バンド結成20年目記念"LATE BLOOMER SERIES 02"のスペシャル・ライブ。
山中さわお自身がMCで「ロック・ファンはあまり来ない場所だよね。オレは2回目なんだ」と語った恵比寿ザ・ガーデンホールの中に入ると、普段からなんとなく格調が高い感じのホールをさらにゴージャスに見せるセンター・ステージのセットが組まれていた。もうそれだけでスペシャル感十分。
600席限定という、まさにプレミアムなチケットを幸運にも手に入れたオーディエンスは、固唾を飲んで演奏を待つというよりは、そうした状況の全体にとらわれて単純に緊張していたと思う。
メンバーが登場し、山中さわおが「今日はこんな感じ」と、まずあいさつ。
「今夜はお互いにギクシャクすると思うけど」と笑いを誘って、客席を幾分リラックスさせたところで、静かに演奏が始まった。
当然のことながら、セット・リストはマニアックだ。
というか、アコースティック・アレンジで聴かせることを前提に選ばれたのであろうその曲たちは、いずれもこれまでピロウズという宇宙の片隅で慎ましやかにその個性をのぞかせていた曲たちだが、アコースティックなアレンジで演奏されることによって改めて確認されたのはその個性にはやはりそれぞれに味があり、そのニュアンスに富んだ世界はじつにピロウズ的であるということだった。
また、2曲演奏されたカバー曲の選んだポイントが「歌詞の部分で、オレが影響を受けたアーティスト」(山中)だったのも、当然アコースティック編成での演奏を意識したものであるはずだ。
大木温之(The ピーズ)と佐野元春のロックな言葉が持つ、言葉自体の詩的な先鋭性が、シンプルなアンサンブルであるがゆえにいっそうくっきりと浮かび上がることになったからだ。
SET LIST
1. Subhuman
2. She is perfect
3. Texan Daily Life
4. プラスチックフラワー
5. MONSTER C.C
6. Across the metropolis
7. チェルシーホテル
8. 傷跡の囁き 誰もいないパラダイス
9. レッサーハムスターの憂鬱
10. New Year's Eve
11. 犬ぞり
12. コヨーテ、海へ
13. Our love and peace
14. さよならユニバース
15. キミと僕とお月様
16. ONE LIFE
En1. WANT TO SLEEP FOR
En2. 雨上がりに見た幻
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こうしたマニアックとも言えるセット・リストやシックなアンサンブルまで含めたこの日のライブの全体が伝えるのは、ピロウズ音楽の懐の深さだった。
彼らは、ロックという表現の可能性を様々な角度から探り続け、結果その音楽世界をずいぶんと広げるに至った。その広がりをこの20周年というタイミングでオーディエンスとともに確認するひとつの試みがこの日のライブだった、というふうにも言えるだろう。
そして、その十分に練られた意図は、ゆっくりと、しかも確実にこちら側の意識の底にしみ込んでいった。
山中の強いこだわりでステージにあしらわれた青い芥子の花が揺れていなかったのは、山中がタメ息をつくことがなかったからだろう。
本編を締めくくった「ONE LIFE」で ♪立ち止まればそれまで/僕が終わる印♪ と、彼は歌う。自分を取り巻く閉塞感にともすれば立ち止まってしまいそうになっているその歌の主人公を、彼は叱咤するように力強く歌う。“タメ息なんて、ついてるヒマはないんだ”とでも言うように。
ダブル・アンコールでは、山中が弾き語りで新曲を歌った。
その曲は、the pillows のバースデーである9月16日、ついに実現する初めての武道館公演などスペシャルな企画がこの後もどんどん続いていくアニバーサリーなこの1年をリードするナンバーになると思われる。
そして、「雨上がりに見た幻」と題されたその曲が、この特別な夜を次なる展開につなげていった。
●REPORT by 兼田達矢