先日、モッズの80年代の活動をアーカイブした本『THE MODS EARLY BEAT 1981→1989』が発売された。
モッズがデビューした81年から8年間の活動の記録や当時の写真。それを振り返ったメンバーのインタビューなどで構成されていて、まさに自分がリアルタイムでモッズやロックにのめり込んだ時期なので、当時の写真などを見てると10代に戻ったような気分になり、年甲斐もなくわくわくドキドキしながら読みふけってしまった。
1981年というとモッズがデビューした年で、新たな本格的な日本のロックバンド創成期でもあり、数もまだ全然少ないがいくつかの本物というべきロックバンドが少しずつ盛り上がり始めた頃だ。
1989年というとそれがひとつの現象にまでなりピークをむかえ、あの空前のバンドブームとなった頃で、その形は何にせよ81年から89年というのは日本のロックバンドが邦楽シーンの中でやっと頭角を現し始め、現在のように完全に定着するようになっていくその基盤の元が、モッズなどのいくつかのアーティストにより作られた時代でもあった。
この本には、福山雅治、宮藤官九郎、藤井フミヤと藤井尚之のF-BLOODという、そうそうたる顔ぶれが自分の原点であるモッズとの出会いについて、それぞれが語るインタビューも収録されている。
福山雅治はモッズが自分の出発点であり、初めて見たライブもモッズで、モッズの“伝説の雨の野音”は行ってもいないのに、「現実と幻想が混ざりあって、行ったような気になっていた」と、その夢中になっていた当時を振り返っている。
クドカンは、「モッズを本当にわかってるのは自分だけだと思っていた」と、その屈折していた学生時代を振り返りつつ、「最初に好きになった縦ノリのバンドは今でもずっと好き」と、今も変わらぬファンぶりを語っている。
そして森山の昔からの旧友でもある藤井フミヤは、森山の事を師匠であり兄貴でもあると言い、80年代には週に5日一緒に飲んでる時期もあった(しかもチェッカーズもモッズも一番忙しかった時期)と語り、その頃は自分と森山お互いにとって「ひとつの青春時代だった」と懐かしそうに当時を回想していた。
そんなみんなが口を揃えて言う事は、僕ら昔からのファンと同じで、初めてモッズに出会った時のそれまで聴いた事のなかった音楽に対する衝撃。そして「俺達のバンドだ」と感じさせた、そのパンクで不良なルックスのカッコよさへの憧れ。
そして、それが今も何も変わらないまま続いている事へのリスペクト。
そして、今後も絶対に終わらないで続いていってほしいと願う、同じミュージシャンとしての気持ちだった。
そんなふうに、僕らの世代がモッズを語る時。モッズの音やライブに触れる時。みんな自分の原点だったあの頃に戻っていく。“あの頃の自分とモッズ”に戻っていく。
そして、あの頃の自分と今の自分をくらべ、“何が変わって、何が変わってないのか”そんな自問自答のような確認作業を無意識のうちにやってしまう。
でもそうやって僕らがモッズを通して昔と今の自分を確認する事ができるのは、何よりモッズが僕らの人生と並行して、36年間一度も止まらず今も続いている現役のロックバンドだからだろう。
その激しい音楽性も、カッコいいルックスも、ロックに対する強くて熱いこだわりも、その基本姿勢は昔から一貫して変わっていない。
だからそれを追い続けている僕らも、その時その時のモッズに自分を投影する事ができ、自分のいま立ってる場所を確認する事ができるのだ。
去年のモッズはデビュー35周年記念イヤーであったにも関わらず、森山の突然の怪我によるツアー中止を経て、野音での完全復活ライブ、そして新たな日程によるツアー再開と、奇しくも波乱の年となってしまった。
だが今年に入ってからのモッズは、今までのような精力的な活動に無事に戻り、弟分でもあるTHE COLTSと一緒に「LITTLE SCARFACE FESTA」対バンツアーも大成功させ、その赤坂BLITZでのライブを収めたDVDも発売になったばかりだ。
そして今年も、毎年恒例のモッズの単独ライブツアーが始まった。
森山の故障による公演中止を僕も何度か体験したというのもあるが、ここ数年、今も昔と変わらず激しくてカッコいいモッズのライブを見てると、いつもかけがえなのない瞬間に自分が立ち会えているという気持ちになる。
36年前に中学生の自分が見て衝撃をうけたライブが、今も目の前でその激しさのまま、カッコよさのままで見られるのだ。
こんなバンドは他にはいない。
本当に貴重で何ものにも代えがたい時間だと思いながらライブを見ている。
今でも、何かに悩んだ時、不安になったり迷ったりした時、僕の頭の中で10代の時と同じようにモッズの音が鳴り始める。
そういう現実や困難と向き合わなければならなくなった時、いつも自分の原点のモッズに戻っていく。
それはきっと僕だけじゃなく、世代も性別も関係なく、ライブに集まる沢山のモッズファンもみんな同じだと思う。
モッズとはそういうバンドなのだ。
でもそれも僕らにその戻れる場所があるからできる事なのだ。
いつかはその戻れる場所も必ずなくなってしまう。
そんな、いつかは必ずなくなるものへの、はかない思いとせつない気持ち。
そして、そのいつかの覚悟ともきちんと向き合いながら、僕らはまたみんなモッズに戻っていく。
横山シンスケ
渋谷のイベントライブハウス「東京カルチャーカルチャー」店長・プロデューサー。その前10年くらい新宿ロフトプラスワンのプロデューサーや店長。イベント企画、司会、ライターもやってます。36年前のモッズデビューライブから今もモッズのライブに通い、いつも結構な前の方で感動で泣きながら歌い踊っている。
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