インタビュー
伝説のアイドルグループ・キャンディーズの解散からちょうど40年経った、2018年初夏、そのプロジェクトは静かに動きだした――メンバーだった伊藤 蘭の歌声を41年ぶりに世の中に届けるべく、初のソロアルバムの制作がスタートした。数々のヒット曲を世に送り出したキャンディーズが、シーンから姿を消し、あまりにも多くの時間が過ぎていた。伊藤 蘭は女優として確固たる地位を築き、歌の世界からは遠ざかっていた。しかしこのタイミングで、何が伊藤の心を動かし、歌う決意をさせたのだろうか。レコーディング真っ最中だという伊藤は、「すべてのタイミングが合ったという感じで、思いがけず弾みがついてしまったというか(笑)。これまでは女優として舞台で歌を望まれることもありましたが、歌とは線というよりは、点線で繋がっていたという距離感でした」と教えてくれた。歌でこの世界に入ってきた伊藤の心から歌の事は消えることがなかったが、濃い霧がかかっていたような状態だったのかもしれない。他のアーティストのライヴを観に行っても「完全に観客であって、自分では歌いたいという気持ちには至らなかった」という。
「昨年春に事務所からそろそろ歌をやりませんかと言われたとき『やったほうがいいのかな』って直感で思ったんです。もちろん歌うということに自信なんてないですし、でも年齢的な事も考えると、そうそうこんなチャンスがあると思えないですし、まだエネルギーがあるうちに、歌ともう一度向き合うのもいいのではないか思いました。間違いなくラストチャンスだと思ったから。別に歌が嫌いになったわけではないですし、お芝居に夢中になりすぎて、ちょっと疎遠になった友達に久しぶりに会う感じでしょうか(笑)。また、一緒にやりましょうと言ってくれたプロジェクトチームひとりひとりにぬくもりと信頼を感じたことも大きかったです。」と、“歌おう”と決めた理由を教えてくれた。
色々な作家に曲を発注。「今の伊藤 蘭に歌わせたい曲」が110曲も集まった。その中からスタッフと共に11曲をセレクトした。「私が感じている世界観を曲に反映して、それを日常の中で、色々な場面で聴いていただいて少しでも幸せな気分になっていただけたらなって思いました」。作家陣は豪華な顔ぶれが揃った。井上陽水、阿木燿子×宇崎竜童、トータス松本、森雪之丞etc…ポップス、ロック調、バラード、ディスコっぽいもの、ボサノバ調と、多彩な曲が揃った。「レコーディングは、一曲を録り終わるごとに、一難去ってまた一難という感じで、結構追いつめられてるような気がしました(笑)。これは昔と変わらないですね。いざマイクの前に立つと、どこに向かって歌えばいいのかという感覚が甦ってくるまでに、少し時間がかかりました。昔は若さゆえ力任せに歌っていた部分も多かったかもしれません。でも今回の楽曲は、曲もアレンジも素晴らしいものばかりで、それを伝えるためには、いかに力を抜いて無理をしないところで歌うというのが、一番のポイントかな思いました」。
どの歌にも感じるのが、表現力はもちろんその“耳心地のよさ”だった。キュンとさせてくれたり、色っぽさを感じさせてくれたり、丁寧に歌を紡いでいるのが伝わってくるが、際立っているのは、なんといってもその“耳心地のいい”声の存在だ。
「女なら」「Wink Wink」「ミモザのときめき」では作詞にも挑戦している。「思い浮かんだフレーズや言葉を使いたいと思っても、メロディにのせた時に、それが効果的に聴き手に届くかというと、そうとは限りませんし、やはり詞は、シンプルな方がいいんだな、など試行錯誤しながら作る作業も楽しいことでした。どんな年齢層の方でも、それぞれが自分と重ねることができて、気持ちを寄せることができる歌が、聴いてくださる方も、歌っている方も楽しいと思います」。
アルバム発売後は、それをお披露目するコンサートも予定されているという。
「コンサートやお芝居でも、観に来てくださっているお客さんの目線に助けられる部分がとても大きいと思います。“与えられた場所”だと思っていますので、その期待に応えられるよう、来てくださった方々と楽しい時間を共有できるよう努めたいと思います。」と、久々に立つステージへの意気込みを教えてくれた。
(聞き手:田中久勝)