2016年5月31日(火) 赤坂BLITZ
Live Tour 2016「RockでなしRockn’Roll 2016 ~海賊大祝祭~」
REPORT:兵庫慎司
PHOTO:緒車寿一
新しいバンド、というかバンドのような総勢11名の大集団=「海賊」で作った4年ぶりのニューアルバム『海賊盤』のリリース・ツアーのファイナル。ギター:町田昌弘、ベース:TOMOTOMO club(THE BEACHES/THE JERRY LEE PHANTOM)、ドラム:マシータ、ギターとかコーラスとか色々:ヨースケ@HOMEが基本メンバー。
で、5曲目「MAD/MUD」で、アルバムの同曲でしゃべっているDJ MUD(平床政治/Hermann H.&The Pacemakers)が登場ししゃべりまくったり、12曲目「犬と猫」以降はその平床と岡本洋平(Hermann H.&The Pacemakers)が加わったり、14曲目「大海賊時代」からはウルフ(Hermann H.&The Pacemakers)が現れて大漁旗のようなフラッグを振り回したり、アンコールの最後の「ビクターズ」では「次の歌、僕が出ないキーのところがあるので」とあずままどか(ヴォーカル、コーラス)を呼びこんだり──と、ライブが進むに従って「海賊」のメンバーが増えていく構成。
そして、そのように曲が進んでいくにしたがって、ステージから放たれる熱や歓喜や多幸感などが、もうどんどんうなぎのぼりに上がっていく、そういうライブだった。
『海賊盤』のレコーディングの主要メンバー(と、のちのMCで説明)である5人で最初にステージに現れた時、中村一義は全員を呼んで円陣を組み、気合いを入れてから1曲目「スカイライン」に突入した。最初のMCでは、「今日のライブではみなさんのクラップ、コーラス、シャウトが重要になってくる」と、オーディエンスの参加をうながした(で、みんな熱くそれに応えた)。
「聴いてくれる人がいないと音楽じゃない」と、オーディエンスへ感謝の意を伝えた瞬間もあった。「来年でデビュー20周年。デビューの時はかなりジャックナイフだったけど、今はバターナイフ」と、千原ジュニアおなじみのフレーズを借りて、フロアの笑いを誘ったりもした。中盤の『海賊盤』楽曲連発ブロックの「いつだってそうさ」の時は、この曲はシンセのパートが大事なんだけど今日はいない、だからみんなで歌ってほしい、と呼びかけ、まっちぃのギターに合わせて練習したのちに曲に突入し、でっかいシンガロングがBLITZを包んだ。というように、とにかくステージの上と下が近い。そこに距離がない。
平床政治&岡本洋平が登場して「犬と猫」をやる前には、「こんなみんなでこの曲をやるとは、デビューの頃は思ってなかった。ひとりで部屋で聴いてた人もいるだろ?俺もひとりで部屋で作ったんだけど、今日は騒ぐぞ!」と、しんみりしたりテンション上がったり、忙しいMCっぷり。
本編ラストの「キャノンボール」に入る時には、「死んだように生きてる奴はいねえか!俺は生きるぞ!」と絶叫。曲を終え、いったんひっこみ、アンコールを求めるハンドクラップに応えて再度現れた時の第一声は、「今日の『キャノン』、泣くわ!ありがとう!」だった。
どうでしょう、こんな中村一義のライブ。すばらしくないわけないでしょう、こんなエモーショナルなの。
それからもうひとつ。
まっちぃのバンジョーが響く「スカイライン」、マシータのレッド・ツェッペリン「ロックン・ロール」そのまんまのドラムイントロから突入した「ロックンロール」、間奏でTOMOTOMO clubがバキバキのスラップをキメた「ロザリオ」。この頭3曲を観終わった時点で「ロックンロール・バンドだ!」と、強く思った。で、中村一義のライブを観てそんなことを思ったのは、たぶん初めてだ、と気がついた。
彼は以前も100sというバンドをやっていたわけで、しかもその時は中村一義という名前を消して自分も100sの一員となっていたわけで、だから「バンドだ!」と思ったことはあった、ライブを観て。でも「ロックンロール・バンドだ!」という感じではなかった。間違いなくロック・バンドではあったけど。でも海賊は、ロックンロール・バンドだった。どう違うんだ、と言われると、説明がとてもむずかしいのだが、でもそう感じた、この日のステージを観て。
最初はプライマル・スクリームとかが好きで、そういう音楽をやりたくてバンドを組んだけど、全然うまくいかなくてすぐあきらめた、そして自宅録音でひとりで音楽を作るようになった──と、昔、中村一義は、インタビューで言っていた。その頃彼がやりたかったバンドって、もしかして、今やっている、こういうバンドだったんじゃないかな、と、ふと思った。