SHAKALABBITS「Hallelujah Circus Acoustic SHOW Ⅲ」
2017年2月14日(火) 東京キネマ倶楽部《マチネ 15:00開演》
Report:永堀アツオ
Photo:横井明彦
不思議な体験をした。
屋敷の女主人と愛犬による「清く正しく、淫らに盛り上がっていきましょう」という前口上からスタートしたSHAKALABBITSによるアコースティックライブ「Hallelujah Circus Acoustic SHOW Ⅲ」。2015年からUKI(Vo)の誕生日である2月14日にラフォーレミュージアム原宿で行われていたが、3回目となる今回は、鶯谷・東京キネマ倶楽部へと場所を移しての開催となった。彼女たちのライブはいつも、大量の汗とともに身体中に溜まった感情も発散するような開放感があるのだが、椅子に座っての鑑賞となったこの日は、体は少しも動かさずに、ここではないどこかへと連れて行かれるような感覚があった。大正ロマンのオペラハウスを再現した元グランドキャバレーという空間のせいもあるかと思うが、映画を見ているような、海外小説を読んでいるような、なんとも言えないロマンティックな夢を見せてもらっているような2時間となっていた。
紅いチャイナドレスに白い心臓のネックスレスをぶら下げたUKI(Vo)、ブラシをこするMAH(Ds)、アコギを爪弾くTAKE-C(G)と4ビートを打つYOSUKE(Ba)。SHAKALABBITSの4人に加え、アコーステックギター、ピアノ、バイオリン、オレスカホーンズの3人という10人編成による楽団が音色を奏で、ビートを刻むと、一瞬にして目の前の景色が変わった。アコースティクアレンジによる「piece of cake」では魚の飛行船が浮かび、「madomoiselle non non」は幽霊屋敷でバカンス気分を味わい、ジャジーな「時空マスター」で羽が生えたUKIに抱えられて、ボサノバ風の「シルク」で南の風の匂いがする雲の中へ……。
ステージ中央のソファに座って歌うUKIが「ここから見て、みんなが笑顔なのがいいね。いままではずっとスポーティーなライブを多くやってきたけど、アコースティックの世界も楽しんでくれている感じがあって。みんな、歯が出てるじゃん(笑)。そんなに楽しんでくれてるのが嬉しくて、こっちもにやけちゃう感じ」と話すまで、自分がどんな顔でライブを見ていたのかわからなかったが、彼女たちが生み出すイメージの世界に身を任せ、自分の頭の中に広がる舞台を楽しんでるうちに、いつのまにか笑っていたのだろう。
ライブの中盤にはカバーコーナーへと突入し、山口百恵「プレイバック Part2」で真っ赤なポルシェに乗ってスピードを上げ、「メトロポリタン美術館」では天使の像に赤い靴下を貸し、たまの「さよなら人類」で冬の打ち上げ花火と一緒に木星へとたどり着いた。さらに、久保田利伸「LA・LA・LA LOVE SONG」、槇原敬之「どんなときも」、小田和正「キラキラ」と日本のスタンダードとも言えるポップソングを立て続けに披露。丁寧に“歌の言葉”を観客の胸に届けたUKIは「こうやって、今年もみんなとじっくり演奏できて幸せに思います。ありがとうございます」と感謝の気持ちを述べた後、こう続けた。
「幸せだと思っていたのにすごく不幸せと感じてしまう瞬間があった時に、絶望的な気持ちになってしまったことがあって。でも、それを救ってくれたのは音楽でした。やっぱりまた音楽に救われてしまった。まだまだこれからも音楽に恩返しをしていかないと気持ちが収まらないというくらい、私は小さい頃から音に救われて生きてきました。こうやって友達と出会って、また新しい音を生み出して、演奏してる。ここにいるみんなもそうやって音でバランスが取れているんだと思うんだ。私は、ちょっと塞いでる時に、みんなが出てきちゃうんだよね。私が想像するみんなはすごく楽しそうだからさ。でもそれは、普段、悲しいことがあるから笑えるのかなって思うの。みんながライブで身体中で表してくれるものを見て、感じて、前に進みたいなって思えた。SHAKALABBITSの音楽をずっとずっと作っていきたいなと思えたから、すごく感謝しています。だから、次の曲もみんなに歌いたいなって思います」
無類の未来好きを自称し、過去に全く縛られないUKIが歌う<目の前の景色を忘れないんだ>という約束にも似たフレーズを合図に、ここじゃないどこか、いまじゃないいつか、自分じゃない誰かに思いをはぐらせた夢の旅は、だんだんと終わりに向かっていく。目の前が次第に明るくなっていき、全身で喜びを感じるような多幸感もあった。「g☆s☆g」によってもたらされた笑顔は、空想にふけってニヤついてしまう想像力からくる笑顔とは違う、もっと現実的で、身体的な実感を持った笑顔にと変わっていった。
MAHもアコギを手にした英語歌詞の楽曲「Hello World」を歌う前に、UKIは「私は何を見たい?何を感じたい?どこへいたい?1年後の未来に何をしてるかわからないけど、どこかで誰かと何かをしていたいなっていう想像で持って進むのもいいんじゃないかなと思います。どうなるか。何が起こるかはわからないけど、私は私の世界が終わるまで、招待し続けたいという気持ちの曲です」と話し、目が醒めるようなエネルギーに溢れた熱い演奏をもって終幕した。
アンコールではファン人気の高い「Monster Tree」、スカパンクバンドの真髄が詰まった「ダズリングスープ」に加え、<ハレルヤサーカス>の始まりの歌である「Jammin’」の3曲を楽しく豊かに、音楽を通して得た出会いへの感謝を込めながら演奏し、UKIが「すごく和やかでいい時間でした。この笑顔がずっと続きますように」と語り、楽団は舞台を後にした。今年いっぱいで無期限の活動休止を発表した彼女たちは、次はどんな夢を見せてくれるのか?来年の彼/彼女たちがどうなっているかはまだわからないが、5年ぶりのフルアルバム『Her』のリリースと全国ツアーの開催は決まっている。遠き未来のことはあまり考えず、いまは、リラックスしたムードの中で行われたアコーティックライブと異なる、次なるスポーティーなライブで何を思い、何を感じるかを楽しみに待ちたいと思う。
3/6(月)、《ソワレ》の模様をアップします!
SHAKALABBITS「Hallelujah Circus Acoustic show Ⅲ」
2月14日(火)東京キネマ倶楽部
~《マチネ》SET LIST~
01. 神ノ街シアター
02. 東京キッド(美空ひばり)
03. Blue Flamingo
04. Piece Of Cake
05. Roller Coaster
06. mademoiselle non non
07. 時空マスター
08. シルク
09. モノローグ
10. プレイバック part2(山口百恵)
11. メトロポリタン美術館(大貫妙子)
12. さよなら人類(たま)
13. LA・LA・LA LOVE SONG(久保田利伸)
14. どんなときも(槇原敬之)
15. キラキラ(小田和正)
16. 陽のあたる場所
17. g☆s☆g
18. Hello World
Encore
19. MONSTER TREE
20. ダズリングスープ
21. Jammin’