結成から11か月、8月31日に1stフルアルバム『Genesis』でメジャー・デビューした令和生まれ、(顔が濃いメンバーも)日本育ち。ROCK・PUNK・HIP HOP全部をミクスチャーし、熱いメッセージを発信するコロナ禍に突如現れたロックバンドの救世主・ASH DA HERO(読み:アッシュ・ダ・ヒーロー)が、音楽ライヴシーンにいま、センセーションを巻き起こしている。
この夏のSUMMER SONIC 2022出演やHYDE主催の対バンイベント<HYDE LIVE 2022 RUMBLE FISH>、イナズマロックフェス2022への登壇などは、まさに彼らの期待度の高さを物語っている。そんな彼らのライヴをいち早く観たいと思い、現在全国で開催中のバンド始動後初となるツアー<LIVE TOUR 2022”Genesis”>の神奈川・F.A.D YOKOHAMA公演にかけつけた。
9月17日、ツアー3本目。F.A.D YOKOHAMA公演のチケットは早々にソールドアウト。18時ジャスト、客電が落ちる。「Genesis」をSEに、フロアから上がる拍手に包まれながらステージ後方にDhalsim(DJ)、WANI(Dr)、前方にSato(Ba)、Narukaze(Gt)がスタンバイ。最後にASH(Vo)が出てきて、お立ち台の上で両手を広げる。そのとき、ロックの磁力みたいなものが一瞬にしてステージから立ち上がった。その場の空気を一息に自分たちのものに変えてしまうパワーが凄すぎる。これだよ、これ。ロックの神様に選ばれ、生き様(1度は夢を諦めたメンバーばかり)までロッカーじゃないと出せない“オーラ”というやつだ。獲物を狙う猛獣のような表情を浮かべ、ASHが強い眼力をフロアに飛ばす。まだ曲も始まっていないのに、そこに5人がいるだけで“圧”がすごいのだ。Narukazeのカウントからオープナーはアルバムと同じ「New Revolution」。
ASHの咆哮が会場に鳴り響き、激しいヘドバンと同時にDhalsimのスクラッチがフロアに広がった。かと思えば、その直後、クールなラップパートへ。グロウルから一転、ここにはもう1人ラッパーがいるんじゃないかというぐらいのクオリティーで、ASHがラップを刻んでいく。さっきまでヘドバンをしながら、野外スタジアムのような迫力で響いていたWANIのドラムはビートに切り替わり、笑顔で幸せな空気を場内に運ぶSatoはフィンガーピッキングで滑らかに音をつなぎ、その上にNarukazeがフレーズをループさせて被せていく。使用しているギターはグレッチ!
DJを入れたバンドの音像、リズム感覚、5人5様のNew Revolutionを感じさせるプレイ、サウンドデザインを冒頭からお見舞いしたあと「よく来たな。Genesisツアーへようこそ!」とASHが挨拶を告げる。このワードを入れるタイミング、そこから次の曲が始まるテンポ。もうすべてが“ライヴセンスがいい”としかいいようがない気持ち良さ。このASHの一言から滑り込んでいった「DAIDARA」。ヒップホップライクな激アツナンバーを体に浴びせかけたあとは、キラーチュン「YELLOW FEVER DANCE」へ。フロアはぶち上がらない訳がない。終盤、ASHがフリースタイルラップをかまして観客を煽りだすと、Dhalsimがすぐさまスクラッチをかぶせて後押し。3本目にして、フロアもメンバー同士の息もピッタリ合っている様子。「そうそうそうそう。ライヴハウスってこうだった。すでに序盤だけでマスクの下、ぐちゃぐちゃになってる笑顔が分かります」とフロアを褒め称えるASH。観客のはちゃめちゃな盛り上がりを認めながらも、もっと越えていけといわんばかりに次はアルバムから、すでにASH DA HEROの破壊力満点のキラーチューンに育った楽曲を2連発で投下。「Merry Go Round」では歌詞に合わせてSatoがベース回しのパフォーマンスをバッチリきめ、「WARAWARA」が始まるとフロント3人が同時にお立ち台にポンと飛び乗る。3人の存在感が圧の塊となってフロアに降り注ぐと、それに応えて、観客たちはタオルをぶんぶん回し、フロアに絶景を作りあげ、ステージの彼らにプレゼントした。
WANIが前半戦のピークをクールダウンさせるように、ジャジーなドラムを鳴らしだす。一番にその誘いに乗っかったのはASHだった。ロックやラップを歌うときとはスイッチを変え、ソウルフルなフェイクでドラムと絡んでいく声が、じつに色っぽい。それを合図に他の楽器隊も加わり、ステージでジャムセッションが始まるとアダルトな雰囲気が場内いっぱいに広がっていく。全員のソロ回しに続いて、Narukazeがご機嫌なロカビリーテイストなフレーズを解き放つと「Avengers」へと切れ目なくなだれ込む。楽器隊の見せ場が続いたあとだからこそ、「Avengers」の小気味よく跳ねるリズム、続く「Dead or Alive」はファンキーなグルーヴを生み出すアンサンブルが心地よく観客の体を揺らしていく。そして、ここで披露した2曲はどちらもラップやDJを使う事で、懐かしい要素をベースにした楽曲をニュースクールなところに落とし込んでいるところが、とにかく爽快だった!
このあと、ASHがこの会場について「初めて来たけど、中華街のど真ん中。こんなところにライヴハウスがあって最高だな」と感想を述べ、その流れでオーディエンスに中華街で何を食べたのかを質問すると、回答はゼロ(笑)。いろんな回答が出たら「お前ら、ライヴ前に中華街満喫してんじゃねぇよ」というつもりだったというASHも、さすがにこのストイックさぶりには呆れ果て、笑いながら「いや、食べろよ〜。ここまで来たんだからさ」と一言。一見怖そうに見えるルックス、だがライヴではそんなASHが自然体でフロアに話しかけるおちゃめな姿も垣間見ることもできる。
そのASHが真っ赤なド派手なギターを自らかき鳴らしながら、次に歌い出したのは「からっぽの街」だった。ここからは、彼らの生き様がむき出しの人間ドラマとなって迫り来るASH DA HERO劇場が始まる。ASH DA HEROの真骨頂は、まさにこれ以降の流れだ。フォーキーなメロディーにのせ、全てに妥協して生きるからっぽの僕らだと嘆きながら、それでも“ I believe…”と歌う「からっぽの街」。1度夢を諦めた人間たちが歌うからこそ、胸の奥にズシンと響く言葉たち。これを「未完成ストーリー」へとつなげ、正解か不正解かわからないままずっと正面突破してきたこの道は、“お前の言葉信じてここに立ってんだ”と即興でASHが歌詞にないセリフを、観客の目を見ながら熱を込めて叫ぶ。
「ゴメン、トラブった。ギターいらねぇわ」とASHがギターを置き、改めて歌い出した「Never ending dream」。歌い出したとたんに激流のように溢れ出す言葉たち。ここでは“いつか夢見た あの景色も どうせ叶う事ないんだって”とかつての自分が嘆くように書いた歌詞に対して、いまのASHが最後に“お前が逃げるから、夢が逃げ出すんだよ“というフレーズを加えた。そうして、諦めた夢をもう1度つかんだいま。それでも、”憧れは憧れって割り切ればきっと楽だな“”強い人は眩しすぎて時々苦しくなるんだ“とネガティブな気持ちを正直に吐露。それでも”絵に描いたようなヒーローが主役じゃなくていい“から自分だけのストーリーをかき鳴らせと、最新アルバムの「レーゾンデートル」を情感たっぷりに歌唱。彼らが歩んできた人生を、楽曲を通して体感した観客たちは、誰もがこの魂の叫びのような歌に心が揺さぶられていく。
このあとはDhalsimのDJスクラッチショーが場内のテンションを徐々にあげていき、ライヴは怒涛の終盤へ。曲中フロアのオーディエンスを座らせ、ASHがサビを歌い出した瞬間にみんなでジャンプをして、世界をぶち抜いていった「エゴイスト」で、まずはフロアを熱狂空間へと導き、その勢いのままASH DA HEROきってのパンキッシュなファストチューン「HERO」を投下。“争いじゃなく寄り添いを歌おう”という歌詞が、いまの世界情勢と相まって、この日は大きなメッセージソングとなり、祈りのような思いをのせて届いてきた。そして、この3年間、コロナで台無しになった生き方、生活、ライブ…自分たちの未来を台無しにされた心の怒り、痛みを「俺が歌にしてやるから」とASHがいい、“くそっくらえ”の歌い出しから「反抗声明」が始まった瞬間は、あの場所にいた誰もが熱いものが込み上げてきた瞬間だった。“やりたい事もわかりやしない 成りたいモノもどうせ成れやしない”、これまでたくさんの人を励まし、支えてきたこの曲に刻み込まれたメッセージが、バンドの鬼気迫る演奏でさらに共感を呼び起こし、それがオーディエンスのなかでとてつもない化学変化を起こして、ポジティヴなパワーへと変換されていく。バンドと観客の想いが真っ向から響き合い、全てをさらけ出すことで、ポジティブな生きるエネルギーへと変換していくライヴ。これがASH DA HEROのロックンロールのマジックの正体だ。ライヴ後半、どんどん曲に自分を暴かれて感情が溢れ出し、エモーショナルに鼓動が高まっていくフロアに、さらにASHが夢だけじゃない“現実”を語りかける。「人生、クソみたいに嫌なとき、消えてしまいたい夜もある。そして、今夜みたいにこんなに素敵な夜もある。それが人生。だけど人生、自分が諦めなければ、いつだってそこから始められる」といってライヴは「Just do it」でさらなるクライマックスへと上り詰めていく。アルバム曲でありながら、いまやこの楽曲は悩み、苦しみ、それでも諦めきれず、精一杯に生きようとする者たちのアンセムへと成長。メンバー5人はとびきりの笑顔でこの曲をフロアに集まった一人ひとりに刻み込んでいく。そして、「Remember」は“HEY”と叫ぶかわりに、フロアが一斉ジャンプをばっちりと決め、最後は「世界をぶん殴れ」でステージとフロア、渾然一体となって世界をぶん殴りにいき、ライヴは熱狂と爽快感とやりきったという達成感に包まれたなか、本編のみで潔くフィニッシュ。
ツアーはまだまだ3本目。アルバム曲は全曲やりきった。ソロ時代の曲はバンドアレンジを施し、公演ごとに披露する曲もどんどん変わってきている。このあと、各地で公演を繰り広げてきたあとASH DA HEROは10月29日、ツアーファイナルとして東京・Zepp DiverCity(TOKYO)のステージに立つ。今回のツアー、イベント、さらにはアルバム音源やSNSなどを通じて、このASH DA HEROというバンドが少しでも気になった人には全員、このステージを観て欲しい。いま大躍進を遂げている最中の彼らとともに、当日は最高の景色を一緒に作って、シーンにさらなるセンセーションを巻き起こしてもらいたい。
SET LIST
01. Genesis
02. New Revolution
03. DAIDARA
04. YELLOW FEVER DANCE
05. Merry Go Round
06. WARAWARA
07. Avengers
08. Dead or Alive
09. からっぽの街
10. 未完成ストーリー
11. Never ending dream
12. Rain on the roof
13. レーゾンデートル
14. エゴイスト
15. HERO
16. 反抗声明
17. Just do it
18. Remember
19. 世界をぶん殴れ