梁 邦彦 Episode 2『Holly Piano Night w/Recorder Quartet』
2018年11月15日(木) キリスト品川教会 グローリア・チャペル
[出演]梁 邦彦
《リコーダーカルテット》Flied Recorder - 金子健治、安井敬、早﨑靖典、庄司祐子
《Percussion》クリストファー・ハーディ
[スペシャルゲスト]《二胡》ジャー・パンファン(賈鵬芳)
梁 邦彦は常に新たな変化と成長を求め続ける音楽家だ。音楽監督を務めた平昌オリンピックの開閉会式式典で、オーケストラ、民族音楽、ロック、ダンス・ミュージックなどを融合した壮大なスペクタクルで世界中を感動させたことは、未だ記憶に新しい。その一方で、4月のビルボード大阪公演では押尾コータロー(Gt)を迎えてピアノ+ギター+パーカッションというクラシカルな小編成、8月には〈Ryo’s Mint Cafe Trio“First Breeze”〉と題し、櫻井哲夫(Ba)、古川望(Gt)と共にジャズの香り漂うパフォーマンスを披露するなど、自由なスタイルと音楽性でファンを楽しませてくれている。
中でも11月15日に品川教会グローリア・チャペルで行われた〈Holly Piano Night〉は、とりわけ忘れがたい印象を残すものになった。共演は金子健治率いるリコーダー・カルテット〈Flied Recorder〉と、長年の盟友であるパーカッショニストのクリストファー・ハーディ、そしてスペシャル・ゲストに二胡奏者の第一人者、ジャー・パンファン。美しいピアノの旋律が夜明けの光のように瑞々しく感じられる「The Gate of Dreams」から、躍動的なパーカッションがリズムを引っ張る「永遠の夏」へ。刻々と変化するテンポ、メジャーとマイナーが交錯するメロディが心地よく、観客から自然に手拍子が湧き上がる。
「19年振りにここでやります。変わってないですね。響きが素晴らしいです」
教会ならではの荘厳な空気と、包み込むような自然なエコー。儚くもの悲しい旋律の「Rainbow Seeker of Ordos」から、快活な手拍子が響く「Mint Academy」へ、次第に熱気を帯びる観客を見渡して「立ちあがって踊ってもいいですよ」と笑顔で話しかける梁。代表作の一つであるTVアニメ『十二国記』からの「十二幻夢曲~狐月蒼夜」では東洋的な音階とスティール・パンの幽玄な響きに引き込まれ、同じくTVアニメ『英國戀物語エマ』からの「EMMA Medley」は、リコーダー・カルテットと共にクラシックの組曲のように格調高く整えられた旋律をたっぷりと。ピアノとリコーダーのみで優雅な室内楽を作り上げてしまう、これぞ音楽探求家・梁 邦彦ならではの名演だ。
続く「WHO I AM」は、WOWOW制作のパラリンピック・ドキュメンタリーのテーマ曲で、梁が近年最も力を入れている作品だけあって、音に込めた緊張感と思いの深さに思わず背筋が伸びる。さらにパーカッションのクリスが華麗なソロ・パフォーマンスを披露して大喝采を浴び、間髪入れず「St.Bohemian’s Dance」の躍動するリズムへと移行。曲中で客席を二つに分けたクラップの掛け合いで大いに盛り上げる、インスト音楽とは思えない演出も梁 邦彦のライブの大切な要素だ。「Funny Finn from RAZZJAZZ FOR FOUR」はリコーダー・カルテットのみで奏でるわずか2分半の小品だが、のどかな音色にほっと一息つける愛らしい1曲。気が付けばライブもちょうど折り返し地点に差し掛かった。
「涙そうそう」は言うまでもなく、21世紀のスタンダードとなった名曲カバー。ピアノとリコーダーで、原曲のイメージを生かした端正な演奏に楽曲への愛が滲む。角笛とハンマー・ダルシマーのトライバルな響きが見事に溶け合う「Treasures~St.Medieval Rain」に続いては再びカバーで、Flied Recorder・金子健治の曲紹介により、A.チャールトン「Blues」とD.トンプソン「Kalymbo」を。ブルースからラテン・ダンスまで、リコーダーでここまでできるのかという新鮮な驚きが心を満たす。嬉しく楽しく、得したようないい気分だ。
「僕が大好きな二胡奏者、紛れもなく彼がナンバーワンだと思います。ジャー・パンファン!」
ライブ後半、この日の最大のハイライトは二胡奏者のジャー・パンファンとの共演だった。来日30年で梁とは旧知の仲、流暢な日本語でジョークを飛ばして笑わせたかと思えば、驚異のテクニックと情感豊かな演奏で観客を圧倒する。「風の誓い」からTVアニメ『ファンタジックチルドレン』に提供した「水のまどろみ」へ、西洋と東洋が融合したスケールの大きな世界が展開される。人の声に近い響きを持つ二胡は、ボーカルの役割だ。歌うように囁くように、震える旋律が心に染み入る。
本当はゲスト・コーナーはここで終わりなんですが…と言いつつ、「どうしてもジャーさんとやりたかった」という曲は「Echoes for PyeongChang」。ドラマチックなテンポの変化を持つシンフォニックな曲を、涼しい顔でやってのけるジャー・パンファンの超絶テクニックには圧巻と言うしかない。さらにもう1曲「Arienneの糸」は、ステージに灯されたキャンドル・ライトの光の中で奏でる神秘的なバラード。一人二人とステージを去り、最後に残ったクリスの奏でるチャイムが消えると同時に、夢からさめたように拍手が湧き上がる。気づけばすでに2時間近く、素晴らしい時間はあっという間だ。
アンコールは、再びジャー・パンファンを加えてホルストのカバー「Jupiter」と、快活に弾むラテン・ビートの「in our Hands」。幸せな時間を締めくくるにふさわしいエンディングだ。これで終わり…と思いきや、鳴りやまない拍手に応えて一人ステージに戻り、梁 邦彦がソロ・ピアノで披露したのは2015年の映画『アゲイン 28年目の甲子園』のテーマ曲「アゲイン」だった。ピアノ曲でありながら歌でもある、伸びやかなメロディが風に乗って教会の高い天井へと舞い上がる。ラスト・シーンの最後の一コマまでドラマチックな、一遍の映画のような美しいライブだった。
梁 邦彦の次のライブは、2019年2月1日、品川インターシティホールで行われる〈UTOPIA 2019〉に決まった。〈Ryo’s Mint Cafe Trio“First Breeze”〉がEPISODE1、この日の〈Holly Piano Night〉がEPISODE2、そして〈UTOPIA 2019〉がEPISODE3と、三部作として構成されたライブ・シリーズの締めくくりに、一体どんなステージを見せてくれるのか。進化し続ける音楽家・梁 邦彦の豊かな世界は、誰でもウェルカム。ぜひ足を運んでほしい。
★ライブ会場で1月から配布となるDI:GA1月号&DI:GA ONLINEにて、インタビュー掲載!
PRESENT
【特別企画】梁 邦彦 2/1(金)品川インターシティホール公演
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