「髑髏城の七人」×「IHI ステージアラウンド東京」の魅力に迫る!
●取材・文/永堀アツオ
3月30日(木)にオープンした、アジア初、客席が360度回転するシステムをもつ新劇場<IHI ステージアラウンド東京>。
豊洲埠頭地区のゆりかもめ「市場前駅」からは徒歩1分。劇場前からはライブハウス<豊洲PIT>が見え、その先の東京メトロ有楽町線<豊洲駅>までは徒歩15分、<ららぽーと豊洲>までは徒歩20分という立地にある。
この斬新なシステムを採用した新劇場のこけら落とし公演は、劇団☆新感線の「髑髏城の七人」。1990年の初演、1997年の再演、2004年の「アカドクロ」と「アオドクロ」、2011年版(通称:ワカドクロ)と7年ごとに上演されてきた代表作で、“花・鳥・風・月”の4シーズン、2017年3月30日から2018年までの1年3ヶ月に渡り、キャスト、演出、脚本を変化させながら上演し続ける企画となっている。
「髑髏城の七人」は、劇団☆新感線作品の中では、史実をモチーフとし、ケレン味を効かせた時代活劇である<いのうえ歌舞伎シリーズ>に分類されている。戦国時代、織田信長亡き後の関東の地を舞台に繰り広げる、アクションあり、ロマンあり、ミステリーあり、お色気や笑いもありの誰もが楽しめる内容で、いのうえひでのり演出によるド派手な照明と音響が融合したダイナミックなチャンバラアクション大活劇。’90年の初演からすでに<他に類を見ないエンターテインメント>と称されていた作品に、動く客席と巨大なスクリーン、4つの舞台セットという新たな要素が加わった。この新劇場に対して、座付き作家の中島かずきは「客席が回転することでアトラクション的な楽しさではなく、ここでしか味わえない演劇的な情感が立ち上がる」という感想を寄せていたが、どんなアイデアや工夫が詰め込まれた新演出になっているのか、期待は高まるばかりである。
客席内は2010年に発祥地のオランダのアムステルダム郊外の飛行場跡地にある格納庫に誕生した「Theater Hangaar」と同じく、巨大なシネコンのような雰囲気で、なだらかな勾配のある円盤状の土台の上に設置された座席は約1300。中央に360°回転する円形の客席が配置され、この円の外側に客席をぐるりと取り囲むようにまず花道があり、その外側に可動式のスクリーンがある。
一場面が終わるとスクリーン/壁が閉じ、客席が右や左に回転し、スクリーン/壁が開くと、そこはもう、先ほどまでとは打って変わった別世界が現れる。正面を見て観劇していると、客席が回転してることに気づかないほどであった。体感としては、舞台の方が回って、次の場面が現れるような錯覚に陥るくらい静かでスムーズ。また、スクリーンの開き具合で視界の幅も調整可能で、目の前の景色がどんどん広がっていくようなスケール感があった。この広さというのは、ネットやDVDでは絶対に感じることができない。
また、スクリーンの前にある花道も360度の円周を描いている。キャストがプロジェクションマッピングが投影されたスクリーンの前を走り抜けるのだが、その映像と距離の長さが相まると、まさに全速力で逃げているような疾走感を感じさせてくれる。
客席、花道、スクリーンという3つの円の一番外側、4つ目の円周上に奥行きのある4つの舞台が設置されている。キャストの動線は花道、もしくは舞台の横か後ろ。また、観客は、4つの円の外側にある舞台の後ろから入場して、真ん中の円の客席につくことになるため、スクリーンである壁が閉まった後の観劇中は構造上、外には出にくくなっている(だからこそ、物語に没入できる効果がある)。もちろん、急を要する際はスタッフに声をかければ外に出られるが、トイレはできるだけ観劇前に済ませておきたい。
ここまで大掛かりで奇抜な演出効果についてばかり書いたが、それらはあくまでも物語にダイナミズムを与えるための手段であって、目的ではない。先入観なしにダイレクトに楽しめるエンターテインメントショウで、生で体験することでしか味わえないアトラクション的な感覚もあることは間違いないが、「髑髏城の七人」の大きな魅力は、チャンバラと芝居である。刀で戦うというパフォーマンスにかけたストイックな勝負。鍛え抜かれた自分の体を武器にどれだけ大きな世界を創れるか。どれだけセリフに感情を込められるのか。実際に観客の前で披露し、生のリアクションを見たことで、キャストにはさらなる新しいアイデアも浮かんだことだろう。
なお、アジア初、360°回転するシステムを備えた舞台は幕を開けたばかり。本公演は6月12日(月)まで上演される。その後、阿部サダヲや森山未來の出演が発表されている「Season鳥」が6月27日(火)〜9月1日(金)、「Season 風」が9月下旬から、「Season月」が11月下旬からの上演予定。キャストが変われば、演出も変わるし、味わいも変わる。脚本も変わることも発表されている。この新システムを要した劇場でどんな芝居が繰り広げられているのか。こけら落とし公演は1作品しかできない。まずは、是非この新劇場に足を運び、生の体験が与える影響のすごさを感じて欲しい。