エキセントリックなファッショニスタとして他の追随を許さないcari≠gariのヴォーカリストとしても活躍中の石井秀仁のソロ・ユニット、GOATBEDをみなさんはご存知だろうか。ゲーム音楽にアニメの主題歌、アイドルのプロデュースや最近ではリミキサーとしても鬼才を発揮するGOATBEDが、年内最後(?)のワンマン<Se Tag Aya-Re:Public GB@Publicity>を8月30日、31日に東京・世田谷パブリックシアターにて2デイズ開催する。これまでの配布音源などをリアレンジしてまとめた最新作『FANDEATH』(会場限定発売)では、ストイックに作られたミニマムかつエレクトロなサウンドに、そこはかとなくノアールでロマンティックで妖艶な匂いを漂わせ、ときにはそれが歌モノにもなるという独自のスタンスでテクノなダンスミュージックを展開していた彼ら。音源だけではなくビジュアル、ライブに至るまでトータルアートとして世界観を表現していくことを得意とするGOATBEDが、今回のワンマンではどんなものを見せてくれるのか。石井に話を聞いた。
インタビュー:東條祥恵
──今回は石井さんのたっての希望で、世田谷パブリックシアターという場所ありきでこのワンマンライブを決めたそうですね。
そうです。ライブハウスはどこも一緒じゃないですか。GOATBEDはバンドじゃないし、ステージに2人しかいないので、見てて面白くないんですよね。ま、見たことないんで想像ですけど(笑)。きっとそうだと思うんです。2人だから(観客が)見るところが圧倒的に少ないんですよ。
──VJ見つつも、お二人のパフォーマンスを追う感じになりますからね。
そうなんですよ!だから(これをやって)アイドルとかソロの人の気持ちがすごいわかったんです。“なんでこいつらみんな俺を見てるんだ?”って。これまでバンドばかりやってきたら、目線が自分に集まる感じが結構衝撃で。全員と目があうんで(苦笑)。お客さんもね、俺を見たい訳じゃないんだろうけど。
──イヤイヤ、見たい人もいますから。
でも、見るしかないよねっていうところもあるんだと思うんです。見る要素が他にないと。しかも、GOATBEDは特別なパフォーマンスをする訳でもないので。トラックも基本的にはシーケンスもので、録音されたものがPCから再生されてるだけだから、ほとんど何も変わらないんですよ。これまでは年間数本しかライブをやらなかったのでそんなには気にならなかったんですけど、最近はツアーをやったりライブの本数も多くなってきたので、自分でも何というか……簡単にいうとそういうのに飽きてきたというか(一同笑)。それで、ちょっと変わった会場でやりたいなと思って。自分はよく(世田谷パブリックシアターに)観にきたりするんですね。
──へー。それは、観劇で?
舞踏みたいなものばっかですね。それで(ここで)できないんですかね?と相談したら、できることになったんです。
──なんでも、1年越しで審査に通ってOKを頂いたらしいじゃないですか?
おぉー。審査ですか。フハハッ(笑)。それはよかった(微笑)。バンドじゃなかったからよかったんでしょうね。きっと。
──石井さんはこの会場のどこに惹かれたんですか?
会場自体が普通のライブハウスとは全然違いますから。自分の身近にいるようなミュージシャンとかバンドは絶対にやらない場所じゃないですか?なので、いいかなと。あと、演出とかもこの会場ならではのことができそうなので。
──いま考えてる構想を聞かせてもらってもいいですか?
滅多にできる場所ではないので、これまでとはすべてを変えていこうかなと思ってます。例えば、ステージがないとか。
──それはどういうことですか?
最前列のお客さんと舞台の高さを一緒にするんです。それを、ステージがないと捉えるのか、最前列のお客さんがステージにいると捉えるのか。どっちか分かんないですけど(笑)。もちろん柵とかもないので、最前列のお客さんはいつでもこちらに入ってくることもできますし。そういう根性があったらいつでも来いよと。根性があれば別に機材のボタン押しちゃったりしてもいいですよ、と。
──面白いですね(微笑)。観客が出演者になってもいいんだぞと。その根性があれば、ってというところが石井さんらしい。
そうですか?あとは、普段は2人しかいませんけど、この日はパフォーマンス的なものも入れたいなというのも考えていて。自分たちがやる訳じゃないですよ?(笑)。せっかくなのでゲストを呼んでというのも考えてます。
──今回はGOATBED初の座席指定ワンマンとなる訳ですけど。お客さんは立ってもいいんですか?
立っていいですよ。2階、3階席は立っちゃダメですけど。
──さらにGOATBED初として、今回は車いすスペースに加え、託児サービスを案内していたのも新鮮でしたが。
託児サービスがあるライブって、よくないですか?実際に利用する人がいるのかどうか分かんないですけど(一同笑)
──えっ!お客さんから要望があって始めたんじゃないんですか?
ではないすね。せっかく(会場の施設としてあるもの)だからそこは打ち出そうと。それだけです(一同爆笑)。オプションとして。
──こんなものもあるよとアピールしておこうと(笑)。CD配布もやるんですよね?
新しい音源を2日間とも配布します。最近は毎回ワンマンやるたびに新曲を配布してて、それが定番みたいになってるんで。
──CDを配布しだしたきっかけは?
いまはCDが売れないじゃないですか。そういうご時世ですから。自分ら規模でCDを出しても、売れる枚数は限られてるんですね。なので、ワンマンライブをやって。そこに集まったお客さんに無料であげれば、少なくとも5〜600枚は世の中に流通することになるので、それで十分かなと(微笑)。
──これならGOATBEDを聴きたい人の手元に確実に届けられますもんね。
そうです(微笑)。
──配布CDに収録する曲は、その日のために作ることが多いんですか?
それ用に作りますね。いまのGOATBEDのスタンスは、配布した曲というのがセットリストの中心になっていくというパターンなんで。だから(配布CDは)シングルと思って作ってます。シングルを作って、それをあげてる感覚です。だから、アウトテイクとかそういうものではまったくないんですよ。
──主力作品をプレゼントしてるということ?
ええ。思いっきりメインを(笑)。だから、いまはほとんどの曲が正規のアルバムに入ってないものでワンマンをやってる状態です(笑)。
──ということは、配布音源を集めた『FANDEATH』はいわばいまのGOATBEDのベスト盤であり、ライブの主要曲たちを網羅した作品でもあった訳ですね。
そうです。常にセットリストに入ってる曲なので。ライブで配布してきた曲の寄せ集めですけど、曲によっては録り直したり、全部いじってはいます。ライブで配布するCDというのは、ほとんどが1曲(のみ収録)ですから。その時々、1曲入魂で作る訳ですよ。それが10数曲並んだ作品なので、普通のアルバムよりも逆に力は入ったものになってるんじゃないかという気はちょっとしますけど。
──収録曲のなかには歌モノテクノもあれば。
逆に歌がまったくないものもあって。多くの人に聴いてもらうものというよりは、ライブに毎回来てる人、GOATBEDを理解してくれてる人たちに聴いてもらうのが一番いい感じがしますけどね。
──これがお口に合う方は、ぜひライブにも足を運んでいただいて。
これを突然聴いてお口に合う方がいらっしゃったら、その方はよほどハードコアな方だと思いますけどね(笑)。歌がないものがあるという時点で、かなり難しい要素がアルバムの中にはあると思うので。作ってる自分はボーカリストなのに(笑)。
──そもそも、石井さん何屋さんなんですか?
何屋さんなんでしょうね(笑)。元々歌を歌ったりするのは好きじゃなかったんだけど、しかたなくヴォーカルになってしまって(笑)。その結果がようやくいい意味で、いま形になってきてるんじゃないでしょうか。
──そうして、GOATBEDでは石井さんが自分の歌も一つの素材として扱いながら音楽、ビジュアル、ライブなど全てをプロデュースして自身の美学を表現するというところに行き着いた。
いまおっしゃってくれたように、トータルで見せたいというのはすごく自分のなかにはあるんです。それは、自分が聴いてきた音楽、影響を受けたものが全部そういうものだからだと思います。いまの、配信みたいなものにはいつまでも慣れないというか。この手の音楽をやる人はそういうものに真っ先に飛びつきそうじゃないですか?だけど、自分はいつまでも箱(パッケージ)に入れるものを作りたい。そこは変わらないですね。
──それらを含めて、一つの音楽の表現が成り立つという感覚なんですよね。きっと。
そうですね。スタイルじゃないですか。音楽って。ヒップホップをやってる人はあのファッションも含めてだし、ヴィジュアル系と呼ばれる人も、音楽とああいう見た目がちゃんとパッケージになっていないと成り立たない音楽だと思うんです。だけど、それが配信とかになると、音だけ、情報だけになるから。自分はそれがいまだにしっくりこないです。
──『FANDEATH』のジャケットのアートワークのコンセプトはどんなものだったんですか?
これがまたどうしようもないコンセプトで(笑)。撮影のスケジュールがタイトで。アイデアもない、衣装もない状態で撮影しなきゃいけないスケジュールで。そこでどんな写真を撮るかということで、出てきたのがモトリー・クルーとローリング・ストーンズの有名なジャケット。“それだ”と(微笑)。やってる音楽のジャンルとすごい遠い感じがしていいじゃないですか(笑)。
──テクノに肉体ジャケットですからね(笑)。
そこも含めて面白いかなと。
──このジャケットもそうですが、アートワークがモノトーンで統一されたものが多いのは、何か理由があるんですか?
写真も含め、そういうものが好きだというのはあります。あとは、世界観が作りやすいんですよ。何をやってもモノトーンにすることによって統一感が出てくるので。写真もいつもカラーで撮ったりするんですが、最終的にはモノクロにしちゃうんです(微笑)。あとは、自分がやってるような音楽って、基本的には逆じゃないですか?モノトーンとは逆な方向で、キラキラというかギラギラしたものが多いですから。自分はそういうものが全然好きじゃないというのもありますね。
──GOATBEDはこうして100%石井さん発信で作られていく訳ですけど。これに対して、cali≠gariには石井さんのDNAはどのくらい注入されてるんですかね。
どのくらいでしょう。相当少ないんじゃないですかね。自分が自由にやっていいところ以外は一切何もいわないですから。何も知らないし。cari≠gaiに関しては全部(桜井)青さん(Gt,Vo)が決めてるんで。それに自分も村井(研次郎/Bs)君もOKって(微笑)。
──その分、こっちは石井さんが引っ張ると。
こっちも誰かいってくれる人がいたらいいんですけど。
──えぇー(苦笑)。そうなんですか?
人の意見を聞きたいタイプなんですよ。最近は。さすがに音楽を作るときはそういう訳にはいかないですけど、アイデアが欲しいなというとき。例えばライブのタイトルを考えるときとか。そういうのを自分で考えるのもだんだんかったるくなってきたんで(笑)。そういうときは、すぐ人に頼りたくなりますね。誰かアイデアいってくれないかなって。
──今回の<Se Tag Aya—Re:Public GB>は石井さんが考えたものですか?
いや、人に頼りました(一同笑)。いろいろみなさんからアイデアをもらって。それを自分でくっつけてできたものがこれでした。
──では、GOATBEDのライブに関してなんですが。お客さんにどんな風に楽しんでもらえたら、石井さんはハッピーなテンションになれるんでしょうか。
不自由な感じも嫌だし、好きなようにしてもらうのが一番いいですけど。いつもGOATBEDのライブはシーンとしてるんですね。全然嫌じゃないんですけど、僕からするとそれが面白いから、そういうことをいい続けてたんですね。“逆にどうやったらこんなに静かにできるんだ”って。
──はははっ(笑)。
そうやっていじって。そういうタイトルの曲まで作ったりしたんですよ。「踊れない症候群」という(笑)。でも、GOATBEDのお客さんは素直な感性の方が多いんですかね。それをダイレクトに受け取る方が多くて。全然好きにしてくれていいんだけど、逆にシーンとされてしまって。シーンとしてるなかで“秀仁!”って叫ばれても俺が恥ずかしいですから(笑)。いまは音がないと、自分が鼻をすすったりする音も思いっきり聞こえるような感じですね。
──こんなダンスミュージックなのに場内はシーンとしているというのは意外ですね。
なのに、今回やる会場で最前列のチケットを他とは別に売ってみたんですよ。そうしたら、それにお客さんが殺到する訳ですよ。だから、おまえらなんなのって(笑)。当日が怖いですよ。本当にすごい近い距離感で真面目な顔で棒立ちされてたらどうしようって。どうなるのか、そこも楽しみですね(微笑)。
──では、ライブに向けての抱負を一言お願いします。
初めて見る人にちょうどいいんじゃないかなと思いますね。会場も普段ロックバンドを見ている方々は足を運ばない場所でしょうし。滅多に見られるところではないので。GOATBEDもそうですけど、今回はトータルで。会場もこみこみで楽しめると思いますよ。
──GOATBEDとしては、この公演が今年最後のライブになるんですか?
ワンマンはこの2daysが最後ですね。あとは、イベントに出たりというのはあるとは思いますけど。まあ、誘われればですけどね。いまのところ誘われてないので(苦笑)。
■GOATBED「ROSE&GUN」ライブ映像