“笑い”で始まり“笑い”で終わったHONEBONE活動10周年大感謝祭。地元・高円寺から新たな旅が始まる

ライブレポート | 2024.10.25 12:00

HONEBONE活動10周年大感謝祭
2024年10月11日(金)座・高円寺2

“笑い”で始まり“笑い”で終わる、とてつもなく楽しいライブだった。その間にはもちろん、感動や熱狂もたっぷり詰まっている。HONEBONEの活動10周年を記念してのワンマンライブ「大感謝祭」、10月11日の座・高円寺2でのステージ。10周年という言葉には少々、注釈が必要だろう。もともとは2006年頃から友人同士でバンドを結成し、EMILY(Vo)とKAWAGUCHI(Gt)のデュオになったのが2014年のことだった。つまり、現在の2人体制で活動するようになってから10年目なのだ。この「大感謝祭」を開催する場所として、彼らの地元である高円寺はふさわしい。

オープニング映像として10年の活動の軌跡が見えてくるMVやテレビ出演映像、EMILYの映画撮影時の映像などが流された。その映像が終わると、カウントダウンを合図に2人が客席後方のドアから登場してライブが始まった。意表を突いた始まり方だ。「いやいやいや、前じゃないわよ」とEMILY。客席の間の通路を歩きながら披露したのは、10周年をテーマに制作されて、7月から配信されている新曲「HONEBONE10周年のテーマ」だ。これまでの10年間を総括する歌詞になっている。<おめでたくはない><全然うれしくない>などの歌詞からは、“まだまだこんなものではない”というアグレッシブな意思も伝わってくる。1曲目から観客もハンドクラップで参加。「10周年」のところでは、観客も一緒に歌っている。早くも会場内が一体になって盛り上がっている。EMILYの伸びやかな歌声とKAWAGUCHI のキレ味のいいギターのカッティングが気持ちいい。

続いての「とりあえず、生!」ではコール&レスポンスが起こった。EMILYの歌とKAWAGUCHI のギターには、観客を巻き込むパワーか備わっている。観客が楽しそうに「生!」と叫んでいる。やはり、ビールと音楽は“生”がいい。「満月こわい」でも多くの観客が一緒に歌っていた。ステージ上のスクリーンに歌のキャラクター“満月さん”の絵が映し出されていて、その絵がどんどん拡大されていく。巨大化した“満月さん”はちょっと不気味だ。“満月のこわさ”が視覚的に表現されている演出が楽しい。

「今日は地元・高円寺ということで、ライブの後は高円寺の街に消えていったらどう?」とEMILYのMCに続いては、高円寺にあるHONEBONEの行きつけの店が舞台となった歌「オムニマッ」が披露された。高円寺の店の歌を高円寺で聴くのは新鮮な体験だ。HONEBONEの2人の地元への愛も伝わってくる。と同時に、HONEBONEの音楽が日常生活と密着していることがよくわかる。曲の後半では、EMILYによる店の紹介と高円寺の飲食店の宣伝映像も流された。地域の活性化に貢献する演出が心憎い。「東横戦争」も、高円寺で演奏されることで、よりリアルに届いてくる曲となっていた。以前この曲を渋谷PLEASURE PLEASUREで聴いたことがある。渋谷がアウェーならば、高円寺はホーム。つまり、ホームアドバンテージが加わり、さらに説得力のある歌になっていると感じた。<中央線の匂いに包まれてさ>という歌詞を、その中央線の匂いが漂う街で聴くのはオツなものだ。EMILYの怨念のこもったような歌声とKAWAGUCHIの奏でる呪術的なグルーブがクセになる。聴いているうちに、高円寺シンパになってしまいそうだ。EMILYの不気味な笑い声が入るホラーなエンディングにニヤリとしてしまった。盛大な拍手に交じって、客席からは子どもの泣き声もあり。

10周年ということで、初期の曲も多く披露された。EMILYがかつてイジメにあった体験を語る場面もあった。「HONEBONEの曲って、暗いよねって言われることが多いんですが、そういう体験が根底にあるからです。でもそういう体験があったから、今の自分がいるし、こういう曲を書いてきました。だから今、目の前にみなさんがいるのかなと思います。今の私とHONEBONEを作った体験の歌です」というMCに続いて、「するめいか」が披露した。イジメを受けた過去のつらさとともに、<優しくなりたい>という思いが伝わってくる。EMILYの飾らない歌声と、その歌声を包み込むようなKAWAGUCHI のギターが染みてくる。続いての「骸骨」も深い孤独感や痛みがヒリヒリ伝わってくる歌だ。この歌の中では希望は一切描かれていない。だが、希望が見えず、前向きになれずに苦しんでいる人にこそ、届いていく歌になっていると感じた。薬の効能がさまざまであるように、音楽の効能もさまざまだ。

KAWAGUCHI の繊細な指弾きのアルペジオで始まったのは、最新アルバム『継承』に収録されている「 Reリスタート」だ。2人とも床に座っての歌と演奏。EMILYの真摯な歌声が深く入ってくる。「するめいか」「骸骨」「 Reリスタート」と続けて披露されることによって、初期から現在まで、すべての曲が繋がっていることも見えてくる。この10年間だけでなく、高円寺で生まれ育ってから、今までの時間の流れやその時間の断片が、HONEBONEの歌の中に刻まれていることがよくわかる。

この日は即興コーナーもあった。実はかつてHONEBONEは、NHK BSプレミアムの番組『うたう旅〜骨の髄まで届けます』に出演していた。番組の内容は、全国の働いている人の住む街に行き、働く人々の話を聞き、即興の歌をプレゼントするというものだった。「私たちの強みは実は即興なんです」とのことで、この日のステージでも即興コーナーが実現したのだ。観客からお題を募り、「夢にまでみた日」「世界一周」「室井慎次」などのワードを盛り込んで、即興で歌をこの場で作り、披露するという展開である。「整いました」というEMILYの言葉に続いて、2人の息の合った即興ソングの演奏に、大きな拍手が起こった。「最後、無理矢理じゃなかった?」とKAWAGUCHI からツッコミが入る。そんな2人のやりとりも楽しいコーナーとなった。

「NHKの番組で即興で初めて作った曲です」という紹介に続いては、「赤ちょうちん」が演奏された。人生の断片が見えてくるような、味わい深い歌だ。EMILYのスキャットとKAWAGUCHI のギターの音色が優しく響く。さらに初期の曲「ソーセージ」が続く展開。愛するがゆえの悲しみや痛みが伝わってくるラブソングだ。EMILYのせつない歌声が深い余韻を残す。KAWAGUCHI のギターの音色がとても優しく響く。

読売ジャイアンツの丸佳浩選手のお祝いのビデオメッセージが流されて、丸選手の登場曲として制作された「夜をこえて」が演奏された。歌が始まった瞬間から、観客も立ち上がって、ハンドクラップとかけ声で参加していく。たくさんのこぶしが天井に向かって突き出されている。会場内の全員が一緒になって、夜をこえていくかのようだ。続いての「酔いどれ数え唄」では、江戸歌舞伎連の4人が客席後方から登場して、阿波おどりで参加する場面もあった。高円寺名物といえば、阿波おどりである。祭のにぎやかさ、楽しさが会場内に充満していく。EMILYも一緒に踊っている。とりあえず生を頼んだところから、ジョッキを重ねるごとに盛り上がっていくように、会場内の熱気もさらに加熱していく。踊る阿呆と歌う阿呆と観る阿呆。全員が阿呆になるお祭り空間だ。続いての「ナマリ」も観客参加型の歌。うちわを振っている観客を標的にして、鉛の球をぶちこんでいくように、力強い歌と演奏がズシッと客席に届いていく。

「10年、ワンマイク・ワンギターでやってきました。これからもお互いにはお互いしかいない形でやっていくと思います。この世界には化け物みたいな人たちがいっぱいいるから、負けないぞという気持ちでやらないと、すぐ折られます。負けられないぞという曲を込めた曲です」というEMILYの言葉に続いて、「一点突破」。これからに向けての前向きな意思を表明するような歌だ。KAWAGUCHI がのけぞりながら、全身でギターを弾き、そしてコーラスしている。気迫あふれる2人の歌と演奏に会場が揺れる。さらに、観客も一緒にハンドクラップとコール&レスポンスで参加したのは「フリーター」。KAWAGUCHI がしゃがみながらギターを弾いている。EMILYが床に転がりながら歌っている。本能や衝動もむきだしの歌とパフォーマンスによって、全員が「お金ください」と歌うシュールな光景が出現した。一転してEMILYの切実な歌声が染みてきたのは「生きるの疲れた」だ。ひたすら弱音を吐く歌なのだが、2人の歌とギターから、最終的に前向きな意思が伝わってくるところが素晴らしい。

「ありがとうございます。私はみなさんのことが本当に大好きです。10年やってきて、みなさんの大切さがわかりました。最後の曲はみなさん、ひとりひとりに届きますように思いを込めて歌います」というEMILYの言葉に続いての本編最後の歌は「祝祭」だった。温かみのある歌声、コーラス、ギターが、観客を包み込んでいく。この曲もまた、観客への感謝の思いがたっぷり詰まった「大感謝祭」テーマ曲のように響いてきた。観客が手を振っている。「絶対元気でいてね。また会うんだよ」とEMILY。

アンコールでは、マイクやアンプを通さず、生の歌声と生のギターの音で「一歩ずつ」が演奏された。“歌の近さ”をはっきりと実感した。音量は小さくなるのだが、歌と演奏とが強く深く入ってきたからだ。これは過去ではなく、未来に向かって進んでいく歌だろう。本編最後の曲の前には、EMILYからこんな言葉もあった。
「“10周年”とか“長くやっている”と言われると、正直悔しいです。長くやってて、なんでこの位置なんだよって思います。でもこれは自分の実力です。どうするかというと、やり続けるしかないです。HONEBONEは懲りずにアルバムを出します。大きな会場で歌いたいです。次にやりたい会場はEX THEATER ROPPONGIです。どうかこの旅についてきてくれませんか」とEMILY。その言葉とシンクロするようなKAWAGUCHI のシャープなギターのカッティングも印象的だ。

続いては、「リスタート」。EMILYのアカペラの歌での始まり、さらにKAWAGUCHI のタフなストロークが入ってくる。「見てて」とEMILY。今の2人の意思がそのまま歌詞とメロディとリズムに宿っている。観客に向けて、そして空に向けて決意を表明するような、大きな歌だ。アンコール最後の曲は、オープニングと同じ「HONEBONE10周年のテーマ」だった。カラオケが流れて、珍しくツーマイクでの歌。KAWAGUCHI もマイクを持って歌っている。パンキッシュでポップで爽快で痛快。観客も一緒に歌っている。KAWAGUCHI が歌の途中で、「ありがとうね、ありがとうね」と挨拶しながら歌うと、大きなハンドクラップと歓声が起こった。2人が観客と握手しながら、ステージ後方の出口へと向かっている。最後に「バイバイ」とEMILY。なんとハッピーでフレンドリーな空間なのだろうか。会場内の全員を笑顔にしてしまう楽しいエンディングだ。

“笑い”で始まり、“笑い”で終わるライブ。高円寺の飲食店メニューにたとえるならば、ネギと鳥肉が交互に刺さった焼き鳥みたいなステージでもあった。七味などの薬味も効いている。熱々で、ジューシーで、香ばしくて、スパイシー。感謝の気持ちもたっぷり詰まっているけれど、悔しさや闘志も滲むところがHONEBONEらしい。祝いながら、感謝しながら、次に向けてファイティングポーズを取っている2人がいた。10周年は、HONEBONEの音楽の旅の始まりにすぎない。

SET LIST

01.HONEBONE10周年のテーマ
02.とりあえず、生!
03.満月こわい
04.オムニマッ
05.東横戦争
06.するめいか
07.骸骨
08.Reリスタート
09.赤ちょうちん
10.ソーセージ
11.夜をこえて
12.酔いどれ数え唄
13.ナマリ
14.一点突破
15.フリーター
16.生きるの疲れた
17.祝祭

ENCORE
01.一歩ずつ
02.リスタート
03.HONEBONE10周年のテーマ

公演情報

DISK GARAGE公演

ライブ情報

■『イロドリノセカイ×立花綾香コラボ企画』【イベント】
2024年10月25日(金)SHIBUYA TAKE OFF7

■HONEBONEワンマンライブ〜うっとりライブ〜【ワンマンライブ】
2024年11月1日(金)sunsetBLUE[名護]

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2024年11月9日(土)Slowbird[大阪]

■HONEBONEワンマンライブ〜こってりライブ〜【ワンマンライブ】
2024年11月10日(日)Somenokyoto[京都]

■Great Hunting Night VOL,92【イベント】
2024年11月23日(土)渋谷B.Y.G

■Candle Night vol.2 ~Acoustic Fragrant~【イベント】
2024年11月24日(日)Tokyo Guesthouse Oji music lounge

■高橋亨明 活動23周年企画 「僕のキーマンVol.5-張-」【イベント】
2024年11月30日(土)大塚LIVE×BAR〇

ライブ詳細はこちら

  • 長谷川 誠

    取材・文

    長谷川 誠

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  • 撮影

    小野洋平

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