の立ち位置や、シンプル極まりないステージセットや、ないに等しい演出など、大会場にまったく合わせない、「ライブハウスと同じことをやります」というポリシーに貫かれた見せ方のライブだったことや、初期の名曲から2020年8月リリースの最新シングル「ティーンエイジサンセット」まで、聴きたい曲を次から次へとやってくれるセットリストだったことなど、うれしいポイントだらけのステージ。
 かつ、新曲も3曲披露。林萌々子(Vo.Gt.)が2021年の初日の出を見た時に(大阪城公園あたりまで見に行ったそうです)感じたことを歌った、という、その3曲の中でいちばん最後に歌った曲が、特に、どえらくよかった。中盤でやった、セックス・ピストルズみたいなイントロで始まって、サビで「おもろい大人になりたいわ/しょうもない大人になりたいわ」と3人で声を揃えて歌う新曲も、インパクトありました。

5月30日(日)17:00 神はサイコロを振らない@Zepp Tokyo

 2年ぶりのツアーの東京公演。このDI:GA ONLINEにライブレポを書きました。
DI:GA ONLINE : 神はサイコロを振らない。ステージと客席の間をエネルギーの塊が飛び交った豪快なライブ

5月31日(月)18:00/21:00 フラワーカンパニーズ×ヒグチアイ@新代田FEVER/Streaming+

 無観客配信だったり、有観客+配信だったり、配信オンリーのトークイベントだったり、対バンありだったり、なしだったり──と、いろんな形で新代田FEVERでのマンスリー・ライブ『月刊フラカン』を続けているフラワーカンパニーズ、5月と6月は、5月31日(月)・6月1日(火)という形で2デイズ開催。
 31日のゲストはヒグチアイで、1日のゲストは友部正人。それぞれ最後にフラカンとのセッションもあり。で、この31日はヒグチアイ・フラカン・最後のセッション、すべて配信もありで、翌日の1日は、友部正人は配信なしだけど、フラカンと最後のセッションは配信もありだった。
 ライブは18:00から、配信は生じゃなくて21:00から、というオペレーションだったのは、そのへんの事情のせいかもしれません。配信プラットフォームはStreaming+で、視聴券は2,500円、31日は6月6日(日)、1日は6月7日(月)の、23:59までアーカイブ視聴可能。
 ちなみに、フラカンとヒグチアイは、2019年11月28日(木)に、大阪ABCラジオの『よなよな』木曜日=鈴木淳史&原偉大の日に、この番組名物の「ラジオで生対バン」という、「無観客のスタジオでライブをやって生放送する」という企画で、共演している。ヒグチアイはその時にフラカンの「深夜高速」をカバーし、それ以降のライブでも歌っていた。
 で。最初は、ピアノ弾き語りのヒグチアイ。その「深夜高速」で始まり、「前線」「ラジオ体操」「縁」「東京にて」「mmm」で終わる、全6曲だった。
 「前線」「ラジオ体操」は昨年9月2日リリースのベストアルバム『樋口愛』の収録曲。「縁」は現在テレビ東京で放送中のドラマ『生きるとか死ぬとか父親とか』のエンディング・テーマ。「東京にて」は『樋口愛』のラストに新曲として収められていて、前述の『ラジオで生対バン』でも披露された曲。ラストの「mmm」は、ライブ映像はYouTubeに上がっているが音源化はまだの新曲。
 という、もう、「殺す気か!」と言いたくなるセットリストでした。どの曲も、一語一句が、すべてのメロディが、耳にグサグサ突き刺さってくる。なお、「mmm」は、「ハミング」と読みます。コロナ禍以降に書かれた歌で、なんでハミングなのかというと、「口を開けずに歌う歌」だからです。歌う前にヒグチアイ、「いつか『ラララ』で歌えるようになったらいいのにな、という気持ちもこめて書いた曲です」と紹介。
 という彼女のライブがあまりに強力だったせいか、フラカン鈴木圭介、「産声ひとつ」「ピースフル」「NUDE CORE ROCK'N'ROLL」と3曲やってからの最初のMCで、「よかったねえ。原曲を超えていくのは、なしにしてほしいね!」。あっはっは。でも、けっこう本音だったと思う。
 その後、「DO DO」「元少年の歌」「青い春」「こちら東京」「いましか」「チェスト」「YES,FUTURE」の全10曲を終えて、最後にヒグチアイとセッションを2曲。
 1曲目は「ひとりではやれない曲なので、バンドとやりたい」というわけで、ヒグチアイの「恋人よ」、2曲目はフラカンの「夜空の太陽」。「夜空の太陽」は、ヒグチアイ、ピアノを弾かずに、立って、ハンドマイクで歌いました。「初めてのハンドマイク」だったそうです。レア。
 では、次回、翌日の『月刊フラカンFEVER』vs友部正人編に続く。

  • 兵庫慎司

    TEXT

    兵庫慎司

    • ツイッター

SHARE

最新記事

もっと見る