「やるぞ、やるぞ」と言いながら本当にやってしまった。そんな印象が強い、実業家ジョセフ・コーによるパンク・コレクションを燃やすというイベント。
11月26日は、セックス・ピストルズのパンクアンセム「アナーキー・イン・ザUK」のリリース40周年の記念の日だったが、ロンドンでの国を挙げてのパンク礼賛イベント「パンク・ロンドン」に抗議するために、日本円にして8億円の価値があるというパンクの歴史的なグッズやレコード類が、河のほとりで燃やされた。
ジョセフ・コーという人物。イギリスの実業家で高級ランジェリーブランド「エージェントプロヴォケイター」の創始者として知られるが、マルコム・マクラーレンとヴィヴィアン・ウエストウッドの息子という肩書きが最も有名だ。
ロンドンのパンク・カルチャーの出発点は、後にセックス・ピストルズのマネージャーになるマクラーレンと、イギリスを代表するデザイナー、ヴィヴィアンが1971年にオープンした「レット・イット・ロック」というブティックがルーツとなる。後のこの店は「SEX」に改名、パンクファッションの雛形を作り上げた。
ジョゼフ・コーが今回燃やした具体的なリストは無いものの、キングスロードにあったSEXのドアノブや、今回最も話題になった「アナーキー・イン・ザUK」のファーストプレスのアセテート盤、その他のも一部など、映像にはTシャツなども見られるが、場合によっては歴史的価値があるものも多いという。
コーは、今年の春から自身が所有する「8億円のパンク・コレクションを燃やす」と宣言し、これに対してセックス・ピストルズのジョン・ライドンは「もし500万ポンドの価値があるものを燃やすって言うんなら、チャリティに寄付でもすればいいだろ。アイツは下着屋なんだから、おまえのところのブラジャーでも燃やしたらどうだ?」とコメントしていた。
女王陛下が「2016年はパンクの年」と表明し、もはやパンク・ロック自体が反体制のシンボルというよりは博物館行きの歴史的な出来事になってしまったことは、ライドンの比較的常識的なコメントが全ての答えのような気もする。
「愚か者の所業か?はたまたこれこそがパンクそのものなのか?」議論は真っ二つに別れそうだが、パンクを創り上げた二人の子どもが「パンクの文化遺産化」に歯止めをかける抵抗を、最もらしい形で行ったことは、一つの象徴的な出来事といえるだろう。
記事提供:AOL News