ライヴの始まりの1曲からは想像の付かない展開であったが、このメリハリがあったからこそ、よりパレードの真意が伝わっていた様に思う。このパレードが、ただのパレードではないことを証明するかのように。表立って牙をむけない【LiTTLE DEViLのためのパレード】であることを、LiSAはこのライヴを通して、しっかりと伝えていたのである。
また、いつものライヴとまったく異なる光景を魅せてくれたのは、パレード終わりに会場内を真っ暗にして届けられた「Believe in myself」からの流れだった。7月1日名古屋ガイシホールでは、ここで、“古里に似たこの景色の中で始まりの歌を——”という言葉から「無色透明」を届けたのだが、真っ暗な中で、アコギと鍵盤の音のみに乗せたLiSAの声が響いたその瞬間、真っ直ぐに伸びる彼女の歌声を、オーディエンスは静かに受け取ったのだった。
オーディエンスがいつも照らしてくれているピンクの光はLiSAがここまで歩んできた道乗りの中で無くてはならない道標であり、最大の味方でもあった。しかし、このツアーで、彼女はそんなピンクの光を消した中でも、オーディエンスとしっかりと太い絆で結ばれていることを証明したかったに違いない。そして、オーディエンスも、そんなLiSAの気持ちを理解し、一緒に作った真っ暗な空間の中で、その想いをしっかりと受けとめてくれたのだ。
気持ちが一つになった後に届けられた「シルシ」は、いつも以上に特別な歌となった。
高く迫り上ったステージの上で、LiSAの想いのすべてが詰め込まれて歌われた「シルシ」が、LiSAが生きたシルシが、静まった客席にゆっくりと染み渡っていった景色は、言葉にならないほど美しい景色だった。
LiSAは、30年生きて来た今も、まだまだ迷い、傷つき、生きている意味があるのか? と悩むときがあると語った。
「人は人と出逢う度に、傷つけられたり哀しくなったり、自分に自信がなくなったり、自分の心を隠したくなったり、もう人と関わりたくないなと思うことがあります。だけどその分、こうやって人に出逢って嬉しくなったり幸せになったり、頑張ってみようって思えたりします。そんな気持ちをワガママだなって思うけど、だけど、君の心に毎日感じていることは、君だけのものです。今日、ここに居る時間だけは、そんな自分の心を愛してあげられますように。そんな自分をちょっとでも好きになれますように——」(LiSA)
そんな言葉から、LiSAは「LiTTLE DEViL PARADE」へと繋げたのだ。
客席に戻ったピンクの光に包まれたLiSAは、オーディエンス1人1人を包み込むように、後半戦はLiSAらしく、彼女の唯一無二の最大の武器である「コズミックジェットコースター」「ROCK-mode」「Rising Hope」、そして、「Catch the Moment」と間髪入れず歌い切ったのだった。
そして、ラスト。彼女は「TODAY」を届けた。
“僕は今、描いたあの頃の夢に立って 相変わらず もがく世界で 生きてる意味を探し続ける”
LiSAの歌とLiSAの存在を求める大勢のファンたちに囲まれ、ピンク色に染まる景色を前に歌うLiSAの姿が何度も涙で滲んだ。LiSAの歌は、それほどまでにありのままだからである。
全日程を通して、本編の最後に届けられた「TODAY」は、ここに響かせるために生まれた曲だと言っても過言では無いだろう。
LiSAにとって「TODAY」は、“30年生きて来た自分の足跡を辿って、見て来たみんなを思って書いた歌詞だった”と言うが、実際この景色を目の前に広がる景色に向かってこの曲を歌ったとき、自らが書き記した言葉たちは、まさに今、彼女がここで歌うべき歌へと変わっていたのだ。
最終公演だった、LiSAいわく“東海地区の武道館”である名古屋ガイシホールでこの歌を歌ったLiSAは、このフレーズを歌った後、思わず声を詰まらせた。何の伝もなく、ただただ夢だけを追いかけて後にした地元(LiSAの実家は岐阜県)で歌ったこの歌に、すべてが重なったのだろう。
「Catch the Moment」の後に、この「TODAY」を置いていたのも、とてもリアルに彼女が歩んできた道を感じることが出来た流れだったと思う。
アンコールでは8月2日にリリースされる12枚目のシングルとなる新曲「だってアタシのヒーロー。」(2017年7月クールアニメ「僕のヒーローアカデミア」EDテーマ)を届け、この曲はみんなへの素直な想いであると伝えたLiSAだった。
LiSAの誕生日当日であった6月24日のさいたまスーパーアリーナのステージでは、LiSAが最後に用意した曲「best day, best way」のタイトルコールをしたそのとき、違う楽曲の導入が流れ出したのである。
「いや。いやいやいや……違うよ」(LiSA)
真顔になってステージに立ち尽くすLiSA。その導入のリズムにクラップを重ね盛り上がる客席のオーディエンスの手拍子を受け、「怖い怖い怖い。何何何!?」と、動揺しだすLiSAの視界に、ナント、ミニオンズとパレードを形どったバースデーケーキが登場したのだ。
「キャァ〜〜〜〜〜〜〜〜ヤバ〜イ! ミニオンズだぁ!」(LiSA)
すっかりライヴ中ということをお忘れのご様子だったLiSA。手放しに喜ぶLiSAを見たオーディエンスは、心からの拍手とキーボードの伴奏に乗せた『ハッピーバースデー』を合唱し、LiSAの30歳のバースデーを祝ったのだった。
「今日はすごいパレードになりましたね!すごいことが起きたな。すごい誕生日プレゼントもらったな。れっきとしたLiTTLE DEViL PARADEになりました!」(LiSA)
本当に嬉しそうな笑顔で、ミニオンズとメガ・ドーナッツとバンドメンバーと、集まってくれたファンたちと記念写真を撮ったLiSA。
無邪気な笑顔と素直過ぎるほど素直なLiSA。出逢ったときからまったく印象の変わらない彼女だが、人一倍負けず嫌いで、人一倍臆病で、人一倍感受性が強いLiSAは、ここに集まるファンたちの1人1人の気持ちが手に取る様に分かるのだろう。だからこそ、いままでは、そこに自分も寄り添い、ずっと離れて行かないでと願っていたのだろう。しかし、彼女は『LiTTLE DEViL PARADE』を作り、こうしてアリーナーツアーを行ったことで、パレードの先頭に立ち、みんなを先導する立場になれたのだと感じた。自分のために、自分が選抜選手になることだけを考えて必死に歌ってきたLiSAが、やっと本当の意味でみんなのために歌えていると感じた。
“重なるキミの歴史 輝かしい青春のページには僕がいたい”
相変わらずもがきながら、ときに頼りない足取りで、必死に声を響かせる彼女は、確実に、全力で一緒にこのツアーを盛り上げてくれたオーディエンスの輝かしい青春のページに刻まれたことだろう。
そしてLiSAも、この先も重ねられていく彼女の人生という歴史の1ページに、深くこの瞬間を刻み込んだに違いない。
アーティストとしても、1人の女性としても大きく成長したこのツアーが、この先に控える全国ツアーにどのような変化と進化を与えていくのか、実に楽しみなところである。