全国ツアー2017「A」番外編 ~蜂月蜂日~
2017年8月8日(火)東京キネマ倶楽部
TEXT:兵庫慎司
ニュー・アルバム『Q』のリリース・ツアーの追加公演『全国ツアー2017「A」〜番外編〜』、東京・札幌・神戸の3本のうちの東京編は、毎年8月8日(蜂月蜂日)に東京キネマ倶楽部で行っているライブとして行われた。
本編は、前半9曲ノンストップ、一度MCをはさんで後半6曲もノンストップ。前半はそれぞれの曲のBPMほぼ同じで、曲間を開けずに、女王蜂新旧のダンス・チューンが続いていく。後半は女王蜂のいわゆるコアな部分というかキモの部分というかドロッドロの部分というか、ショッキングな部分というか危険な部分というかどうしようもなく真実な部分というか、とにかくそんなような、最新作『Q』でいうと「Q」「つづら折り」「雛市」にあたる曲たちが、やはり曲間なしで連なっていく──という構成だった。
で。そのどちらもが、本当にすばらしかった。構成の妙というか、すぐれたDJのようというか、1曲ずつイントロが始まった時ハッとする感じ、その瞬間に「ここでこの曲か!」とウワッと気持ちがアガる感じ。とにかく踊らせるというわかりやすい目的の前半はまだわかるが、「ひきずりこむ」「巻き込む」方面の曲が並ぶ後半も、前半と同じようなカタルシスに満ちていた。それってすごいことだよなあ、とつくづく感じた、観ていて。
コアで重たい部分は過去の作品と同じように、いや、過去以上に搭載したままだが、踊れて、軽やかで、聴きやすくなった。音源と向き合う時は、「よし聴くぞ!」と覚悟をして真剣に対峙することが求められる、以前はそういうバンドだったが、もっとカジュアルに聴くことも受け入れる音になった。
というのは『Q』というアルバムに対してよく聞かれた声だが、ライブもそうなっている。雷のような、地鳴りのような、音で人を威嚇するような、ギターとドラムとベースと鍵盤と歌で戦いを挑むような、四つ打ちで殴りかかるような、人を制圧するツールとしてのバンド・サウンド。
それが以前の女王蜂だったとしたら、今はもっとフレンドリーでやさしくて、気楽にフラッと入って来れるようなリスナーへの近さも込みで、すべての楽器が鳴っている。もちろん歌も。
特別すぎて(言い換えれば才能が突出しすぎていて)聴き手を選ぶバンドだった女王蜂が、同時代に活動している他のバンドとかのファンもスッと入って来れるような広さを獲得した。それが『Q』であり『Q』以降のライブである、ということだ。
まあ、気軽に入ってきたとしても、いったん入ったら最後、とんでもなく深いところまで引きずり込まれてしまうのは、以前と変わらないんだけど。
「あきらかに『Q』を出してから変わりました。私たち、今、すごくいいとこに来てると思います」
アンコールでアヴちゃんはそう言った。僕はこの2日前の「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」での女王蜂のステージを観て、まさにそのさまを体験したばかりだった。
真っ昼間のSOUND OF FORESTに女王蜂を観に集まった人の多さ(超満員だった)、笑顔の数、熱狂が広がっていくさま──それらすべてが、昨年までとは違った。女王蜂に今何かが起きている、機運のようなものがバンドを包んでいることが、リアルに感じられた。その機運を呼び込んだのも、間違いなく本人たちだけど。
「人のせいにしたくない。世の中のせいにもしたくない。ああしたらよかったとか思いたくない」
「極力、平らにしたい」
「みんな恋愛したらいいな。恋愛しなくても楽しい気持ちで暮らしていけたらいいな」
同じくアンコールで、アヴちゃんは、そんな言葉も口にしていた。そのひとことひとことが、とてもリアルにわかった。
なお2017年後半の女王蜂は、まず9月と10月に、恒例の対バン企画『蜜蜂ナイト』を、福岡・東京・大阪・東京で行う。
そして11月〜12月には、河原雅彦演出・古田新太主演、全国5都市で公演を行うミュージカル『ロッキー・ホラー・ショー』にアヴちゃんが役者として出演、メンバーもバンド演奏で参加する、という、新しいトライアルが控えている。
余談。
ライブのたびにお客さんのジュリ扇振り回し率が上がっていくのは、最近の女王蜂のライブではみんな認識していることだが、そのジュリ扇の「新品率」も上がっている気がした、この日は。で、終演後のフロアを見て「やっぱり」と思った。
みなさん、ジュリ扇を買い換えるペースが上がっているんじゃないか、ということです。フロア、抜けた羽根でえらいことになってました。