20年間トップを走り続けてきたバンドの底力を見せ付けられた3時間だった。オーディオ的には難しい面のある東京ドームの中で、隅々まで歌詞がはっきりと伝えられる、桜井和寿はやはりとんでもないボーカリストだ。それに応えて、50,000人が大合唱するシーンも感動的だった。この日の東京ドームにあったのは、生活も性格も異なる多様な人々が、歌の力で一つになれるという確かな証明だった。
デビュー20周年のツアーに加え、21世紀にリリースした楽曲のベストアルバム『micro』『macro』のリリースが重なったこともあって、セットリストのほぼ半分はこの2枚からセレクト。もう半分も90年代の代表曲ばかりという、とても贅沢なメニューだ。巨大な恐竜の骨格を模したセットと、膨大な数の鮮やかなLEDライトが照らす中、オープニング「エソラ」から桜井は花道をセンターステージへと全力疾走し、田原と中川もステージ両翼まで広がって演奏する。3曲目「youthful days」が終わる頃には桜井の青いシャツはすでに汗だくだ。
「この会場にでっかいLOVEが溢れることを願いつつ…」
そう言ってから歌った「LOVE」や、「Everything(It's you)」のような90年代の代表曲は決してナツメロではなく、ライブで歌うのは珍しいという「デルモ」なども、歌詞の内容も含めてまったく古びてはいない。特に「つらいことがあった時、心の中でこの歌を歌ってくれたらうれしい」と言ってから歌った「終わりなき旅」の持つメッセージ性は、Mr.Childrenの放つメッセージの原点として今も胸に鮮やかだ。
中盤の見せ場は、小林武史を含めたメンバーがセンターステージに移動して演奏した「くるみ」「Sign」、そして「1999年、夏、沖縄」。アコースティック・ギターを持ち、ハーモニカを吹き、「1999年、夏、沖縄」で“きっとまた東京ドームで歌いたい”と歌詞を変えて歌う桜井は、50,000人のすべてと一対一の関係であることを信じて歌っているのだろう。その伸びやかな歌声には気負いも濁りもまったくない。
メインステージに戻ると、いよいよライブは終盤へ。強烈な四つ打ちのリズムとハードなギターがうなりをあげる「ロックンロールは生きている」では、ステージの幅いっぱいの5面スクリーンにサイケデリックな映像が爆発し、「Worlds end」「fanfare」とさらに激しくスピードアップしたあと、ラスト曲として「innocent world」のあの聴きなれたイントロが流れだす。白く大きな“卵”がアリーナにいくつも投げ込まれる中で、50,000人の大合唱に思わず歌うことを忘れた桜井が「スゲー!!」と叫ぶ。20年の歴史凝縮した、至福の一瞬がそこにはあった。
アンコール。2曲目「彩り」で、桜井が「ただいま」と歌うと「おかえり」と返す、バンドとオーディエンスの息はぴったりだ。そして本当の最後に最新シングル「祈り~涙の軌道」を万感を込めて歌い上げ、約3時間のライブは大団円を迎えた。最後まで寸分の狂いなく見事な歌を聴かせた桜井と、ほとんどの楽曲に大合唱で応えたオーディエンスとの信頼関係は絶大だ。まだまだ20年、これからもMr.Childrenはオーディエンスと強いつながりを軸として、名曲を生み続けていくだろう。