コロナ禍で途絶えているものの、2018年から東アジアで開催されているフェスに足を運ぶようになった。とはいえ、フェスティバルジャンキー的な人に比べれば、まだ2ヶ所しか参加できていない自分のような人間が大手を振って紹介できるものでもないのだが、国内の大規模フェスも20年以上参加してきたこと、2010年代後半に日本では中規模ライブハウスの常連バンドがむしろ海外ツアーで歓待を受けていたり、若者の人口の多い都市の魅力を実際に耳にしたり、カルチャー誌で目にすることが多くなってきたこともあり、俄然、現地の空気に触れなければ!という気運が上昇した。特に当時まだ水曜日のカンパネラに所属していたコムアイの「日本に帰国するとすごく年寄りの国って感じがする」という言葉はずっと耳に残っていた。
そこでまず2018年にフジロック仲間はすでに何度か足を運んでいた香港の「Clockenflap」のチケットを取ってみた。その当時はそこまでプレミアムなステージであることを意識していなかったのだが、デイヴィッド・バーンの「アメリカン・ユートピア」のステージ上にアンプや機材のないコンセプチュアルな演出は噂に訊いていたし、他にもエリカ・バドゥやカリード、UKのワーカーも多い香港ならではなのか、ジャービス・コッカー、シガレット・アフター・セックス、インターポールら、気が利いたラインナップもいい。日本からはCornelius、Suchmos、D.A.N.が出演しており、総じて俺得!なラインナップだったことも参加を後押しした。
まあ実際に会場に着いて驚いたのは空港からの近さ。さらに東京で言えば銀座のような高級ブランド街から歩ける距離にフェスが開催できる空き地があるような体感に驚く。そのアクセスの良さのせいか、オーディエンスはクラブにでも行くようなおしゃれさで、しかも地元香港の若者、ビジネスで成功した感じの欧米人、留学生などなど、総じてパリピ色が強い。日本で上記のラインナップなら、真剣にライブを見る傾向になりそうだが、彼らはあくまでもこの都市型フェスを社交場として楽しんでいるようだった。
最前列でも電話してる客もいるが、行きたければ最前列まで潜り込めるし、のんびり舗装された地面でビールとピザを楽しみながら見ることもできる。ただ、地元の音楽好きの学生と見受ける客たちは貪欲にライブやDJを楽しんでいて、D.A.N.のライブに陶酔するクィアのカップルを発見したときは素直に誇らしかった。香港の高層ビルとナイスミュージックもプレミアム。
加えて、ドリンクやフードはリストバンドにデポジットするシステムで、残金は帰るときに現金に換金される。こんなことひとつとってみても2018年時点ではかなり新鮮に感じたものだ。
加えて、交通機関や荷物預かり所のスタッフに20代の若者が目立ち、スピーディかつ親切に対処してくれる。一方、街の換金所やスタバの女の子は皆、無愛想でそれもむしろ気持ちが良かった。フェス会場の中も外も自分や仲間と楽しく過ごすことが第一で、素晴らしいアクトには賛辞を贈り、また、中にはオタク気質のファンも少しいる。そのバランスが自然で好ましかった。それだけに民主化を求めて行われるデモが激化していくプロセスは対岸の火事とは思えなくなったのも確か。同時に自主独立のマインドや国際性は「Clockenflap」の端々にも感じられた。今年は4年ぶりに開催される予定だが、動向を見守りたい。
贅沢しなければ数万でチケット、エア、宿泊とちょっとした買い物も楽しめることに気づき、2019年はタイのフェス「Mahorasop」というインディーっぽさ溢れるフェスに参加した。確かnever young beachのTwitterでこのフェスの存在を知ったと記憶している。彼らの他に日本からはCHAI、LITE、The fin.が出演していた。後者2バンドは明らかに海外の動員のほうが多いバンドだ。海外アーティストは同年のフジロックでも見たKing Gizzard & The Lizard Wizard、The Drums、BADBADNOTGOOD、タイのポップスター、PHUM VIPHURITや韓国のSAY SUE ME、現地のDJなどなど。
このフェスも会場に度肝を抜かれた、というか、「え?こんな川崎の外れの国道沿いみたいな場所のどこにフェス会場があるの?」と、びびり倒しながら向かったのだが、まあ確かに規模は大きくない。校庭ぐらいのメインステージと、それよりさらに小さいサブステージ、屋内のダンス、テクノ、ハウス系のエリアで構成されている。でも、主に学生スタッフなのだろうか、自主的に入場者をさばきつつフレンドリーだ。このフェスも「Clockenflap」同様、リストバンドには参加者の名前や連絡先、通し券か1Dayかなどのデータがチケット購入時のデータとリンクする仕組み。ちなみにタイのUberみたいなGrabという配車システムも使いやすく信頼度も高くて、すべからく日本の遅れを感じてしまう。
フェスそのものはラインナップの音楽性もあり、バンコクのおしゃれでしかもチルい若者が続々やってくる感じ。アジアで人気が高いことは薄々知っていたが、ネバヤンの曲の認知度の高さに驚いたりも。それでもやはり、フェスに集まる若者たちは仲間や恋人とのおしゃべりや、ただぼーっと過ごす時間が楽しいみたいだった。ちなみにタイの交通事情はなかなかエクストリームで、渋滞にハマるのがいやなのか、原付タクシーがまだまだ活躍していて、タイトなワンピースのお姉さんが横座りで爆走する原付に涼しい顔して乗っていたりするのだ。慣れと言えば慣れなのかもしれないが、こうした光景と若者の多さそのものにエネルギーを感じた。
香港もバンコクも都市型フェスだったせいか、参加者も日常の延長的に楽しんでいる様子がタフに見え、かっこよかった。日本でよくいう「フェスに参戦!」みたいな気負いは感じられない。でも、同じステージにさまざまなバックボーンの人が感銘を受けている、その状態は日本の外に出てみることで、より実感できるのは確かだ。ぜひ、東アジアのフェスをチェックしてみてほしい。