兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第55回[イレギュラーで5月中旬]編

コラム | 2020.05.26 16:00

イラスト:河井克夫

 音楽などのライター、兵庫慎司が、ライブやフェスやイベント、時には演劇やお笑いやプロレスなど、つまりすべての「自分が生で観たやつ」についてひとことレポを書き、半月に一回アップしていく連載です。2020年2月末以降は、新型コロナウィルス禍でライブが行えない世の中になってしまっているので、「生で行われた配信ライブを観て書く」という内容にして、続けています。
 で。いつも、その月が半分終わるごとに書くので、毎月5日頃と20日頃の更新になるのですが、すみません、今回、イレギュラーです。
 前回のこの連載、5月13日・14日・16日に観た配信ライブについて書いたのですが、実は、15日に観たやつもありました。書くのを忘れていたのです。あるのかそんなこと。あるのが自分の恐ろしいところです。観た日が16日以降だったと勘違いしていました。その勘違いに、今、気がきました。
 でもこれ、来月まで待つのはイヤだ、なので先にアップしてもらおう、というわけです。で、その1本だけ上げるのもなんなので、5月22日に観た配信ライブも、合わせて書きました。

5月15日(金) 19:30 ザ・カスタネッツ @ 下北沢CLUB Que

 これです、日を誤って記憶していて、レポを飛ばしてしまったの。自分で自分の脳のバグりっぷりに慄然とします。
 えーと、ザ・カスタネッツ、長年のホームグラウンドであるCLUB Queで、この日ワンマンを行うはずだったが延期、その代わりに無観客ライブを行って、CLUB QueのYouTubeチャンネルで無料生配信をする、という企画。
 ただし。こういう「ライブが飛んだ日にその会場から無観客生配信ライブ」って、コロナ禍でライブができなくなった最初の頃は頻繁に行われていたが、3月が終わる頃から、そもそもメンバーやスタッフが同じ場所に集まること自体がよくない、というふうになってきて、世の中全体的に生の配信ライブは、「ひとりで弾き語り」が主になっている。なのにバンドで、CLUB Queから。どうするの? 
 CLUB Queのすべてのスペースを使って、メンバー4人ができる限り離れた位置にスタンバイ、映像はひとりカメラ1個ずつで中継。なので、メンバー4人がワンフレームに入る映像は一切ないけど、同じ場所にはいるので生で演奏できる、という方法だった。スタッフはほぼゼロに近い状態で(たぶんPAさんだけ)、MCでCLUB Queの二位さんも出演したが、彼は別の場所にいてリモート出演、という徹底ぶりだった。なるほどー。
 というわけで、久々にバンドの生の演奏を、リアルタイムで楽しませてもらった。ドラム阿部耕作は白衣に看護師帽にサングラス姿、他の3人はいつもどおり。
 ライブは二部制。一部は「時間」「スクーター・トゥ・スクーター」「中途半端な僕だから」「あどけない話」「ラプソディー」の5曲。で、いったん物販の告知等の時間をはさんで、二位さんと一緒にMC→1999年9月29日にCLUB Queでワンマンをやった時の映像が発掘された、ということで、PC画面で画を送ったりしながら、それを観る(曲は「モノクローム」だった)──。
 というブロックを経てから、二部は「うつつの世界」「これが何か分かるかい?」「モノクローム」「変わりゆくいまよ」「スルー」の5曲、そしてアンコールで「だいじょうぶ」。
 今さら言うこっちゃないが、つくづく名曲だらけ。何このメロディと歌詞の輝き、そしてタイトでムダのないバンド・サウンド。初めてライブ観てから四半世紀は経っているが、それでもそう思う。
 この日披露された11曲のうち、2013年の「ラプソディー」と2002年の「スルー」以外、つまり90年代の9曲は、Spotifyやapple music等の定額配信サイトで聴けますので、ご存じない方、ぜひ聴いてみてください。知っているけどしばらくカスタネッツに触れていなかった、という方もぜひ。
 あと、「次は近々の距離で、ラブ・ディスタンスで、お会いしましょう!」という、ボーカル牧野元の本編終わりでのMC、笑顔で言っていたけど、さすがに切実さを感じた。

5月22日(金) 20:00 曽我部恵一 @ 下北沢LIVE HAUS

 2020年4月オープンの予定だったが、コロナ禍でそれが遅れているライブハウス、LIVE HAUS(店長のスガナミユウの、コロナ禍以降の誰よりも精力的な活動に関してご存知ない方は、ぜひ調べてみてください)が立ち上げた配信イベント[LIVEHAUS SoundCHECK]に曽我部恵一が登場。プラットフォームはZAIKOで、500円でした。
 で。この連載、「生でライブやって生で配信しているやつを生で観る、それ以外はダメ」というのを自分内ルールにしているのですが、このライブは、生ではありませんでした。でも、あまりにもよかったので、書きます。
 映像作家の大石規湖が、LIVE HAUSでギター1本で歌う曽我部を、カメラ一台・オフマイク1本で撮影したもの。冒頭、曽我部が最近下北沢にオープンしたカレーの店『八月』&レコード店『PINK MOON RECORDS』が映り、そのすぐそばにあるLIVE HAUSに自転車で来た曽我部が、店に入って行くところから始まる。
「バカばっかり」「6月の歌」(かもめ児童合唱団に提供した曲)「キラキラ!」「おとなになんかならないで」「満員電車は走る」「シモーヌ」「LOVE-SICK」「STARS」「春の嵐」というセットリストだけで、曽我部ファンでこのライブを観ていない人は、「うわ、マジか!」となると思う。私、なりました、1曲1曲が始まるたびに。緩急の「緩」と「急」しかありません、みたいな選曲。言うまでもなく、今のこの世の中の状態だからこうした、というのも大きいと思う。
 曽我部、最初から「鬼気迫る」というのはこういうことを言うんだな、という表情をしている。で、最初からバケモンみたいに声が出る。1曲目の「バカばっかり」でものすごいシャウトを響かせたのをはじめ、3曲目「キラキラ!」や、 5曲目「満員電車は走る」でも叫びまくり。6曲目の「シモーヌ」では眼鏡がずれるのが気になって外す。この曲の間奏、レッド・ツェッペリンの「天国の階段」のオマージュになっている、のは前からだけど、アコースティック・ギターがぶっ壊れそうな勢いでかき鳴らす。9曲目=ラスト「春の嵐」では、この近辺の、下北沢の雑踏の映像がインサートされた。
 うわあ、すごいもん観ちゃった。というのが、とにかく、率直な感想でした。曽我部恵一のライブも、四半世紀くらい観ているけど、それでもそう感じた。

  • 兵庫慎司

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    兵庫慎司

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