兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第79回[2021年5月前半]編

コラム | 2021.05.19 17:00

イラスト:河井克夫

 音楽などのライター、兵庫慎司が、主に音楽、時々演劇やお笑いやスポーツなどの、自分が生で観たエンタテインメントに関して、短いレポを書いて半月に一回ペースでアップしていく連載の、79回目・2021年5月前半編です。新型コロナウイルス禍になった2020年2月後半以降は、「配信ライブを観て書くのもあり」というルールにしましたが、ここ数ヵ月は、ほぼ生で観ています。
 ただし、4月25日(日)から、東京・大阪・兵庫・京都が、三度目の「緊急事態宣言」に入ったので、次回からは生で観る機会、減るだろうなあ……と前回に書きましたが、意外にも、配信1本・生7本、という結果になりました。
 なお、4月後半のものが1本入っているのは、前回=4月後半編を、4月が終わらないうちに書いてアップする必要に迫られたので、その後に観た4月30日はこちらに入れた、という事情です。お気になさらず。別に誰も気にしないと思いますが。

4月30日(金)18:00 フラワーカンパニーズ(トークイベント)@新代田FEVER/Streamig+

 ここんとこ毎年恒例で、ボーカル鈴木圭介の誕生日に、ゲストを呼んでライブをやる等の催しを行った来たフラカン、今年はマンスリー・イベント『月刊フラカン』の一環として、新代田FEVERからトークイベント。当初は有観客で配信もありで行われるはずだったが、25日からの緊急事態宣言の発出を受けて、配信のみに変更になった。配信チケットは税込1,500円、プラットフォームはStreaming+で、5月6日(木)23:59までアーカイブ配信あり。
 で、その今年は、『TALK LIVE TO CELEBRATE KEISUKE’S BIRTHDAY〜鈴木圭介 魅力解剖〜』というタイトルで、メンバー3人のトーク、配信を観ているファンの書き込み、ミュージシャン仲間からのメッセージ等、みんなで寄ってたかってとにかく鈴木圭介を褒めちぎる、という趣旨だった。終始ニコニコとしつつも居心地悪そうで、時が経てば経つほど言葉少なになっていく圭介の表情が印象的だった。というか、「そりゃまあそうなるよなあ」と納得した。

5月1日(土)17:30 初恋(突然少年改め)@吉祥寺WARP

 突然少年は、この5月1日に渋谷クラブクアトロで自主企画ライブ『スタンディングスティックス』を昼夜二公演で、昼は4組、夜は2組のゲストを迎えて開催する予定だった。が、緊急事態宣言で中止、という事態を受けて、代わりに吉祥寺WARPを押さえてチケット当日券のみ・入場料ドリンク代込1000円でライブを決行。同時に、この日を皮切りにコロナ禍の間は名前を変え、「初恋」というバンド名で活動すること、先日脱退したドラム岩本斗尉に代わってピエール畳がサポートで加わることを発表した。タイトルは『初企画 いつもはじまり』。
 というわけで、クアトロの昼の公演に出演するはずだったラッパー、KMCがゲスト・ライブをやったあと、初恋が登場。なお、突然少年は、初代ドラマーの脱退(2019年10月)の後、一般募集等で集まった中から何人か選び、「東北はこのドラマー」「次の関西はこのドラマー」というふうに何本かずつツアーを回っていた時期があって、その頃にピエール畳も何本か叩いたそうだ。
 で、このピエール畳のドラム、よくてびっくりした。激しくて、ラウドで、スネアがジャストよりもほんのちょっとだけ前のめりな感じが、突然少年にとても合っていて……あ、突然少年じゃないか、初恋か。そのドラムの新しさによって、他の3人のパフォーマンスも、初々しくなった印象だった。
 ちなみに。ピエール瀧の人生(電気グルーヴの前身バンド)時代の芸名である「畳」と「ピエール」をくっつけて名乗っているんだから、書いていいと思うが、このピエール畳くん、ピエール瀧の甥っ子だそうです。『電気グルーヴのメロン牧場』の6巻で、ピエール瀧が「高3の甥っ子がドラムやってて、進路について相談されたから、Dragon Ashのサク(桜井誠)にうちに来て話してもらった」というトークをしているのだが、その子ですね。2014年当時で高3だから、今は24とか25か。確かに顔、若い頃の瀧さんに似てた。

5月3日(月・祝)10:40『VIVA LA ROCK 2021』3日目@さいたまスーパーアリーナ

 この『VIVA LA ROCK』と『JAPAN JAM 2021』の2本の春フェスは、緊急事態宣言中だが場所が東京都内ではない、国によって上限人数が「キャパの半分か上限5000人」と指定されたのはチケットを発売した後だから除外される、つまりルールとしては開催してよいにもかかわらず、一部マスコミなどから開催に否定的な声が上がっていた。ということもあって、どちらも、なんとしても1日は足を運ぼうと思っていた。
 で、まずVIVA LA ROCK、1日〜5日の5日間開催のうちの3日目に行った。この日私が観たアクトは以下。
 the telephones→Base Ball Bear→大宮セブン→Awesome City Club→スガ シカオ→Creepy Nuts→レキシ→藤井 風→ORANGE RANGE
 なお、GREAT STAGE・ULTRA STAGE・CAVE STAGEの3つのステージのうち、いちばん小さいCAVE STAGEのアクトをひとつも観てないのは、いつ行っても入場規制がかかっていたので途中であきらめたからです。
 電話ズ石毛輝が、全力のパフォーマンスをしながら、現在のライブハウスの危機的状況をMCで訴えたこと。大宮セブン、すゑひろがりず・タモンズ・囲碁将棋の後、GAGに電話ズが、ジェラードンにピエール中野が、マヂカルラブリーにCreepy Nutsが加わってネタをやったこと。Creepy Nutsが、この『VIVA LA ROCK』のセッション企画が発端でアルバムに入れたこと、このバージョンで津野米咲がギターを弾いていることを話してから「日曜日よりの使者」をプレイしたこと。ようやく初めて生で観れた藤井 風のステージが、やっぱり、いや、期待以上にとんでもねえものであったこと。
 などなど、観どころいっぱい、トピックいっぱいだったが、もっとも強く印象に残ったのは、オーディエンスのマナーのよさ。初日開催中のオフィシャルのツイートに、「座席に荷物を置いての場所取りはやめてください」というのがあって、つまりそういう困ったお客さんもいたということだけど、この3日目では全然見かけなかったし。自分が参加することでフェスを守っていくんだ、という気概を感じました。

5月5日(水・祝)10:30 『JAPAN JAM 2021』4日目(最終日)@千葉市蘇我スポーツ公園

 『JAPAN JAM 2021』、4日間のラストの日。自分が観たのは以下です。
 マカロニえんぴつ→Saucy Dog→04 Limited Sazabys→BiSH→yonigeと9mm Parabellum Bullet半分ずつ→クリープハイプ→Creepy Nuts→UVERworld→PEDROとBLUE ENCOUNT半分ずつ→宮本浩次
 以上。かなりの数を観てますね、こうして書いてみると。『VIVA LA ROCK』もそうだったが、ステージ3つが近くて移動時間がかからないし、コロナ禍での開催なので酒飲んでフードエリアでダラダラしたりする余地がない、となると、こういうふうに「とにかくひたすら観る」スケジュールになるのですね。
 今年のこのフェス、初日の終了後に、某民放テレビのワイドショーが開催に批判的な報道をした。数人のマナーの悪い参加者にスポットを当てて、それをフェス全体のことのように扱う偏向報道だった。非常に腹が立った。ということもあって、『VIVA LA ROCK』以上に、運営側も参加者もアーティストも「このフェスが世間の槍玉に上がっていること」と、「その中で無事に問題なく開催を終えなければならないこと」に自覚的であることを、現場で強く感じた。
 ステージの転換のたびに運営スタッフがマナーについて呼びかけ(影アナじゃなくて毎回ステージに出てきた)、出演アーティストは皆、この状況の中で参加を決めたオーディエンスへの感謝と、自分たちも覚悟を持ってこのステージに立っていることを言葉にしていた。そんな、それぞれの真剣さに、とても胸を打たれるものがあった。
 で、その末にステージに上がった、4日間の大トリ=宮本浩次。「エブリバディ! おじさんうれしくて気が狂いそうです! ようこそ!!」という第一声から始まる、すさまじいライブをやって、場を全部持っていった。衝撃的だった。30年くらいこの人のライブを観続けている身でもそうだったんだから、ここで初めて観た人、かなりショックを受けたと思う。本当に無双、今の宮本。

5月8日(土)17:30 Dear Chambers ゲスト:コールスロー、INKYMAP@代官山UNIT

 4月にこのDI:GA ONLINEでインタビューした(こちらです ≫ Dear Chambersがバンドの今を語る!『ぼくらの遊び場TOUR 2021-Spring-』ツアーファイナルに盟友・INKYMAP、コールスローが出演!)3ピース・バンド、Dear Chambersのツアー・ファイナル。ゲストでコールスローとINKYMAPも出演。
 で。このDear Chambers、初めてライブ観たんだけど、いい! ごくオーソドックスなライブハウス・バンドなサウンド・プロダクト(ざっくり言うと今のパンク)なんだけど、メロディがめったやたらと際立っていて、強く耳に残る。というのは、音源を聴いた時点でわかっていたが、ライブにおける再現度が高い、というか音源以上にグッとくる。特にモリヤマリョウタの歌、声質等も含めて鋭角に耳に刺さる。すぐまたライブを観たくなった。
 あとモリヤマリョウタ、インタビューの時まで長髪だったのを、ばっさり切っていたが、うん、その方が男前ですね。と、素直に思いました。

5月11日(火)18:00 四星球×初恋(突然少年改め)@渋谷CYCLONE

 『SHIBUYA CYCLONE Pre.岡嶋孝明46回目の残念な日 day2』というタイトルの2デイズイベントの1日目。このハコのチーフPAであり、系列店であるスタジオ=rainford studioのエンジニアでもある岡嶋孝明氏が、レコーディング等で付き合いのあるバンドを集めて行ったバースデイ・イベント、ということです。岡嶋氏、徳島出身で、今も徳島在住の四星球とはその頃からの付き合いであることが、MCでわかりました。
 初恋は、「初恋」になってからは、5月1日以来2本目のライブ。まだ初々しさ全開、ピエール畳の前のめりさも全開で、今回も、観ていてとても気分がいいステージだった。
 そして四星球は、この日はゆるキャラ縛りで、ボーカル康雄=すだちくん・ギターまさやん=せんとくん・ベースU太=くまモン・ドラムモリス=なぜかアジャ・コングで登場。コロナ禍に負けない熱く楽しいステージを展開したのだが、その中盤で、アクシデントが発生した。
 曲の間奏でまさやん、ギターを弾きながらステージ前の柵の上を歩き始める。隙あらばこういうことをやる人で、以前も、東京キネマ倶楽部の2Fの柵の外側を歩いて一周しながらギターを弾いているのを目撃したことがある。「落ちたらどうすんだ! あんたの身が危ないだけじゃなくて、下のお客さんが怪我するだろうが!」とイベンターの気持ちになって憤ったのを覚えています。
 で、その時は無事だったのだが、この日は無事じゃなかった。途中で足を踏み外し、柵をまたぐ形で落下、バーに股間を打ちつけてしまったのだ。痛い。これは痛い。当然悶絶、にもかかわらずギターを弾く手を休めないまさやんだったが、顔がみるみる真っ白になっていき、次に、だんだん目が小さくなっていく。
 そのさまに、本気で心配になりました。MCで康雄は、「これが終わったらそのまま九州に行きます」と言っていたし、機材車の中で息絶えたりしないかしら、と。5月13日(木)の長崎と14日(金)の大分、無事に行われたことを、後日ツイートで確認して、ホッとしました。

5月14日(金)18:30 サニーデイ・サービス@LINE CUBE SHIBUYA

 2020年1月にドラマー大工原幹雄が正式メンバーとして加入、ニュー・アルバム『いいね!』をリリースし、5月から7月までかけて、4年ぶりのツアー(13本)を回る、東京は2015年3月以来のLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)──というはずだったが、コロナ禍で1年延期、ようやく実現したのがこの日。1年前の予定では、本来はこのLINE CUBE SHIBUYAが1本目だったが、結果、ツアーのファイナルとして行うことになった。
 しかし、5月11日(火)で終わる予定だった緊急事態宣言が延長される、ということで、5月8日(土)の時点で、バンドのオフィシャルアカウントで「現在、開催可否を関係各所と協議中です」とツイートされた。その後、10日(月)に「国および都より開催を認められたため、予定通り開催いたします」と発表。
 というわけで、寸前までどうなるかわからなかっただけに、曽我部恵一、曲の合間に「今日、やれてよかった。本当によかった」と、何度も口にしながらの、本編19曲・アンコール2曲・Wアンコール2曲の全23曲だった。最後の頃はもう、落涙寸前まで感極まっているように見えた。
 で、観ているこっちも、何度も感無量になる時間だった。ようやく生で聴けた『いいね!』の曲が、どれもすばらしかったこと。大工原幹雄のドラム、正式メンバーのオファーをしたのがよくわかるすさまじさで、サニーデイを違うバンドに生まれ変わらせていたこと。なので、「baby blue」「恋におちたら」「スロウライダー」の三連発から始まって、過去の名曲もいっぱいやったライブだったけど、「他の曲ももっと聴きたい、この人のドラムで!」と思ったこと、などなど。
 何か、観ながら、リキッドルーム(当時は新宿)での解散ライブ(2000年12月14日(木))のことを思い出したりした。つくづく、行ってよかった。

5月16日(日)17:30 Calmera×きいやま商店@代官山UNIT

 5月12日(水)にニューアルバム『誰そ彼レゾナンス』をリリースしたばかりのCalmeraと、4月28日(水)にミニアルバム『アカサタナ』をリリースしたばかりのきいやま商店による『リリース記念 誰そ彼アカサタナLIVE』。
 最初にきいやま商店、次にCalmera、アンコールで合体バンド「カルメラ商店」でセッション、なのかな、と思ったら、違った。一部きいやま商店・二部Calmera・三部「カルメラ商店」・アンコールも「カルメラ商店」、という、ボリュームみっちりな構成。
 しかも、きいやま商店でも「カルメラ商店」でも、きいやま商店のみなさんがボケを連発しつつしゃべりまくったり、なかなか曲に入らなかったり。なので、尺が伸びる。コロナ禍なので終演時間が決まっている中、なかなかスリリングな、そして大笑いなライブだった。
 にしても、Calmera、メンバーみんな表現力が豊かで、各楽器の音を耳で追うのが本当に楽しい。ライブで酒を飲めないの、もう慣れているつもりだったが、そんな音の気持ちよさにやられて、「ああ、飲みたい! 今飲みたい!」と思った、この日は久々に。

  • 兵庫慎司

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    兵庫慎司

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