インタビュー/永堀アツオ
‘03年にメジャーデビューした男女2人組ユニット“arp”の解散後、劇伴作家として、NHKドラマ「薄桜記」(2012)や水曜ミステリー「さすらい署長」シリーズをはじめ、数多くのドラマや映画、舞台の音楽を手がけてきた濱田貴司。’17年2月には 4度目となるソロライブ「SOUNDTRACK of YOUR LIFE -4- ~距離~」を開催した彼が、2018年は“arp濱田貴司”としての活動を行うことを宣言し、同年7月に行われるソロワンマンコンサート「SOUNDTRACK of YOUR LIFE -5- ~己~ たからのときは、いつもそこに」を以って、ソロライブを一旦お休みすることを決意した。“arp濱田貴司”の復活とソロライブの休止に込めた真意を訊いた。
──2017年の4月に“arp濱田貴司”名義での活動を宣言しました。
2010年の3月にarpの活動自体が終わって7年。デビューが2003年なので、15年経つんですか。その頃熱心に応援してくださった方も当然、15年という歳月を重ねていて。今って、SNSのおかげでそういう方達の状況も見えてくるじゃないですか。いろんな方がいらっしゃって。共にarpの活動を支えてくれた仲間も含めて、世の中の空気のせいもあると思うんですけど、みんながそれぞれ、なんらかの苦しみを抱えているというのは、多かれ少なかれ、たぶんあって。その人たちとarpが始まった15年前の記憶をもう1回、共有してみることは意味があるんじゃないかな、と思ったんです。慰めあうとか、傷を舐め合うっていうことではなく、若い頃特有の立ち向かっていく気持ちとか、なんにしても前向きだった姿勢とか、「俺たちあの頃、こんな旗を立ててたよね」っていう再確認をしたいんです。いま、いろいろと苦しいし、厳しいけど、もう1回、あの時の気持ちになって、じゃあ、いま、何ができるかっていうことを考えるちょっとしたきっかけになったらいいなと思っています。
──具体的にはどんなことをする予定ですか?
きっと残っているはずだと、当時の事務所に行ったら映像がいっぱいあったんです。その映像をかき集めて、できればライブみたいな空間でイベントがやれたらなって思ってます。残念ながら今回のライブにあん朱は参加しないんですけど、「やらしてもらっていい?」っていう許可はとって。一応、了承してくれました。映像の中には、リリースしてない未発表曲もあるので、新鮮な気持ちでそういうのも見てもらいつつ、みんなにあの頃の空気を思い出してもらえたらと思っています。
──2018年だったのはどうしてですか?
きっかけとなったのは、SNSです。昔からarpを応援してくれてた人が、会社をリストラされて、再就職先が決まらんっていう人の書き込みを見たことが。あとは、ちょうどあん朱とarpを結成しようと思ったのが20年前だったんですよ。まだ名前も決まる前、一緒に音楽やろうって決めてからの20年という節目でもあります。
──ご自身のソロ活動の中から湧き上がってきた感情ではない?
それは全然違いますね。いまでは、僕のライブにきてくれている人で、arpのことを知ってるっていう人がほとんどいなくなっちゃって。そこは延長線上ではなく、バラバラになってしまったみんなともう1回、集まってみたいっていう気持ちが大きいです。
──ソロコンサートの方は、ご自身にとってはどんな場所になってます?
arpの話の続きでいうと、当時はレコード会社にもプロダクションにも所属してましたし、セールスや動員数を伸ばさないとっていう気持ちがあって。ライブはその流れの中の1つとして組み込まれていたんですけど、いまの僕は、完全に勝手に一人でライブをやっているので、ある意味、そういった制約から外れているわけです。そうすると、考えることはたった1つで。ライブを観終わったときに、みんながどんな気持ちで帰るのか。お家にどういう思いを持って帰るのか。それだけに集中できるようになったのはすごく大きいです。そういう意味では、いま一人でライブをするようになって、音楽の力っていうものが、よりわかるようになってきたというのはあります。ゲストヴォーカリストに参加してもらうこともあるんですけど、僕のソロコンサートは基本的にはインストゥルメンタルのライブなので、歌がない分、みんなが個人個人の風景を描いてくれている感じがするんですよね。例えば、「いま、一番大切なひとの顔を思い浮かべながら聴いてください」って言えば、一人一人が、その人その人の、人生の大切な時間や思い出を振り返ってもらえている実感はあります。目を閉じて聴いている人も、たくさんいます。
──「SOUNDTRACK of YOUR LIFE」というタイトル通り、人生のサントラになってる。
うん、本当に聴きに来てくれる人の日常の、人生のサウンドトラックになったらいいなっていう気持ちでやっています。さっきも言いましたけど、動員も気にしないし、特に売るものもないので、後半、別に盛り上げたりもしないんですよね。arpのころは、ウワーッと盛り上げて次回のライブの予告みたいなこともやってたけど、今は後半にいくに従って、個人個人として穏やかな気持ちで送り出したくて、むしろまったりさせてます。少しずつ少しずつみんなの気持ちを撫でさするようなライブがしたい。これは言い過ぎかもしれませんが、一種のお薬みたいに。心に溜まったものが溶けて行くようなライブがしたいと思ってますね。
──前回のサブタイトルは「距離」になってました。
1つは、ステージを客席の真ん中に作ったもので。一番近い人は1メートル前で演奏してるっていう物理的な意味があって。もう1つは、人間関係をテーマに話したり、演奏したりしたので、「距離」というタイトルにしました。でも、前回までは、盛り上がる曲もやらないのと同じく、悲しい曲もやってこなかったんですよ。そんな感情を思い起こしてほしくはなかったから。前向きで優しい曲ばかりをやってたんですけど、次はね、悲しいのをやるって決めてて。
──ソロコンサート自体も今回が最後になるんですよね?
そうですね。今度でしばらくお休みしようと思ってて。やめるっていうからには、3年くらいはやれへんぞと思ってます。
──フィルムライブもこの秋で一旦休止してますよね。どういう心境の表れなんでしょう?
一番大きいのは、やめて見えるものを見てみたいっていうこととですね。やめてみた上で、もう1回、やるべきだなって思うかもしれない。みんなにまたやってくれって言われるかもしれないし、そのまま忘れられるのかもしれない。とにかく、一旦、やめてみる事で、見えるものがあると思うんです。それとは別に新しい活動も考えているので、そっちはちょっと楽しみに待っていてほしいですね。“arp濱田貴司”ともまた違います。まったく新しいことを始めようと思っています。
──サブタイトルには「己」と付いてます。
これまで悲しい曲をやってこなかったけど、本当にみんなの気持ちをほぐすためには、1回、悲しみもさらけ出さないとダメなんじゃないかって思ったんですよね。もう1個でいうと、僕自身が裸になってないなっていうのがあって。解きほぐすなんて発想自体が偉そうな話で、その前に、僕自身がちゃんと自分自身を表現してみよう、と。悲しみもしっかり表現して、その上で前に進まなくちゃっていうことですね。今年の頭にやったドラマ「たからのとき」の舞台が、九州の豪雨で非常に大きな被害を受けてしまったことも大きいです。
──福岡県の東峰村が舞台になっていました。
あの災害からちょうど1年になります。東日本大震災や熊本の震災もあったし、日々、いろいろな震災や災害がある中で、全部を覚えておくことも、全部に対して何かできることもないと思うんですけど、ご縁があった東峰村は向き合うべきこととして、変な言い方ですけど、担っていきたいなっていう気持ちがあって。ドラマのサウンドトラックのCDを全棟に配布したんですよ。ドラマを見たら本当に村なので、5~60軒かなと思っていたら、880軒くらいあったのですが、自分で作って、村民の皆さんとNHKさんの協力を得て配りました。災害に向き合う時に、誰しもがそうだと思うんですけど、まず、自分に向き合わなければ失礼に当たるなと思って、「己」というサブタイトルにしました。
──初めて悲しみも表現するライブになるんですね。
災害では亡くなった方もいらっしゃいますし、そこは正直に、逃げずにちゃんと向き合おうと思っています。僕も僕の人生の悲しかったこと、切なかったことを告白したい。そういうことなら、きりがないくらいネタには事欠かないので(笑)、さらけ出して行こうと思ってます。そこで、みなさんがどう思うか。みなさんも共鳴できることはいっぱいあると思うので、あえて向き合うことで、そこからどう前向きに考えていくのかっていうライブにして、またいつか会いましょうっていう感じにできたらいいなと思いますね。
──ゲストシンガーとして、古賀小由実さんと坂本タクヤさんの出演が発表されています。
このテーマに対して、どういう内容にするのかは、さっきの支援も含めて、考えていくことはまだまだあるなと。とりあえず現状では、「たからのとき」の主題歌「わたしのたから」を歌ってくれた古賀小由実さんにはぜひ出てもらわなくてはと思っています。その古賀さんを紹介してくれたのは、斎藤工くんなんですよ(斎藤工が監督を務めた映画『半分ノ世界』で劇伴を担当)。僕にとって彼はキーマンで。一般にはほとんど出てないんですけど、彼の曲もかなり書かせてもらっているんです。彼のファンクラブイベント以外ではその曲を演奏する機会はなかったけど、今回は工くんと一緒に作った曲をやってみたいな、と。「誰か歌ってくれる人おらんかな」って考えたときに、僕の中で工くんと坂本くんは、出ている匂いが近いんじゃないかなと感じる部分もあって。歌ってほしいってお願いしたら、喜んで出てくれることになりました。
──来年7月とかなり先にはなりますが、楽しみにしているお客さんにメッセージをお願いします。
疲れてる人ほど来てもらえたらなと思います。自分でいうのはおこがましいんですけど、来てくれた方に「ライブが終わって外に出た時に、会場に入った時と光の色が変わって見えた」って言っていただいた事があって。それは目指していたことだし、すごく嬉しいし、だからこそ、続けてこれたんだと思います。疲れた心を慰め、寄り添いあって終わりじゃなくて、ちゃんと背中を押すライブにしたいと思ってますので、信じて、身を委ねに来てもらえたら嬉しいです。
PRESENT
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■『心から、ありがとう』(2017.2.11 濱田貴司ワンマンライブ『SOUNDTRACK of YOUR LIFE -4- ~距離~)