DI:GAに遺してくださったそんな宝物のような言葉を、取材をして下さったライターさんによる新たな寄稿と共にお届けします。黒沢健一さん、素敵な音楽を、ありがとうございました。
-ディスクガレージ DI:GA編集部-
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2010年12月(182号) インタビュー
ライブ音源にダビングを施した実験的なアルバム「V.S.G.P」
2011年11月(193号) インタビュー
3度目のシアターライブ!
interview/兼田達矢
黒沢健一にインタビューしていると、こちら側の理屈っぽい性格も多分に影響しているとは思うけれど、しばしば「ポップとは?」とか「ロックとは?」、あるいは「バンドとは?」なんていう抽象的な話に入り込んでしまう。が、その話の行方が決して堅苦しい方向に向かわないのが彼の特徴で、それは思うに、彼のなかでの“ポップ”や“ロック”、あるいは“バンド”といったことがすべて「ワクワクするもの」の同義語であったからだろう。彼の音楽に対する完璧主義的言動に触れるにつけ、彼が音楽に取り組むときにはいつでも眉間にシワが寄った厳しい表情なんじゃないかとつい思ってしまったりもするけれど、実際のところは多分その真逆だったはずで、182号のインタビューの際にはこんなことを話していた。
「何かアイデアを出しても、そこに人が入ってくる余地がないと、そのアイデアはつまらないと思うんです。ひとつのアイデアにいろんな人が関わってきて、そこからいろんなアイデアが派生していくということが僕は大好きなんですよ。そうじゃなくて、“黒沢さんがこうしようって言ってるから”みたいなことで関わってる人もみんな僕に従って僕の考えの通りに進んでる状態だと、自己探求型の世界に入り込んじゃってて、それはあまりポップな感じがしないんですよね。いろんな人のものになっていかないと、それはポップスじゃないなって思うんですよ。で、僕はポップスが好きだから、いろんな人がそれぞれにアイデアを出したくなるようなものが好きなんですよね」
彼のクリエイティブ・ワークスには「フフフ」と静かに笑ってしまうようなユーモアがいつもまぶされているけれど、「ワクワクするもの」を気の合う仲間と作っていれば当然そういうことにもなるだろう。
「ライブ盤にダビングしてるということ自体が、ひとつのフェイクですよね(笑)。で、僕はヴァイオリンは弾けないのに、こんなジャケットだし。だから、ある意味では全部がフェイクっていうか、その嘘っぽさを笑ってもらおうという狙いもあったんです」
彼がいなくても、彼の音楽を聴けば、彼が「ワクワクしたもの」をいつでも共有できる。その音楽の永遠性を、つまるところ黒沢健一は僕らに伝えようとしていたんだろうと思う。ライター・兼田達矢