2016年9月17日(土) 日比谷野外大音楽堂
TEXT:兵庫慎司
PHOTO:岡田貴之
1990年から毎年開催、実に27年目になるエレファントカシマシの日比谷野音、今年は9月17日・18日の2デイズ。以下、その1日目のレポです。
予報では雨の確率が高かったが、ラッキーなことに終演まで天気が持ち堪えた中、一部:19曲、二部:7曲、三部:4曲、アンコール:2曲の計32曲が演奏された。
全キャリアを網羅する形で、まんべんなく選曲されたそのセットリスト。セットも何もない、ドラムもキーボード類も床にベタ置きで、頭上に照明機材が組まれただけのステージ。サポート・メンバーは、ギターにおなじみヒラマミキオ、キーボードは90年代前半にエレカシをサポートした存在であり、昨年から久々にエレカシのステージに上がるようになった細海魚。日比谷野音、1月の新春コンサート、通常のツアー、の3つにエレファントカシマシのライブを分けるとしたら、その「野音バージョン」のライブだった。いつもどおりだった、と言っていい。いや、細海魚の参加は「いつもどおり」ではないか。でもそれ以外においては、恒例の野音を恒例の内容でやりました、というものだった。
で。「にもかかわらず」とも、「だからこそ」とも言える気がするが、本当に特別で、本当に重要で、本当にすばらしい時間だった。
エレファントカシマシの恒例の野音、というだけでもう特別なものがある、会場に足を踏み入れた時の空気からしてもう違う、というのは、参加したことのある人なら知っていることだが、バンドもオーディエンスもその特別な空気に甘えていない。寄りかかっていない。オーディエンスの始まる前の緊張感や始まってからのテンションの高さはすごいもんだし(ワーワー盛り上がっているからそう感じるのではなくて、場の空気がほんとにそういう感じなのです)、バンドも「今年はいかに特別なものを見せるか、かけがえのない時間にするか」ということに邁進している。
宮本浩次、さらっと出てきて、メインに使っている黒のストラトを提げて、「こんちは。じゃあ聴いてください」と言ってからものすごい勢いで「ズレてる方がいい」を歌いだしてから、「この世は最高!」と「夢のちまた」の2連発でアンコールをしめくくるまでの間、テンションが下がったり落ち着いたりする瞬間、ゼロ。エレキギター弾きながらの時も、ハンドマイクの時も、アコギでイスに座って歌う時も、白いシャツで歌った一部も、黒いシャツに着替えた二部も、Tシャツになってからも、ずーっとずーっとずーっとそう。なので片時も目と耳が離せない。
にしてもこの人、このキャリアを経てなお今また歌がどんどんすごくなっていないか。数年前に耳を患って療養したが、それ以降「持ち直している」んじゃなくて「さらにすごくなっている」気がする。
それから、ライブの後半、宮本がその場の思いつきでセットリストを変更して、それによってバンドが楽器を持ち替えたりステージスタッフがバタバタしたりするさまって、いつもの光景だし、それが微笑ましくもあるんだけど、ただ、宮本、単なる思いつきで変更しているんじゃなくて、それまでの流れを鑑みて「待てよ、今のこの空気感なら、予定どおりやるんじゃなくて次はこっちの曲をやったほうがいい、そのほうがよりよいライブになる」と判断してそうしているんだなあ、ということを、改めて実感したりした。
このレポを書くので入場時にセットリストをもらったので、変更前と変更後の両方を知ることができたんだけど、いちいち「ああ、確かにこう変えたほうがよかったな」と納得する、というか体感するのです。その場にいると。
それから、バンドもとても調子がよかった気がした。おなじみになった半パン姿で、宮本にあおられてステージ前にひっぱり出されたりしながら一心不乱にギターを弾く石くんこと石森敏行。ベースアンプとモニタースピーカーの間の立ち位置で黙々とプレイする成ちゃんこと高緑成治。安定の、かつ自在なギターワークで今日もバンドを支えるヒラマミキオ。時にほとんどジャンプしながら、叩きつけるように前身で鍵盤を弾く細海魚。
特にドラムのトミこと冨永義之。なんというか、スティックをふり下ろす一発一発に気合いが満ち満ちている感じ。宮本が歌いながら「もっと速く、もっと速く」とトミに指示を出して曲のテンポがどんどん上がり、しまいには「そんな速くていいの?」みたいなことになる──というのは、エレカシファンは見慣れでいる光景だが、この日においては二部の「i am hungry」でトミががんがんつっ走り、宮本、歌い終えて思わず「はええ!」と口にする、という一幕もあったほどだった。
いいもの観た! いい時間だった! 結局毎年終わるとそう思っているが、今年もやはり、強くそう感じながら帰路につきました。
セットリスト
01. ズレてる方がいい
02. 歴史
03. ゴッドファーザー
04. ふわふわ
05. 道
06. おれのともだち
07. too fine life
08. 風に吹かれて
09. いつものとおり
10. 月の夜
11. 珍奇男
12. 武蔵野
13. 流れ星のやうな人生
14. 昔の侍
15. 流されてゆこう
16. Baby自転車
17. 悲しみの果て
18. so many people
19. 四月の風
二部
20. 友達がいるのさ
21. i am hungry
22. 今宵の月のように
23. 涙
24. コール アンド レスポンス
25. RAINBOW
26. FLYER
三部
27. 星の降るような夜に
28. 夢を追う旅人
29. ガストロンジャー
30. ファイティングマン
EN1 この世は最高!
EN2 「序曲」夢のちまた