開演前のひととき、ステージの左右に掲げられた大ビジョンでは、金澤ダイスケが訥々とスペシャル・グッズの紹介をしていたり、あるいは金澤、加藤、山内の3人が富士急ハイランドのアトラクションに挑んでいたり、いずれもフワーッとした調子の映像が映し出されている。後ほど発表されたオーディエンスの数は1万6000人ということだったが、それだけの数の人間が集まっていながらなんだかひしめき合うという感じもなく、穏やかな陽光のなかでその映像の雰囲気そのままにステージはフワーッと始まったのだった。

確かな個性とこの日のライブに対する強い思いを持ったアーティストたちが次から次へと登場し、内容の濃いパフォーマンスをしっかりと披露してステージを去っていく。バンドの演奏まで含め、ステージ上で繰り広げられることはきっちり引き締まっているし、テキパキと転換を進めるステージ・クルーの仕事ぶりも見事なんだけれど、というかそれだからこそ最初に感じたフワーッとした心地良さが最後まで通奏低音のようにイベントを貫いていて、なんとも心地良い時間を過ごすことになった。そして、その心地良さを補強することになったのは、おそらくは“バンドというものに対する共感”とでも言うべき感覚で、それは斉藤和義や真心ブラザーズ、PUFFYといった、そのキャリアの最初から“非バンド”であった人たちまで含め、バンドという言葉で表現される人のつながりの不思議な魅力に感じ入っているミュージシャンたちが、フジファブリックというバンドを媒介にしてその感じ入っている気持ちを表現してみせた。その気持ちの確かさが、例えば洗濯物を干すときにパンパンと叩いて張りを与えるような効果を生み出したのだろうと思う。そして、その心地良さに印象的なアクセントを付けたのは、言うまでもなくフジファブリックの楽曲の魅力だ。いつもとは違うボーカリストによって歌われることによって、曲自体はよく知っているのにこれまで意識しなかったきらめきを改めてみつけた、というような感覚にとらわれることが少なくなかったんじゃないだろうか。言い換えれば、この日のライブを振り返ったときに思わず口をつくのは、例えば「フジファブリックってやっぱり曲がいいんだよな」という言葉だろうということである。

アンコールにはニュー・アルバム『MUSIC』から、山内がボーカルをとる最新曲「会いに」も披露されて、まさにフジファブリック音楽の全体を見渡すような構成で、4時間30曲というボリュームを感じさせないすっきりとした一貫性と、そのボリューム以上の豊かさを感じさせるライブだった。