取材・文/宮内健
ライブ写真/田中聖太郎
──今年3月から全国17ヶ所18公演にわたる〈名前のないツアー〉を行いましたが、ハナレグミにとって初めてのライヴハウス・ツアーだったそうですね。
バンド編成でライヴハウスをあれぐらいガツッと回ったのは初めてかもね。やっぱり新鮮だったし、ツアー中に新しいアイディアも生まれて。今回のツアーは次の制作につながるようなものにしたいと思ってたし、長い時間を過ごして、みんなの楽器やプレイを身体に入れて生まれてくるものがあるかなと。一人のアイディアじゃなく、たくさんの人のフレーズから出てくるようなものがあったらいいかなって。だから移動日に、セッション中心のリハーサルをやったりとか。ツアー自体が長かったから、移動日はみんな自由時間みたいな感じにしてたんだけど、「試しにリハ入ってみようか?」ってやってみたら、それが意外と面白くて。そういうのをやることで、ライヴの構成についても新たなヒントが見つけられたりしたんだよね。
──僕は幸いにも今回のツアー中盤の富山(3/24)と最終日の横浜(5/12)の2公演を観ることができたんですが、とくに横浜でのツアー・ファイナルが素晴らしいライヴで。ツアーを経てバンドのアンサンブルがより密になっていて、ライヴが進むにつれ永積さん自身がどんどん解放されていくような感覚に興奮しました。実際、ご自身でもツアーを重ねてバンドが変化してきた印象はありましたか?
なんだろう?ちょうどツアー折り返し地点の北海道ぐらいまで回ったあたりで、そこまでやってたものをなんとか超えたいよねって意見がバンド内からも出てきて。そのためにはバンド・メンバーだけじゃなく、外で音を作ってくれてるPAのエンジニアさんだったりも含めて話を伝えあったりしたほうがいいなって思って。そうやってどういうライヴにするかってことを、一度熱く語れたのが大きかったかも。サポート・メンバーというところからさらに踏み越えて関わり合うことだろうなって、みんなも思ってくれたんだろうね。そういう話をできたのが大きかったかもね。
──実際にそういう話をする機会があったんですね。
みんなハナレグミってものを意識してくれてて、それはとてもありがたいんだけど、俺が求めてるのってそれをも超えてほしいっていうかさ。今まで通りのことをやりたいわけじゃなくて、今回新たに見つけるバンド像だったりにトライしていきたい。その気持ちをバンドが受け止めてくれた。そういうことって、時間がすごく必要なことだと思うんだよね。今までもいろんなメンバーとやってきたからその都度説明してきたんだけど、結局ライヴをはじめてみないとわからないことがたくさんあるんです。今お願いしてるメンバーって、みんな上手いから、最終的には一人一人がどうするべきかっていうのを見つけてもらうってことが、最後のアレンジっていうかな。曲をパッと演奏するのはすぐにできちゃうから。そこからどうお客さんにぶつけようかとか、どういうハナレグミのオーディエンスなのかっていうのを知ることでわかってくることがあるんだよね。
──今回のツアーでは、数カ所で朗読も披露していました。朗読という表現を取り入れた理由は?
長い時間音楽をやってきて、何十年と音楽やってきて、歌を歌うってことが自然になりすぎちゃってるところもあって。そこに朗読という、同じように声は使ってるけどまったく違う切り口のものが、自分にとってものすごく新しい手段としてはじまりそうな予感がして。人前で言葉を言うって、やっぱり震えるもん。そのドキドキした感覚を大事にしたい。慣れるのは簡単なんだと思う。この日はちょっと気分じゃないけど、言えるようになるっていうか……ある意味、歌はだんだんそうなるというか。厳密に言ったら歌の中でも日によって浮き沈みはあるけど、朗読に関しては「今日は言えるんじゃねぇか?」って感じて初めて表現できるっていう、その感覚を大事にしたいなって思って。だから3回ぐらいしかやらなかったんですよ。決まりごとになっちゃうと違うような気がして。「本当に言いたい!」って想いが高まった時に、自然と出てくるような感じなら朗読ができるなって思って。それが実現できたのも、バック・ミュージシャンと自分というような関係性じゃなくて、しっかりとバンドになれたからだろうなって思う。
自分の声って、いろんな人の言葉を歌ったほうがいいなって。もっと景色のように歌を歌うことで、声が思い切り自由に開けていく。そういう歌を歌っていきたい。
──新曲もいくつか披露されました。
そのうちの1曲は、堀込泰行くんが曲を書いてくれて、詞を自分でつけた曲。今回のツアー用にライヴでアレンジして。あと、ライヴのリハでセッションしているうちにたまたまできた曲もあって、急遽歌詞をつけたのもやりましたね。そうやって、新曲も何曲か生まれてるんですよ。音源として発表する前から、人前で演奏して曲が完成していくのが大事かなって思って。そういうのって今までやったことなかったから。オーディエンスの空気感を感じながらアレンジされていくのが大事かなって。
──横浜公演では、東京スカパラダイスオーケストラの沖祐市さんが作曲、かせきさいだぁさんが作詞を手がけた曲も演奏されていました。
この曲は、前作『What are you looking for』の時にはすでにあった曲なんだけど、あのアルバムには入れるタイミングじゃないんじゃないかなと思ってとっておいて。それが結果的によかったと思う。今のほうが自分の中でより実が伴ってる感じがして。それに自分の声って、いろんな人の言葉を歌ったほうがいいなってあらためて思ってて。自分の言葉で綴ったものはやっぱり私小説というか、自分の見た世界なんだけど、もっといろんな場所から見た景色を発することで、自分の声が広い場所に出ていく。かせきさんの書いてくれた歌詞も、そう感じるから。詞とメロディと自分の声と、トライアングルみたいなイメージ。自分の声に感情込めすぎずに歌うのもいいなって思って。もっと景色のように歌を歌うことで、声が思い切り自由に開けていくから。そういう歌をもっともっと歌っていきたい。
昔から多摩川が身近にあるところで暮らしていたので、ブルースと川の関係性みたいなことをよく話してて。川をテーマにした曲を作ろうとなった。
──新曲といえば、ハナレグミは現在放送中のNHK『みんなのうた』に「うんだらか うだすぽん」という楽曲を書き下ろしたそうですね。
お話しをいただいて、せっかくならいろんな人と曲を作りたいなって思って。鉄割アルバトロスケットの戌井昭人さんに歌詞を書いてもらって、自分のグッズもよく作ってもらってるkiiiiiiiのLakin’こと多田玲子さんのイラストの3人で作れたら、絶対に面白いものができるなって。そうしてできたのが「うんだらか うだすぽん」って曲なんです。戌井さんがやっている鉄割アルバトロスケットの演劇なんかを観てると、「ブルースマン」とか「川向こう」とかいう言葉が出てくるんですよ。僕も戌井さんも昔から多摩川が身近にあるところで暮らしていたので、芝居観に行った後の打ち上げで、ブルースと川の関係性みたいなことをよく話してて。今回何かを作ろうって時に、川をテーマにした曲を作ろうということになった。
──じゃあ、タイトルは「どんぶらこっこ」みたいな意味合いで?
どういう意味でもいいなかって。たまたまメロディと、完成する前に歌詞を見て考えてる時に、メロと言葉がはまらないところに「うんだらか うだすぽん」って意味のない言葉がすっぽりハマったってだけなんだけど。その意味のない言葉に、俺らの言ってる昔のあまり綺麗じゃなかった多摩川のあの空気感も入ってるっていうかさ。あと「だるま」や「カッパ」とか登場人物が出てくるんだけど、最後には「雷魚」まで出てくる。多摩川に放された外来種が、そのまま帰れなくなってるところにもブルージーさを感じてね。その子たちが流れてるのを思ったら、汚い川だけど、その子たちはその場所で楽しんでる。自分たちの普通の景色だと思って遊んでるっていうのが、よかったんだよね。それが「うんだらか うだすぽん」っていう言葉と、妙にマッチしちゃった。
現在制作中のニュー・アルバム&ツアーのイメージ