「こんばんは、川村カオリです。一日2回まわしというのは私も初めてです。2回目はくだけてていい!、4時の回は私よりお客さんのほうが緊張してて、みんなをなごませるのに力を使いましたよ(笑)。最後まで楽しんでいきましょう!」
1月23日、10000名の中から選ばれた限定500名のスペシャル・ライブが行われた原宿アストロホール。しかも、16:00~、19:30~(各250名)という、MCにもあるように彼女自身も初となる一日2回まわしのライブだった。
デビュー当時は恒例だったバースデー・ライブを11年ぶりに再開。
“川村カオリ”ソロ名義としてのライブも11年ぶりだ。
すでに報じられているように、そしてテレビ番組のドキュメントでもオンエアされたように、彼女は現在、乳癌との闘病中。今回のライブ“re-birth”は、ソロ活動の本格再始動とともに、ファンへの感謝の気持ちを直接伝えたいという彼女の思いが形になったものだ。
久しぶりのライブに期待が膨らむ観客の前に登場した川村カオリ。
熱い声援を受けて、『見つめていたい』でスタートした。ミディアム・テンポの落ち着いたビートに乗せ、ひとつひとつの言葉を大切に歌っていく。
会場を埋め尽くした観客の顔をじっくりと眺めるように、1人1人に視線を送りながら曲をまっすぐに届ける導入部。今、この瞬間こそが自分にとってかけがえのないものだという気持ちが、その視線に宿っていた。
歌い終えると、「カオリ、会いたかったよー!」という歓声が観客から飛ぶ。
『Beth, It's Allright』ではアコースティック・ギターを抱えてパワフルに歌い上げる。リズムに乗せ、心地よく歌っている彼女の表情は本当に開放感にあふれている。
『Husky』ではハードなサウンドをバックにエレキギターをかき鳴らし、今度はクールな表情で歌う。
さまざまなスタイルで作りあげてきた自身の音楽歴をたどるかのような選曲に、観客も彼女の曲を聴いてきた自分たちの記憶を重ね合わせていく。
「初期~中期~後期の私の曲からお聞かせしました。今日は飛ばしますよ、短いライブで20年を振り返ります」
バラードナンバー『cry baby cry』では、力強くもゆったりとしたビートに乗せ、美しいメロディをエモーショナルに歌う。
そして、フォーク調の『金色のライオン』の清々しいサウンドとともにのびやかな彼女の声が響くと、夢を追い続けることの大事さを込めた歌詞の情景が浮かんできた。
< SET LIST >
- 1. 見つめていたい
- 2. Beth, It's Allright
- 3. Husky
- MC1
- 4. cry baby cry
- MC2
- 5. 金色のライオン
- MC3
- 6. バタフライ
- ENC
- 7. ZOO
「振り返るとこの20年間、いろんなことがあったなと思います。原宿で遊んでいた1人の女の子がちょっとしたきっかけでデビュー、それも奇跡に近いことだった…。去年、癌を告白したことで、たくさんの人から励ましや応援の声をいただきました。もう一度歌いたいという気持ちで作った曲です」
そう言って、彼女が本編ラストに歌った『バタフライ』。この曲は3月18日にリリースされる12年ぶりのニューシングルで、“空に向かって飛ぶアゲハ蝶のように、自分ももっと高くもっと遠くへ”という思いで書かれた曲だ。
ゆるやかなリズムとともにじわじわと気持ちが高まっていくナンバーに、観客全員が希望の光を感じ取っていた。
そして、熱烈なアンコールにこたえて再度登場。ハッピーバースデー・コールの中、スタッフが用意したケーキのロウソクを楽しそうに吹き消す。
「これは1回目にはありませんでした(笑)、本当にどうもありがとう。実は、先ほど知ったんですけど、私は楽屋でビビりました。心臓弱い人がいたら先に言ってください。…5月5日、渋谷公会堂(C.C.Lemonホール)のライブが決まりました!これがみんなへのプレゼントです。みんなへの感謝の気持ちを音楽で返していきたいと思います。今日は、いろんな意味で初心に戻れた日。私にとって大切な曲です、『ZOO』」
柔らかいタッチのサウンドと優しい肌触りを持った『ZOO』。それは、見えない相手に向けて力いっぱい言葉をぶつけていた20年前の『ZOO』ではなく、音楽でつながれること、音楽で同じヴィジョンを見ることができることを知ったアーティストの、包容力のある『ZOO』だった。
次のライブは5月5日、渋谷C.C.Lemonホール。ずっと聴き続けてきたリスナーも、報道によって初めて曲を聴いたというリスナーも、音楽に向かう彼女の姿をぜひライブの場で感じ取ってほしい。
●REPORT BY 岡本 明