MUCC 20TH-21ST ANNIVERSARY 飛翔への脈拍 ~そして伝説へ~
第Ⅰ章 97-06 哀ア痛葬是朽鵬6
2017年6月20日(火)日本武道館
Report:武市尚子
Photo:西槇太一
2月4日のTSUTAYA O-EASTを皮切りに、4月14日,15日のZepp DiverCity(TOKYO) 2days公演まで全国21ヶ所23公演を行ったツアー『MUCC 20TH ANNIVERSARY 97-17 「羽化 -是朽鵬6極志球業シ終T脈殺-」』の途中、折り返し地点を少し過ぎたあたりだっただろうか、郡山HIPSHOT JAPANの楽屋で間近に迫った武道館公演への想いを聞くと共に、歴代の武道館公演を振り返ったインタビューを行ったことがあった。
4人は、MUCCが初めて武道館のステージに立った、2006年6月6日の『MUCC WORLD TOUR“TOUR FINAL「666」”』のことを、今も鮮明に覚えていると口を揃えた。ミヤ以外、とにかく緊張状態が解れることはなかったと当時を振り返った。イベントでは立ったことのあったステージではあったものの、単独初の大箱であり、アーティストならば誰もが憧れる特別な場所であるだけに、身構えてしまったのだろう。しかもそんな中、その日の始まりに「朽木の塔」を置いていたことで、緊張に拍車がかかったのだ。【終らぬ過去を引きずって 朽木の上を偽足で歩く】と書き止められた言葉で歌われる、過去の罪への深い贖罪は、MUCCにとって特別な1曲。しかし、彼らは初の武道館での演奏をもってこの曲を封印し、未来へと歩むことを決めたのである。
そんな初武道館から11年。結成から20年という節目を迎えた彼らは、5回目の武道館となるこの日、1曲目に「朽木の塔」を置いていたのだ。
封印は解かれた。20周年という節目に、徹底的に過去と対面することを選んだ彼らは、この封印を解く事で、MUCCというバンドと真正面から向き合う覚悟をしたに違いない。
この日の「朽木の塔」は、そんな覚悟と浄化を感じた圧巻の幕開けだった。
彼らはそこから「蘭鋳」「茫然自失」といった現在もライヴのテッパン曲として君臨するナンバーを届け、休む間もなく【MUCC】というバンドの色を、そして個性を、シーンの中にしっかりと植え付けてきた、沸々とした感情を吐き出していった。
「今日は休ませないよ!」(逹瑯)
4人は20年の闇と痛みを吐き切るかのように音を放ち、叫び、唄った。
そんな4人の覚悟に触発されたのだろう。「娼婦」のサビで逹瑯が客席にマイクを向けると、オーディエンスは見事なまでの大合唱を返したのだった。
ステージ両脇に設置されていたスクリーンには、過去の「娼婦」のライヴ映像が流れた。初々しく映る4人の姿がそこに在った。歌詞の中にある景色や【君】との距離が少し遠くなった気がした。それは、きっと彼らの成長を意味する感覚であったのだろう。間髪入れずに届けられたのは一音一音の音の粒がしっかりと抜け切ったYUKKEのベースフレーズが印象的に曲をリードする「我、在ルベキ場所」。この曲では、ファルセットと地声のコントラストを実に心地良く唄い分けながらも、しっかりと“歌詞の届く唄”を届けていた逹瑯のボーカル力にも大きな進化を感じた。
過去曲と対面する彼らの音を聴きながら改めて感じたのは、バンド力の強化だった。当初は“世界観を重視したメロディに沿った演奏”という印象が強かったのだが、経験を積み上げた彼らの音には、わざわざ自らの個性となるそこを意識せずとも、彼らが音を放った瞬間にその個性は宿ることから、現在の彼らは、意識がもっと音楽的な捉え方になっていると感じたのだ。昔以上に個々が1つのバンドサウンドを構築するために、サウンドとしてその曲に必要な細かい音色や音質に意識を注ぎ込んでいる、洗練されたサウンドに変化してきていると感じた。独特な泥臭さもMUCCの大きな個性であると思うのだが、その泥臭さや無骨さや空虚さという闇や痛みを全て脱ぎ去ってしまったのではなく、それらを宿しながら彼らの音は確実に進化しているのだ。
それを証拠に、この日届けられた彼らの20年の歴史の前半戦であった初期の音の中に差し込まれた、最新アルバム曲の「りんご」や「勿忘草」たちが違和感なく馴染むのである。しっくりと馴染みながらも、やはりそこには積み重ねられた歴史と熟練と垢抜けたサウンドを感じずにはいられない。また、「りんご」では、ライヴの魅せ方にも進化を感じた瞬間があった。混沌とした世界を個性としていた昔のMUCCには、蛍光灯の光に似た生々しい透明な光や、深い赤や深い蒼といった照明が似合っていたのだが、「りんご」ではギターソロ明けに、未来へとタイムスリップするかのようなデジタルな照明で演出されていたのである。過去のMUCCには似合わなかった照明との相性が良くなったのも、音色の変化が大きく変化しているからこそなのだろう。
97年から06年までに世に送り出された楽曲を中心に届けられた1日目は、闇と痛みを深く感じさせるものだったのだが、彼らは後半に「前へ」「夕紅」「家路」という前向きな楽曲を選んでいた。これらはドラムのSATOち作曲の楽曲なのだが、後に「フライト」を生み出すなど、SATOちの曲はMUCCの中でも真っ直ぐに突き抜ける光を感じさせる曲調が多い。そんな明るさが存在してこその闇。彼らはこの日、そんな明るさから、現時点での支持率No.1曲「絶体絶命」へと激しく舵を切り、オーディエンスはその音にハイスピードなサークルを作って応えた。そう。スタンディング・エリアが設けられていたのは5回目の武道館にして初のこと。初期のMUCCのライヴには、このようなサークルが出来るという光景は皆無であったことを考えると、まったく違うバンドのライヴを観ているかのようである。
彼らは、最後に再び闇へと方向を切り換え、「大嫌い」で拍車をかけ、本編ラストに届けた「ズタズタ」で、時を完全に初期のMUCCへと戻したのだった。
アンコールは「ジオラマ」。この曲は、2009年に亡くなった当時の舞台監督であったコメットさんのために作られた楽曲。最初に彼らが武道館でライヴを行ったのは、このコメットさんの案であったと言う。2006年あたりのMUCCは海外でのライヴが多く、日本でのライヴが少なかったこともあり、早めに一度日本で大きな場所でやってみたらどうか?というコメットさんの案を受け入れ、10周年というタイミングを待たず、初武道館を決行したという経緯があるのだ。それ故に、一緒に夢を作ってきたコメットさんに宛てたこの曲を、この日、ここでどうしても届けたかったのだろう。
「MUCCです。よくもまぁ、こんなにも暗いバンドをやってたもんです。よくもまぁ、こんなに疲れるバンドをやってるもんです。よくもまぁ、付いて来てくれてるもんです」(逹瑯)
逹瑯らしい節回しでオーディエンスに感謝の意を表した。
本編でほとんどMCを設けず曲を届けてきた彼らは、ここで歴代の武道館ライヴを振り返った。
「『朽ち木の塔』で始まった最初の武道館を思い出したね。でも、今日で浄化されました。ありがとう」(ミヤ)
そんな言葉と共に、最後に初期曲に敬意をはらうかの様に「オルゴォル」を届け、「名も無き夢」「つばさ」と繋げたのだった。
初の武道館では、「名も無き夢」の曲中に“よっしゃー!”と叫んだことを覚えていると言っていたSATOちはこの日、「名も無き夢」の途中で立ち上がり、“武道館〜〜〜っ!”と大声で叫んだのだった。1曲目がドラム始まりという、最初に放つ音を担った責任とプレッシャーから解放されたその清々しい叫び声を、オーディエンスが大きな歓声で受けとめていた光景に、胸が熱くなった。
“僕等一歩ずつ 確かに歩いてゆくんだ 傷だらけの詩を 今 翼に変えて———”
そう唄われる「つばさ」の歌詞が、ここまでの彼らを支え、この先の彼らも支えていくのだと確信した。
そして、彼らは翌日のライヴへの導入として、最後に最新アルバムから「脈拍」を届け、この日のライヴの幕を下ろしたのだった。
6月21日『MUCC 20TH-21ST ANNIVERSARY 飛翔への脈拍
~そして伝説へ~ 第Ⅱ章 06-17 極志球業シ終T』はこちら!
セットリスト
01.朽木の塔
02.蘭鋳
03.茫然自失
04.スイミン
05.娼婦
06.我、在ルベキ場所
07.サル
08.りんご
09.勿忘草
10.1979
11.断絶
12.9月3日の刻印
13.666〜空虚な部屋
14.絶望
15.前へ
16.夕紅
17.家路
18.絶体絶命
19.大嫌い
20.ズタズタ
ENCORE
01.ジオラマ
02.オルゴォル
03.名も無き夢
04.つばさ
05.脈拍
PRESENT
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