そこで、「今年は初めてフェスに行ってみようかな」という方はもちろん、すでに「フェス=夏の恒例行事!」という方にも、ぜひ読んでいただきたい「夏フェスのススメ」コラム連載です。
第1回は、サウナ以上に過酷な環境の夏フェスは、なぜこんなにも人を中毒にさせてしまうのか?その魅力のカラクリを紐解きます。
(DI:GA ONLINE編集部)
考えたら、夏の野外フェスって狂気の沙汰な催しものだと思う。なんせ、日中は下手すりゃ40℃を超えているのだ。屋根ひとつのない状況下、日傘といった防具は身につけず、攻撃的な日差しがいくら降り注ごうとも、逃げる素ぶりを一切みせず、己の身をその熱地獄の中に投じる。しかも、その場には似たような格好の老若男女が何千・何万人も集っていて、俯瞰でみたときの絵力の強さは想像を絶していると思う。環境面だけをピックアップすれば、修行中の坊主も真っ青な、ドMかつド・スパルタな空間。うっかり日焼け止めを塗り忘れた日には、己の地肌は第二形態へと進化を遂げる。考えれば考えるほど、ハードゲームすぎる状況だ。
いやいや、暑い中に身を投じているという意味ではサウナと似たようなものでしょ、サウナなら週一で通っているけれどめっちゃ「整う」よ、とのたまうサウナ民もいるかもしれない。が、野外の夏フェスとサウナでは環境面で天と地の差がある。サウナの場合、万が一しんどくなってもいつでもそこからエスケープできるし、その気になればクーラー全開のオアシスに身を投じることもできる。しかし、夏フェスの場合、そんな安息地は(原則)用意してくれない。クーラーはないし、数少ない日陰のゾーンは混戦中のオセロゲームよろしくな奪い合いと化しているし、売店で購入する飲み物は笑いが止まらないくらいぬるくなっている。おまけに、うっかり天候が変わって雨が降ろうものなら、状況は熾烈を極める。合羽を忘れた日には、禅の心をもって天からの雫を無感情に受け止めるしかなくなる。夏の野外フェスで雨に打たれてしまい、現役バリバリで活躍していたマイシューズが生まれた頃とはかけ離れた姿になってしまい、帰宅した後、惜しむらくもそのシューズに「引退」を通告した参加者も、きっと多数いるに違いない。トイレにおいても、ディズニーランドの人気アトラクションくらいの長蛇の列で、混迷を極めるケースは珍しくない。
そう。
端的にいっても、野外の夏フェスは快適とは無縁の場所なのだ。
そんな場所に赴くために、参加者は皆、数千〜数万円のお金を投じる。
シラフで考えてみたら、とんでもない環境で1日を過ごすために、とんでもない金額を積んでいるな、と思う。でも、世の夏フェスは毎年大盛況だし、一度夏フェスという沼に足を突っ込んでみたら、多くの人がリピーターとなり、毎年のライフサイクルの中に「夏フェス」の文字を深々と刻んでいる。
なぜか。
答えは、シンプルだ。夏フェスという空間には、合法的な中毒性が宿っているからだ。少なくとも、他のアクティビティーにはない中毒性があって、求めずにはいられない身体になっているから。内面から生まれるその渇望を満たすために、まんまと進んですすんで過酷な環境に足を進めるのだ。
・・・と書いてみても、夏フェスに参加したことがない人からすれば何が何やらだと思う。そこで、この記事では、そのカラクリを項目ごとに抑えて、説明してみたいと思う。
夏フェスの魅力とは?
1.普段は観ることができないアーティストが観れる
好きなアーティストであればワンマンライブに行っている、という人も多いだろう。が、気になっているアーティスト全てのワンマンライブに行っている人はきっと少ないと思う。あるいは、できればワンマンライブに行きたいんだけど、倍率がエグくてまったくチケットが当たらない、というアーティストも一定数存在する。でも、夏フェスだと、そういう悩みを一挙に解決する。規模が大きい夏フェスだと観たいと思っていた話題のバンド・アーティストを、ぞくぞくブッキングしてくれるからだ。しかも、そういうフェスのヘッドライナーはファンクラブに入っていないとチケットが当たらないような大物アーティストだったりして、それは豪華なのだ。特上の海鮮丼のように、多種多様かつ豪華な顔ぶれが一同に集結するのが、夏フェスなのだ。しかもフェスによっては、普段は「アイドル」として活動しているあのアーティストも、普段はゴリゴリでエネルギッシュにライブをしているあのロックバンドも、ストイックかつキレキレの演奏を黙々と行うあのバンドも、キュートとフレッシュさがウリのあのグループも、同じステージに立ってパフォーマンスを披露することもある。たくさんの人の「観たかった」を叶える場として、夏フェスは君臨する。ただし、ワンマンライブのチケットが即完するアーティストに限って、「次はライブハウスで会いましょう」とかMCをするので、その時だけちょっとムッとしたりするという余談。
フェスでは何千と集客するのに、ワンマンだと数百でもなかなか完売にならないというケースがあって、きっと「知ってる曲だけ聴けたらそれでいい」と思っている人が多い故の状況なのだと思うけど、そういうバンドのライブハウスでのライブって非常にかっこいいケースが多く、一度足を入れると、沼。
— ロッキン・ライフの中の人 (@rockkinlife) June 4, 2022
▲フェスで出会ったアーティストのワンマンをチェックするのも楽しい
2.大好きなアーティストを「観たい位置」で楽しめる
夏の野外フェスの多くが、スタンディング制を採用している。そのため、通常であれば抽選の指定席で観る必要があるアーティストも、夏フェスのときばかりは理論上、観たい位置でライブを観ることが可能になる。もちろん、最終的には譲り合いの精神が必要で、ある程度は折り合いをつけながら自分の観る場所を調整する必要はあるが、それでも自由度は高い。あと、バンドによっては”ノリ方”が大きく異なるので、自分の好きなアーティストと同じノリであると思って前の方に行ったらどえらいことに巻き込まれた・・・というケースもあるので、そういう「調整」も必要だとは思う。ただ、色んな文化コードを持つアーティストと、色んな文化コードを持つお客さんが一同に集結してライブを観れるというのが、夏フェスの面白さのひとつであるということは、強調しておきたい。
ロックバンドのライブって「みんな自由に踊ろうよ〜」っていうゆとり教育タイプと、「腹から声出せよ!もっといけんだろぉ!!!???」というスパルタ教育タイプがいて、音源だけじゃそれがわかんないから、たまにフェスでびっくりすることがある。
— ロッキン・ライフの中の人 (@rockkinlife) August 24, 2019
▲フェスならではの異文化交流もフェスの醍醐味
3.全力で、全身で、音楽を楽しめる
野外フェスは総じて会場が広い。なので、スペースがある空間だと、思う存分身体を動かして音楽を楽しむことができる。特に今年は、コロナ禍のフェスでは制約されていた動きの多くを”解禁”している(すると思われる)ケースが多く、その自由度はより劇的になる。人に迷惑をかけない形であれば、より自由に、より縛られない形で音楽を楽しむことができるわけだ。かつ、夏フェスのスケールを活かした楽しみ方ができるわけで、好きな方法で踊り狂ったり、常識の範囲ならわーわー声出しもOKであろう。今年の夏フェスは、そういう意味でも、より刺激的かつ魅力的になるように思われる。
フェス、身体の体力よりも先にケータイの体力、底をつきがち。
— ロッキン・ライフの中の人 (@rockkinlife) June 19, 2021
▲全力でフェスを楽しむには、体力づくりとモバイルバッテリーがマスト!
4.仲間と素敵な想い出を作れる
夏フェスは、ただライブを観るだけの1日ではない。メシを食ったり、各ブースに顔を覗かせたり、アウトドア的なアクティビティーを体験することができる魅力もある。そして、そういうライブ以外の要素が、想い出としてはより印象深く残る。なんなら、クソ暑い日差しや、クソ生ぬるいビールや、雨でびしょぬれになった時間こそが、その年の鮮明な想い出として記憶に残ることも多い。あと、より過激派になると、そもそも野外で酒を飲みながら音楽を聴けるというシュチュエーションだけで、エグいくらいのアドレナリンを放出するようになる。誰がライブに出るかよりも、シチュエーションそのものに圧倒的ドキドキを覚える境地の人もいて、こういう人はおおよそ無敵である。
5.その日にしかないドラマ的なライブを目撃できる
夏フェスって良い意味で事件性が強く、この日のこのライブでしか観れないパフォーマンスやMCを聞けることが多い。特に普通のライブでは実現しないラインナップや盟友が集っているフェスだったりすると、思いがけないコラボパフォーマンスや感動的なMCを目撃することも多い。また、準備万端のワンマンライブでは絶対に発生しないトラブルが、そのライブのプレミア性を付与するケースもある。マイクトラブルとか何気ない演奏ミスが、そのライブを奇跡的なものに繋げるケースもあるのだ。しかも、こういう「事件」は思いもかけないアーティストの、思いもかけないタイミングで訪れる。そしてこういう場面を目撃することができたら、きっとその人の音楽体験にとっても、一生のものになることであろう。
アーティストの主催フェスは、出演アーティストごとに主催バンドとのドラマがあるから、フェスの濃度が高まりがちだし、フェスでのハイライトてんこ盛りになりがち。
— ロッキン・ライフの中の人 (@rockkinlife) September 3, 2022
▲その日限りのコラボもあるかも…?目当てのバンド以外も見逃せません
・・・とまあ、ざっくりと夏フェスの魅力を書いてみた。
色々書いてみたが、百聞は一見にしかずなところはあるので、自分のトーンに合いそうなフェスや、観たい人がラインナップされているフェスがあれば、ぜひ参加してみてほしいと思う。夏フェスは、大きな口を開けて、今年も待ち構えているから。やがて、油断して、その沼に足を踏み入れたとき、あなたもまた、その中毒に魅了される一人となる。特に今年は4年振りに”コロナ禍のルール”を撤廃して開催できるということで、どの夏フェスもきっと例年以上に気合いを入れて本番を迎えるだろうから。きっと、それぞれのフェスの魅力を全開にして、各フェスの沼はより深く、より研ぎ澄まされることになるだろうから。で、きっかけは好きなアーティストが出ているからとか、好きな人にデートで誘われたから・・・みたいな人ほど、意外とその沼にまんまとハマり、良い意味でその中毒性に魅了されるのだ。
自分の周りの人も実体験も含めて、そういう事実がわりとあるよ、ということを最後に記して、この記事を締めようと思う。
複数ステージのあるフェスにいくと、幾つもの身体に分身したくなるし、観にいけなかったライブのレポをみて悔やんでしまう毎日。
— ロッキン・ライフの中の人 (@rockkinlife) October 14, 2020
▲どのフェスに参戦するか、どのステージを観るか。悩むのも楽しいのです