映画のオープニングのような壮大なSEをバックにサポートの楽器陣がステージに現れ、ASHがその中央に身を置くと、1曲目に選んだ、荒れ地を戦車で突進むかのような力強さを持った「You Gotta Power」で、その場を一気にASH DA HEROの色に染上げた。BULL ZEICHEN 88とはまた違った熱量である。ASHという存在を中心に放たれる熱は、バンドという形態を取りながらも、“バンドではないプラス”を感じるものだった。サウンド面での一体感や見た目は紛れもないバンドなのだが、“固定メンバーではないバンドスタイル”で成り立ち放たれていた音と、そこに乗るASHの歌は、まさに、それ自体も“CONNECT X”であると感じたのだ。全身を振るわせるほどの力を込めて声を張るASH。それは、“歌”を通した彼の生き様そのものだった。
そんなASHの熱が伝染したのだろう、フロアには力強く握りしめられたオーディエンス拳が徐々に広がり、この曲が終る頃には、ASHの放つ熱と同じ熱量でその場が埋め尽くされていった。アメリカンハードロックを臭わす「HERO IS BACK 2」で、畳み掛けていく途中、ASHはメインマイクを投げ捨て、ステージ下手のコーラスマイクで歌い始める。しかし、下手のみで使用する様にセッティングされているため、そのマイクではパフォーマンスしながら歌を届けることを続ける事が出来ない。走り続けるサウンドを止めるわけにはいかない。ASHは歌が途切れる一瞬を使ってステージ上手のコーラスマイクに身を移すと、マイクスタンドからマイクを外してその続きを歌って魅せたのだ。
「トラブルはこうやってミラクルに変えてやるんだよ!」
ASHは叫んだ。メインマイクの故障を察知した彼が取った咄嗟の行動は、見事なパフォーマンスに変わっていた。客席へのダイブも魅せたパフォーマンスが、トラブルを受けてのものであったことを、気付かなかったオーディエンスも多くいたことだろう。それほどまでに完璧な魅せ方で、ASHはトラブルをミラクルに変えたのだ。
素晴しい人間力であり、アーティスト根性であると思った。
日本語を見事な嵌め方でロックサウンドに乗せて歌う「結局なんにもやれてない」では、唸りを利かせた歌声でオーディエンスを引っ張った。ここから繋げられたリズムセッションにタンバリンでスパイスを加えていったASHは、MCへと繋げると、2017年初のライヴへの意気込みと、“CONNECT X”というタイトルに込めた意味を自らの言葉で語った。
リズミックなサウンドでオーディエンスを躍らせた「Rolling Stone」、サビで大きく景色を変えるパーティーチューン「Layla」で中盤戦を盛り上げた後、ASHはここで、この日の午前3時にやっと完成したという5月24日2ndフルアルバム『A』と、7月28日に「ASH DA HERO ONE MAN SHOW 2017『BRAND NEW WORLD』」というタイトルを掲げたワンマンライヴをShibuya TSUTAYA O-EASTで行うことを発表したのだった。
“3部作”として自らの人生を音楽という作品に変えてきたASH。その先に彼が吐き出した『A』。“ASH DA HEROのA”、“New AgeのA”と、いろんな意味を『A』という文字に潜ませた彼のサウンドと歌詞世界は、ASH DA HEROが作り上げていく歴史の1ページを、どのように彩ることになっていくのだろう?
オーディエンスと声を重ねた「反抗声明」を後半戦の突破口として届け、ASHはさらに「WAKE UP ROCK AND ROLL BAND」でオーディエンスを挑発した。オーディエンスは、フロア中央にサークルモッシュを生み出し、その音に応えていたのだった。
後半戦の中でとても印象的だったのは、やはり「Everything」。彼の代表曲と言ってもいいこの曲を、平らな表現で説明するのは、あまりにも不相応に思う。直接的な言葉以上に心を抉られる感情に惹き付けられるこの曲は、フロアの動きをピタリと止めた。人間という生き物の幸せの在り方と愚かな様を見せつけられるこの曲こそ、ASH DA HEROの存在意義であると、この日、改めて感じさせられた。静かに聴き入っていたオーディエンスは、この曲にいったいどんな想いを重ねていたのだろう。そしてASHもまた、この日のこの曲に、どんな想いを重ねていたのだろう。
ASHは最後にBULL ZEICHEN 88を再びステージに呼び込み、お互いの曲を演奏し合い、セッションライヴを届け、この日の【CONNECT X】の幕を閉じたのだった。
ASHにとって『CONNECT X 2017』という経験は、ASH DA HEROというアーティストをさらに高みへと上げることとなった、素晴しい化学反応を起こした貴重な財産となったに違いない。
定番化させていきたいというこのライヴ企画は、この先、【ACT.2】ASH DA HERO X BAROQUE(3月15日・東京・TSUTAYA O-WEST)、【ACT.3】ASH DA HERO X 中島卓偉(4月5日・東京・下北沢GARDEN)、後日発表された【ACT.4】ASH DA HERO ×MICHAEL(5月18日・東京・TSUTAYA O-WEST)へと続いていく訳だが、BAROQUEや中島卓偉、MICHAELとの“CONNECT”を、どんな“X”に変えていくのか、実に楽しみなところである。
我武者らに突き進むASH DA HEROという個性から、この先もますます目が離せなくなりそうだ。
ASH DA HERO セットリスト
01 You Gotta Power
02 HERO IS BACK 2
03 結局なんにもやれてない
04 Rolling Stone
05 Layla
06 反抗声明
07 WAKE UP ROCK AND ROLL BAND
08 WA!!
09 Everything
10 Never ending dream
11 HELLO NO FUTURE