お客さんに大盛りの毒を食らわせながら、最終的には奇妙な清々しさと不可思議な感動を与えてみせる特盛のサービス精神。
あまりに独自なエンターテイメント・ショーの最初と最後にキメるのは全日本プロレス社長、武藤敬司よろしく“プロレスLOVE”ポーズ。
1月23日、ミドリカワ書房TOUR2009「誰よりもおめえだよ」FINAL。
いやはや、ミドリカワ書房の音楽がたたえる徹底したリアリズムに裏打ちされた批評性、審美眼、人間味、そのすべてを一気に体感するようなライヴであった。
茂木淳一によるラジオ体操風の注意事項アナウンスにはじまり、「地方では散々だったけど、今夜こそいいライヴにしょう」という趣旨の自虐的な“ミドリカワのひとりごと”が場内に流れ、まず笑いをひとつ。
続けざまに頑母堂(fromソウルガンボ)のバンド・メンバーとミドリカワがステージに現れ、大歓声をバックに「君と今夜こそ」というGS風の際どいセックス・ソングをしれっとした爽やかさをもって響かせる。ああ、もう序盤から痛快だ。
軽快なサックスが印象的なポップ・チューンに美容整形をテーマにした歌詞で強烈なコントラストを絡める「顔」が続き、次はどんな歌世界が待っているのかと警戒していると3曲目の「頑張るな」はまったく毒が混入していないあたたかなメッセージ・ソングで、意表をつかれる。だからこそ、ミドリカワ書房の存在と楽曲は、飄々としていながらも一音一語一句逃すことのできない緊張感とカタルシスに満ちている。
4曲からのブロックは、ミドリカワ書房にとっての“テロリスト的相方”とも言える茂木淳一が乱入し、ステージ上でラジオ番組「茂木淳一のフラ・フラ・フライデー」の公開生放送をオンエアするような格好でライヴが進行していった。
茂木の一方的なトークに巻き込まれる被害者と化したミドリカワは、「雄と雌の日々」、「リンゴガール」、「私の恋愛」、「誰よりもあなたを」など、男女の恋愛関係が歪んだ像を結ぶラヴソング(?)を中心に披露。
茂木のトークに爆笑し、ミドリカワの歌に苦笑することを繰り返す“この感じ”は、忘れられないのではなく、忘れたくないトラウマのように厄介な爪痕をお客さん一人ひとりの記憶に残すのである。
特にこのブロックの最後に鳴らされた、今ツアーのタイトルにもなっている「おめえだよ」は、ポスト・ロックなサウンドスケープに結婚相手の連れ子を殺め、その子どもの母親である女と死体遺棄をする男の描写を生々しく乗せ、その誰しもに決してありえなくはない、いや、絶対に自分にはありえないなどとは言わせないほどの生々しい温度に会場が包まれ、ゾクっとした。
そんなシリアスなムードをかき消すようにパトカーのサイレンが鳴り、現れたのは……たとえるなら前出の武藤敬司にとってのグレート・ムタのような“化身”(プロレスネタが続きすみません)である電気書房!
どことなく気だるい日常感をわせているいい具合にセクシーな5人の女性ダンサー「L.u.v Ya 5tyle」を引き連れ、ヘッドセットに手にはライトセーバー、肩からはショルキーを下げフロアライクなサウンドを投下し唄い、踊る電気書房。
その正体は……う~ん、この時点ではやはりわからなかった。
そして、電気書房が去ると、何もなかったようにミドリカワがステージに現れ、認知症の老人が主役の「恍惚の人」、イジメの被害者と父親の気まずい距離感が切なくも愛おしい「ごめんな」、この曲のその後を描いた「転校生」というフォーキーな通称“腹へった3部作”を奏でた。
爆笑させたり、ドキドキさせたり、冷や汗をかかせたり、しんみりさせたり、お客さんの感性を忙しなく揺り動かしたライヴもあっという間に終盤。
ラストはバンド・サウンド全開で卑猥なムードをさらに助長するラテン・テイストの「保健室の先生(白衣のセニョリータ ver.)」から、クイーンやら尾崎豊やら浜田省吾の影を感じさせる「I am a mother」などを挟み、本編ラスト「チューをしよう」では得体の知れない心地好いポップ感と多幸感を充満させた。
これは、音楽、小説、映画、演劇、ラジオ、新聞、あらゆる表現及びメディア媒体を飲み込んだ、ミドリカワ書房という名のエンターテイメントである。こういう存在、表現、パフォーマンこそを唯一無二、と称さなければならない。
アンコールだってそうだ。まずは、MCで電気書房がミドリカワ書房その人であることを明かすと(まああっったく気づかなかった!)、性同一性障害をテーマにした新曲「愛なるは」(逆から読むと……)ではなんと、この曲に限りレコーダーを回して録音OK!カメラを構えて撮影OK!!携帯撮影で隠し撮りOK!という、前代未聞のサービスを敢行。
ライヴ前にその旨を知らせるチラシが配られていたのだが、いざそのときになるとお客さんも遠慮するのかと思いきや、みなさん毎度おなじみの恒例行事であるかのようにカメラや携帯を頭上に掲げ、新曲を熱唱中のミドリカワを激写するというシュールな光景が広がっていた。
オーラスの「笑って俺について来い」で不意に込み上げてきた幸福感をどこか照れ隠すような表情を浮かべたミドリカワ。
そして曲が終わるとライヴの終了を告げるアナウンスが流れた――のだが、やっぱり最後の最後のまで、どこまでいってもミドリカワ書房のライヴは唯一無二なのである。
では、この原稿の締めもそのアナウンスを引用させていただこう。
「本日の公演はすべて終了しました。引き続き恒例のお楽しみ撮影会に入ります」
●REPORT by 三宅正一
ミドリカワ書房 TOUR 2009 「誰よりもおめえだよ」 FINAL “続・リキッド de ドッキリ” SET LIST |
-overture- 悪循環体操 第4 / 茂木淳一
M-01, 君と今夜こそ
M-02, 顔
M-03, 頑張るな
M-04, 雄と雌の日々
M-05, リンゴガール
M-06, 私の恋愛
M-07, 誰よりもあなたを
M-08, おめえだよ
M-09, SAVA
M-10, 父帰る
M-11, 恍惚の人
M-12, ごめんな
M-13, 転校生(新曲)
M-14, 保健室の先生(白衣のセニョリータver.)
M-15, OH! Gメン
M-16, 心
M-17, I am a mother
M-18, チューをしよう
EN-1, 愛なるは(新曲)
EN-2, 笑って俺について来い
~お楽しみ撮影会
|
M-04~M-08
☆茂木淳一の「フラ・フラ・フライデー」
恵比寿リキッド特設サテライトより生放送!!
茂木淳一さんとのコラボレーションコーナー
M-09~M-10
☆電気書房最後の来日公演
ゲストダンサーに、LuvYa 5tyle を迎えて
EN-1
☆REC FREE!!
未発表曲の録音・撮影を解禁。
演奏:頑母堂(from ソウルガンボ)
Guitar / 田中シモン
Bass / 右田泰孝
Drum / 前田 仁
Sax, Percussion / 西澤寿実
Keyboards / 園田 涼
|