こっちのけんとワンマンライブ『よいとこせ』
2024年12月13日(金)TACHIKAWA STAGE GARDEN
“緑のマルチアーティスト“ことこっちのけんとが12月13日に東京・TACHIKAWA STAGE GARDENにて、自身最大規模となるワンマンライブ『よいとこせ』を開催した。
こっちのけんとといえば、今春リリースした6thシングル「はいよろこんで」の総再生回数が150億回超えするほど、動画プラットフォームから爆発的な勢いで人気が広がり、いまでは国内はおろか、海外でも共感を集めて世界的ヒットを記録し、今年念願だったNHK紅白歌合戦への初出場まで射止めてしまった、いまをときめくアーティスト。ブレイク後には、自分の兄はあの菅田将暉であること。弟も同じく俳優の菅生新樹であることも公表し、さらに注目を集めている彼が「今までの自分の経験や考え、クリエイティブをすべて込めた“本気のライブ”を作ります。自分もみなさまも楽しめるライブを目指し、人生で一番尽力いたします」と表明して挑んだのが、今回のワンマンライブだった。
人生で一番尽力した甲斐があった。こんな手作り感満載で自分の人生を再現したようなライブは、もう2度と観られないだろう。それほど今回のライブはとても特殊なものだった。トータル約2時間をかけて行なった今回の公演は、こっちのけんとがなぜこのような音楽を作り、歌うようになったのかを自身の過去を紐解きながら再現していくという、ドキュメンタリー仕立てのライブになっていたのだ。公演自体は、当時のエピソードを語るこっちのけんとのひとり語りの映像に続いて、そのときの状況を再現したようなステージセットのなかで、当時歌っていた楽曲をこっちのけんとがリアルに歌唱していくという形で進行していった。
オープニング。自身のテーマカラーである緑色が鮮やかに発光するスーツを着たこっちのけんとがステージに現われると、ヴォイスパーカッションを鳴らしながら声を調音。そうして<THE FIRST TAKE>を再現したセットのなかに構えて、「緊張しますね。ほな、参りますか」と関西弁で告げたあと、まずは挨拶代わりに「はいよろこんで」を歌唱。歌い終えると、照明は暗転。すぐにムービーが流れ出し、公園の遊具に座っていたこっちのけんとが「こんにちは」といってしゃべりだす。そこで、今日のライブの前半はこっちのけんとの音楽がどうやってできていったのかを見せていき、後半はその集大成としてこっちのけんとスーパーライブを届けていくことが明かされた。
そうして、まず最初に始まったのは、こっちのけんとが大学1年生のときに結成したというアカペラグループ<ギャルソン>のステージだった。ボイパ担当を含め、メンバーは男性6人。こっちのけんとはメンバーと同じような白シャツ+黒パンツ姿に早着替えして合流。ここではSUPER EIGHTの「がむしゃら行進曲」と布袋寅泰の「バンビーナ」というアカペラで誰もやらなさそうな2曲を歌い、踊るというアカペラグループのなかでもエンタメ性の強いステージで観客を魅了。こっちのけんとは明るいキャラでMCを担い、舞台では笑顔を振りまきながら客席にクラップを求めたり、ライブの盛り上げ役も担当していた。続いて、ステージは<ケミカルテット>へとバトンタッチ。こちらは男性2人と女性2人による男女混声グループで、『美女と野獣』から男女の歌声がミュージカルのように対話していく「ビー・アワ・ゲスト」、さらに「コンパス・オブ・ユア・ハート」を主軸にディズニーの名曲をメドレーでつなぎ、大会で見事優勝を勝ちとった6分間以上ある演目もステージで再現してみせた。
4人だけとは思えないドラマチックで大迫力のステージが終わると、ライブは再び映像へと切り替わり、その映像を通してこっちのけんとは「ギャルソンではMC力、ケミカルテットでは台詞っぽく歌う歌の表現力。この2つの要素をアカペラグループからは学びました」と解説。きっと、彼の歌の正確なピッチ感、高度な音感、クラシカルな発声能力などもここで養われていったのだろう。そうして、次は大学卒業後のサラリーマン時代へ。有名企業に就職後、振られた仕事を「はいよろこんで」と引き受けては、猛烈に仕事を頑張っていたこっちのけんとは、歌える場所を求めて、自分のストレスを発散するかのように「家に帰る前、一人でカラオケに行ってた」と告げる。そうして、このあとサラリーマンスーツに着替えたこっちのけんとが舞台に出てきて、ライブは<カラオケステージ>へと続いていく。
赤いソファーに座り、DAMの機械で曲を選び、本物のカラオケをバックに歌いだしたのは、当時先に歌手デビューしていた兄である菅田将暉の「さよならエレジー」! これにはファンも驚愕。場内から悲鳴とともに大きな拍手が沸き起こった。続けて、クリスマスにまつわる浜田雅功と槇原敬之による「チキンライス」をソファーに座ったまま、のびのびとした声で熱唱。歌い終え「やっぱいい曲やなぁ」と曲に浸っているところに受付から電話が。その電話で、カラオケルーム使用はあと1曲で終わること。さらに、今日から5年後にNHKの紅白歌合戦に出場することが伝えられると、本人が戸惑いながらも「はいよろこんで」と返答する小芝居を繰り広げ、これには場内も大爆笑。最後に「将来子どもができたらこんな気持ちになるんかな」といって木山裕策の名バラード「home」を思いっきりエモーショナルに歌い上げて、サラリーマン時代を再現したカラオケコーナーは終了した。
しんみりした雰囲気に場内が包まれたところで映像が始まり、このあとはサラリーマン時代後のことを回想。周りの期待に応えようと仕事を頑張っていたところ、その半年後に自分のキャパをオーバーしてしまい「ある日玄関でバタッと倒れまして、ずっとそのままの状態で玄関にいたんです。それで仕事を辞めました」と打ち明けたこっちのけんと。そうして、自身が鬱病を発症したこのタイミングで付き合っていた彼女と同棲を始めて主夫になり、ここからは引きこもりの生活がスタート。外に出られなかったこの時期は「部屋でひとりでアカペラができないものかとアカペラを分解して歌って。その映像編集まで自分でやってた」ことを振り、ライブは<ひとりアカペラ>ステージへ。
舞台下手には、こっちのけんとの家から搬入した私物を並べて、その当時の部屋のなかを再現したセットが登場。NIKEのジャージを着て椅子に座ったこっちのけんとは、ライムカラーの懐かしのスケルトンiMacの前に構え、自分の声をリズムやベースに分けていって一人多重録音状態で作ったバックトラックを流しながら、Vaundyの「踊り子」、New Jeansの「Ditto」、菅田将暉の「惑う糸」、Creepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」というとんでもなくタイプがかけ離れた楽曲たちを少しずつ歌唱。ここでは歌以上に、声を編集して作り上げたトラックのセンスにことごとく驚愕。ひとりアカペラ時代にこうして曲を細部まで分解して、曲を自分の解釈で再構築していったことは、その後の彼の曲作りに大きな影響を及ぼしていったに違いない。いまのこっちのけんとを作り出した重要な時代でありながらも、「踊り子」を歌い出したとき、こっちのけんとは一人アカペラ時代の心境に思いを馳せて、涙がこぼれないように上を向いたり、何度も何度も指で涙を拭う仕草を見せていたのだった。
「だから、一人アカペラステージは、通称“引きこもりステージ”。ずっと一人ほったらかしにしてもらって、ずっと一人で好きなことだけができて。鬱ではあったけど、一番有意義でした」とこの後の映像で振り返ったこっちのけんと。そうして「このあとは後半戦。こっちのけんとの<スーパーライブ>が始まります」と結んで映像は終了。
バックバンドを従え、ステージに現れたこっちのけんとは、さっそく先日発表があったばかりの「NHK紅白歌合戦」出場について触れ「本当に当日知ったんですよ」と、そのときのエピソードを話し始めた。今年1年、怒濤の大躍進を遂げ、彼の人生はガラリと変貌した。そんななか、先日紅白の記者会見を終えて家に帰ったとき、初めてSNSで「はいよろこんで」の総再生回数が140億万回を突破したことの威力をリアルに実感して「泣いた」のだと話した。そのときは「一人だったから机の上に涙でどこまで水たまりができるかという遊びをした」とおどけてみせたこっちのけんと。「死ぬな!」を作る前は何度もそういうことを考え、行動しかけた。だが、いまはそんな自分が「人に歌を届けられる人生になりました。僕をアーティストにしてくれてありがとうございます」と頭を下げ<スーパーライブ>は「もういいよ」で勢いよく幕を開けた。
緑カラーの洋服やライトを持った幅広い年齢層が集った客席に向かって「さあ、みなさん立っちゃって!」と合図をおくると、これまで着席していた観客は総立ち。ペンライトを振ったり、クラップをしていた客席が、サビが始まると子どもから大人までテルメルダンスを一斉に繰り広げる! この人の楽曲が、どんな世代にもキャッチーに届いていることを、このライブが証明している。このあとは「鬱になった経験をメモしてたので、そのときの気持ちを綴った歌」という曲紹介から「死ぬな!」へと展開。この曲が聞き手の琴線を激しく震わす理由。それは、サビに歌い込まれた“願い事3つ考えろ”というフレーズの存在だ。絶望や後悔のなか、羽交い締めになった感情で、もうなにもかもやめたい、消えていなくなりたい、全部終わりにしたいと思った人に対して「この先なにかいいことがあるから」という曖昧な言葉の100倍、説得力を放つこの1フレーズ。これを、押しつけがましくならないよう、生で聴くとより身体が踊り出すようなグルーヴィーでファンキーなバンドサウンドにのせ、明るく軽やかに歌っていくところがこっちのけんとが人気を集めた理由だろう。次の「ビバ・イナイイナイバァ」は、ノリノリの楽しいロックンロールにのせて、赤ちゃんみんなが笑顔になる魔法の言葉“いないいないばぁ”を使った言葉遊びがつまった歌詞で、辛い悲しみを抱えて泣いている大人たちを笑顔にし、日々努力を続けている人たちに“あとちょびっと力を抜いたら金メダルさ”と彼しか書けないフレーズでエールを送っていく。実体験をもとにした人間味のある共感性の高い歌詞はこっちのけんとの大きな武器。どんぐりの背くらべをポジティブにとらえた「どんぐりGAME」では12人の宝仙学園高等学校のダンサーたちが舞台に集結して、ステージはいっきに華やかさを増す。“どっとーいんじゃんほい!”、“みなさんごいっしょに、ひ、ふ、み。”や“はい!”の合いの手など、みんなで楽しめるキャッチーな掛け合いてんこ盛りのこの曲では、こっちのけんともダンサーと一緒になって踊りながら、ダンスはそれぞれ違っていてもみんな同じただの人間であるという歌詞の本質を、パフォーマンスでも伝えていった。
そうして、これから年末年始の忘年会や新年会をきっかけに、幸せな頃を思い出いだしてという意味も込めて、オシャレなシティポップにのせて心地よく響くファルセットを使って“戻れ”を連呼していく「いろは」を歌唱。歌い終えたこっちのけんとは「今年ですべてが変わってしまいました。プライベートでは結婚もしまして、本当に人生が変わりました」と真面目な表情で会場に話しかけた。だが、結婚した後は曲を作りたくてもできない日々が続き活動が止まってしまた時期があったことを伝え、そんななかで「いまの会社に人生最後のチャンスを頂いたので、ノリノリの曲で自分の人生さらけ出そうと思って曲を作り出した」と明かした。改めて自分を支えてくれたスタッフに感謝を伝えたあと、再びダンサーたちを呼び込み、最後は「はいよろこんで」を全力でパフォーマンス。ダンサーと一緒に客席も“ギリギリダンス”を踊り、場内が大きな一体感に包まれた頃、それを祝福するようにきらびやかなテープが場内に舞い降りて本編は終了した。
アンコールは、やはりこっちのけんとが兄弟について歌った「Tiny」だった。兄に対して嫉妬や憧れなどの想いが混在したこの曲を、自力で紅白出場を決め、自身最大規模のワンマンの舞台に立ったいま歌うことに意味があった。「こういう状況で歌うと泣きそうなんだけど、そこはプロ根性で歌います」と歌う前に話していたこっちのけんと。曲中、泣きそうになりながらもなんとか涙をこらえて、見事最後までこの曲を歌いきってみせた。そのあとは、こっちのけんとの呼び込みで本公演の出演者全員が舞台に大集合。そのとき、ファンが手書きでメッセージを書き込んだ5枚の横断幕が一緒に運び込まれ、「最近、どっきりが多いんだよ~」といいながら、このサプライズにはこっちのけんとは大喜び。ファンに「あとで全部読みます。活字が好きなので」と感謝の気持ちを伝えると、客席からは「紅白頑張れ!」という声があちこちから上がった。それに対して「任せろ」と力強い言葉を返したこっちのけんとは、改めて「紅白に出させて頂くことに感謝しつつ頑張ってきます。またどこかでみなさんと会えるように頑張りますので、来年もよろしくお願いします」という言葉を残して、ステージを後にした。
SET LIST
00. はいよろこんで
01. がむしゃら行進曲(ギャルソン)
02. バンビーナ(ギャルソン)
03. ビー・アワ・ゲスト(ケミカルテット)
04. コンパス・オブ・ユア・ハート(ケミカルテット)
05. さよならエレジー
06. チキンライス
07. home
08. 踊り子
09. Ditto
10. 惑う糸
11. Bling-Bang-Bang-Born
12. もういいよ
13. 死ぬな!
14. ビバ・イナイイナイバァ
15. どんぐりGAME
16. いろは
17. はいよろこんで
ENCORE
18. Tiny