インタビュー/兵庫慎司
《「このストーリーはフィクションです 実際の団体や人物と関係ないです」と 今日の失敗や腹立ったエピソードにそういった言葉を貼り付けて眠る 「コマーシャル上の演出ですので実際は飛びやしませんし爆発もしません」って 世界情勢の映像のどっかにそんなユーモアの一つを探し求めたり》
という、耳に飛び込んできた瞬間にハッとさせられる、強烈な歌い出しのニューシングル『ルポルタージュ』を11月22日にリリース、12月から自身最大本数・最大規模の全国ツアーに出る高橋 優。この曲のこと、現在の自身のこと、そこに辿り着くまでのこと、そしてもちろんツアーのことについて話していただいた。
時々悪いクセのように、変な曲が出てきちゃうというか(笑)
──「ルポルタージュ」、すごい曲ですね。
高橋 優(以下省略)あ、そうですか?ドラマの台本をいただいて、読ませてもらってから曲を書いた感じではあるんですけど。ドラマの制作サイドに、僕の曲をよく聴いてくださってる方がいて、「今回はもう優さんがやりたいようにやってください、優さんらしい曲がいいです」ぐらいの感じだったんですよ。だったら、せっかくいただいた機会なので、ここ最近あんまり出してなかった自分の部分というのを曲にしてみようかな、という感じで書いていきました。
ここ最近で言うと、2017ABC夏の高校野球応援ソング/「熱闘甲子園」テーマソングの「虹」という曲を歌わせていただいたり、その前は『クレヨンしんちゃん』の映画版の主題歌(「ロードムービー」)を歌わせていただいたり。もうちょっと前だと、わりとシングルはバラードが続いていたり。「明日はきっといい日になる」っていう楽曲が、CMの曲になっていたり(ダイハツ新型「CAST」CMソング)。
自分で言うのも変ですけど、ちょっと爽やかというか、ほっこりしているような自分を表現するようなシングルが多かったんですね。でも僕自身、高橋 優としてメジャー・デビューさせてもらったのは、もう7年前なんですけど、その頃は、母親が子供に暴力をふるうところを歌っている歌だったり、教師が女子学生に暴行を加えていることを歌っている歌だったり、ドラッグをやっている有名人のことを歌う歌だったりを歌って、デビューしていたので。
そういう方の自分を久しく出していなかったな、と。で、「優さんらしい曲を」と言われた時に、じゃあデビュー当時の頃のような曲をやりたい、ここ最近のものとはかなりかけ離れたものにはなってしまうけれども、社会に対して何か自分が思うことをそのまま箇条書きするような楽曲を作ってみよう、という思いで書きました。
──そういう曲をしばらく書かなくなっていたというのは?
音楽を作る上では、ただただ自分が書きたいものだけを書くっていうことって、いつでもやれるんですけど、求められて書かせてもらえる機会って、貴重なんですね。ここ2年間くらいは、タイアップのお話をいただいて、「バラードがいいです」とか「『福笑い』みたいな曲がいいです」とか、言われることもあって。
それに対して「えっ?」てことではなく、その人たちにいちばん喜んでもらえるようなもので、自分の中にもある曲を書いていこう、っていう意識だったんです。それがわりと、ヒリヒリしたタイプの曲ではなく、バラードだったり、言葉もちょっと抽象的なものが多かったり、壮大なもの……「愛」とかがテーマになっていることが多かっただけで。
そういうものを求め続けられれば、しばらくそういうものだけを書いていくことも、できなくはないと思ってるんですけど、時々悪いクセのように、変な曲が出てきちゃうというか(笑)。
この間のアルバム(『来し方行く末』)の1曲目のタイトルが「Mr.Complex Man」っていう歌で、自分のことか嫌いだ、心の中で全員に中指を立てて生きている、みたいなことを急に言いだしたりとか。そういう部分が、今回のこの「ルポルタージュ」っていう曲では出てきたのかな、っていう感じですかね。
──テレビ画面の注釈文を、Aメロの歌い出しに使うというアイディアは?
あの、曲を書く時に「下りてきた」みたいなことをおっしゃる方、いるじゃないですか。僕、そういう経験したことなくて。「下りてきた」っていうよりは、自分が見えてるものを、見逃しちゃってることの方が多くて。それを見逃さずに、心の中で「これって何なんだべな?」って思ってることが歌詞になる時の方が、楽しいんですよね。
それで言うと、ここ最近、よく目にするものの中に……まあ、よく目にしているものがテーマだから、「ルポルタージュ」っていうタイトルにしたんですけど。たとえば、イスとかテーブルを食べてるシーンがCMで流れて「CM上の表現です。実際は食べられません」って、「言わなくなってわかってるよ、みんな」って気持ち、あるじゃないですか。
でも今の時代って、「そうやって書いてくんないと俺マジで食っちゃうからね?食ったら責任取れんの?」とかいう奴らがいっぱいいる。そういう、心の余裕のない時代になってきてるから、何もかもに注釈を入れているのかなっていう自分の疑問と……。
だから、それを歌詞にしようって思ったのはこの曲がきっかけですけど、前々から、注釈に対してなんかひっかかってるものがあったんでしょうね、気持ちの中に。
──曲全体として言いたいことは、普遍的なものじゃないですか。だから書きようによっては平凡な表現になってしまう、そこでいかに聴き手をハッとさせて耳をつかまえるか、というので、あの歌い出しを思いついたのかな、とも思ったんですけれども。
そうかもしんないですね。ドラマのエンディングでかかりそうって聞いていたんで、ドラマの終わり際に「このストーリーはフィクションです」っていう曲がかかり出したら、注釈書かなくてもいいかな、と思ったりとか(笑)。そういういたずら心みたいなのも、ちょっとあったりしたので。