インタビュー/沖 さやこ
2016年に日比谷野外大音楽堂でワンマンライブ「HAVE A “GOOD” NIGHT vol.50」を行い、ひとつの大きな節目を迎えたGOOD ON THE REEL(※以下GOTR)。それ以降も精力的な活動を続け、2017年2月には『グアナコの足』をリリース、秋には自主レーベルlawl recordsを立ち上げ、歩みを止めることなく新しいスタートを切った。最新作『光にまみれて』にはバンドの勢いがそのまま反映されていると言ってもいいだろう。主に作詞を手掛ける千野隆尋(Vo)と、主に作曲を手掛ける伊丸岡亮太(Gt)に、最新作や現在の状況と心境を訊いた。
ひとりに向けた音楽だからこそ、たくさんの人に聴いてもらえる音楽になれるんじゃないか
──8thミニアルバム『光にまみれて』は、これまでの流れとは違い、数字がタイトルに入っていないことにまず「おや?」と思いまして。
千野 隆尋(Vo) 2015年に7thミニアルバム『七曜になれなかった王様』を出したあと、『ペトリが呼んでる』と『グアナコの足』という2枚のフルアルバムとシングル『雨天決行』を出したので、ミニアルバムというものが一旦区切れたタイミングだったんですよね。今回自主レーベルを立ち上げたので大きく変革させたくて、過去の流れではなく新しいスタートという意味で数字は入れなかったんです。でもタイトルをつけたあと、読みで8文字だったという奇跡に気付きました(笑)。
伊丸岡 亮太(Gt) だから過去とつながっていると言えばつながっていて、でも新しいスタートという意味合いもあって。配信シングルの『私へ』からジャケットも絵ではなく写真にしました。僕らには絵の力量はないけれど(笑)、写真ならなんとか撮れるから。
──MVやアーティスト写真、ジャケットもセルフプロデュースなんですよね。
千野 今回はリアルで生々しいものが作りたかったから、MVやジャケットも本気で自分たちでやってみようと思って。亮太と僕でアイディアを出して、友達にも協力してもらって、いろんなところを歩き回ってたくさん素材を集めました。これをきっかけに久しぶりに会えた人もいたし、ぎりぎりのスケジュールでも快く引き受けてくれた人がこれだけいたこともうれしかったし――自分たちでできることは限られるしすごく大変だったけど、楽しかったですね。やって良かったです。ただ……自分たちの思っているクオリティを出せたかというとそうではないところもあって。でも勉強にも糧にもなった。これからの活動の足掛かりになりました。
──lawl recordsのロゴの“lawl”の“w”だけが白字なのは、その“w”をひっくり返すと“I am I”と読めるというギミックにも感心しました。
千野 僕らの音楽は不特定多数の人に向けてというよりは、そのなかのひとりに向けたもので。だからこそたくさんの人に聴いてもらえる音楽になれるんじゃないかと思っているんです。そういう意味でも“爆笑”という意味のある“lawl”の“w”をひっくり返して“わたしはわたし”と読めるのは面白いんじゃないかなと思ったんですよね。
結果的に残らなかったとしても、残る音楽を作ることは諦めたくない
──『グアナコの足』はリリース時に「勢いのある曲を意識的に多くした」という旨をおっしゃっていましたが、『光にまみれて』はもっと自由な作品なのかなと思いました。テーマに沿った制作というよりは、感覚に素直に従って生まれた曲が集まっているような。
伊丸岡 そうですね、まさにそういう感じです。『グアナコの足』は僕が作ったデモに彼(千野)が歌詞を書いていたんですけど、今回は詞先のものも曲先のものもあって。いい曲ができればそれでいいから、作り方の縛りはないですね。昔の曲に似ないように気を付けてはいるけど(笑)。
千野 僕らめちゃくちゃ曲作ってきたからね(笑)。新しい曲を作品に入れることはメンバーのモチベーションにもつながるんですよね。たくさんある曲のなかで、より鮮度の高いものを入れたくて、亮太と僕で会議をして。ミニアルバムだからいろんなタイプのGOTRを聴いてほしいという意向のもと、バランスを取って収録曲を決めました。よりエモーショナルで“ひとり”にスポットが当たっていて、心をえぐるような作品になっていると思います。すべて配信シングル「私へ」を作ったあとに完成させた曲ですね。
──2017年秋、過去作の配信解禁と同時に配信限定リリースされた「私へ」は、『光にまみれて』製品盤で「私へ ~光にまみれたver.~」ボーナストラックとして収録されています。
伊丸岡 この曲は詞先で、ちょっと変わった曲にしたくて3連のリズムにしました。音にノレるのに寂しいっていいなと思って。
千野 この曲はサビが大それたものというわけでもなくて、優しいけれど切なくて、すごく綺麗で、はっきりと言葉にできない“何か”を含んでいる――そういうところがすごく好きで。いい意味でいろいろと裏切っている気がするし、あのタイミングでこの曲を出したのはGOTRっぽいかなと思いますね。
──GOTRははっきりと言葉にできない、曖昧で矛盾とも取れる感情や、愛情と孤独を同時に歌っているバンドという印象があって。ライブ産業やSNSの普及もあり、2010年あたりから「音楽は共有されるもの」という認識も大きくなっていて、孤独感や心に空いた穴に寄り添う音楽はどこにあるんだろう?と思っていたのですが、GOTRは言葉でも音でもずっとそれを進化させながら貫いていたんだなと、「私へ」を聴いて思いました。
千野 僕らは流されるようなことがないバンドだなと自分たちでも思っていて。もちろん流行りのものでも、いいと思うものや面白いものは吸収していくけど、それは売れるためではなく、楽曲を良くするためですね。こういう曲をやったらバンドが面白くなるよね、というスタンスでずっと活動してきたので。
伊丸岡 時代には流されたくないですね。たぶん、流行りだけを追った音楽はその場限りの効力だから、みんなのちのち聴かなくなるんじゃないかと思う。そうじゃない想いを(千野は)ちゃんと歌詞にしてくれているし、歌詞を読めば音で表現すべきこともだいたいわかるし、合わなかったら合うまで弾き直す。一生聴ける音楽を作りたいですよね。
千野 うん。今の世の中にはたくさん曲があるから、もしThe Beatlesみたいな曲を作れたとしても、必ずしも残るとは限らない。でも結果的に残らなかったとしても、残る音楽を作ることは諦めたくない。そこはこだわっていきたいですね。1曲1曲ちゃんと、深く伝わって共感できるいい曲を作っていきたいです。
──GOTRの核心にあるパンク精神ですね。
千野 そうですね(笑)。僕の書く歌詞は狭いところを歌っているようでいて、いろんな人が共感できる部分はちょっとずつあると思うんですよ。細かい表現が多くなるとリアルになるから、“なんとなくわかる”ではなく“わかりすぎる”と思ってもらえる、突き刺せるものになると思う。そういうものを書くのは苦しいんですけど(笑)、大事にしていきたい。
伊丸岡 敢えて皮肉を込めて流行りだけを追った曲を作って、それが売れても面白いかもしれないけど(笑)。
千野 ははは!そういう曲が来たらたぶん俺も皮肉めいた歌詞を書いちゃうな(笑)。ただ、それでもちゃんと残るものに仕上げるけどね。