──なるほど。でも、GOATBEDって基本はテクノな打ち込みサウンドじゃないですか? そこに生のツインドラムが加わることで、どんな作用が起こるんですか?
誤解されるかもしれないけど、まずライブで一番重要なのは「見た目」なんですよ。音っていうのは人によって分かる人もいれば分からない人もいる。真剣に音楽を聴きにきてる人もいればそうじゃない人もいるってところで、サウンドの技術的なころではなくてね。カッコいい女性ドラマーが目の前に2人いて。その人たちが淡々とGOATBEDの曲を何事もなかったかのように叩ききる。その潔さがとにかくカッコいいんですよ。
──ああー。その佇まい、有り様だけでカッコよさがGOATBEDにプラスされるという訳だ。
そうです。その作用が一番重要なんです。ライブでは。サウンドも、土台が生になると、たとえ上にかぶせているのはシーケンスでも、俄然エモーショナルになりますし。
──場内の空気感が。
ええ。あとは、お客さんの目線が散らばります。他のメンバーがいることで。ファンもいろいろ気付くんじゃないですかね。2人だけで狭っまい会場とかでやると、ファンがすっごい見てくるから腹たつんですよ!
──そこで怒るのはおかしいですから。だってGOATBED見に来てるんだからね、そりゃガン見しますよ(微笑)。ファンなら。
いや、分かるよ? 分かるけど「他になんかあるだろう」って(笑)。そんなに視線浴びせられても、俺もどこ見たらいいか分かんないじゃないですか? だから、映像使ってるのに。
──そういうときは、石井さんがナルシストになればいいんですよ。みんなの視線を浴びて「なんて俺は素敵なんだろう」って思えばいいじゃないですか!
元々俺はそういうものがないんですよ。子供の頃は“音楽やってる人はカッコいい”。そんな動機ではじめたんでしょうけど。だけど、そんなものは数年で無くなってしまう訳ですよ。自分が思い描いていた世界がそうではないことを俺は早い段階で知ってしまって。ここはまったく自分にはフィットしない世界だっていうのを、もう10代の頃に分かってしまった。だから、そうはなれないんですよ。いまは、後悔というかね(微笑)。この場所は自分の描いていた理想ではなかった、だけどもう手遅れだなとすごい後悔した時期があるんですよ。
──石井さん、このお話超面白いんでもっと詳しく聞きたいんですけど。まずね、10代の頃、石井少年は何が分かってしまったんですか?
っと音楽とかやってる人っていうのはすごくて、選ばれた人間だけがやるものだと思ってたんですよ。だから、俺も選ばれた人間になりたかったんです。音楽がすごいと思った子供の頃は。だけど、やり出したらどいつもこいつもロクでもない奴ばっかりで。
──うひゃひゃひゃ(爆笑)。
俺は若い頃に東京に出てきて、自分よりも6、7歳上の人とバンドを一緒にやったり対バンしたりしてたら「現実はこんなものなのか」と思ってしまったんですよ。だから、自分のなかにはナルシスティックな部分とかはまったくないです。自分がこれまで積み重ねてきたキャリア。それがあって、いまはこうなっているだけで、自分の理想は、ステージで歌を歌うとかではない。だけども、そこをいまさら否定したら俺は生きていけなくなるので。自分ができることと、ちゃんと向き合って一生懸命いまやってる訳ですよ。
──なるほど。よく分かりました。じゃあ質問なんですけど。現実は選ばれた人だけがやってる世界じゃなかったと分かったとき、なんで石井さんはそれでも音楽を続けたんですか?
だから辞めてましたよ。完全にもうやるつもりはなかった。でも、cali≠gariに強引に誘われちゃったからこうなったんですよ。
──えー! 本当に?
ええ。そこには、あまりにも素晴らしい舞台が整ってた訳ですよ。cali≠gariに誘われたとき。それにのっかってしまっていまに至ったという。だから、cali≠gariに俺が入った当初はね、葛藤とか不満を抱えて音楽活動してたんですよ。きっと。
──えーっ(苦笑)。
その当時は本当、ロクでもなかったと思いますよ。自分は。
──だからあの頃の石井さんは、取材中もなんか不機嫌でふてくされてたんだ!
そういわれるですけど、まったくそんなつもりはなかったんですよ。自分は(笑)。だから、昔から知ってる人には謝って歩きたいぐらいなんです。
──ヒャハハ(笑)。その当時の石井さんに聞かせたいですよ。この発言を。
いや本当に(苦笑)。別にふてくされてた訳じゃなくて、自分に対していっつも「俺は何やってんだ?」って思い悩んでただけなんですよ。それを解消したいんだけどどうしたらいいのか分からず、深みにハマっていく。そんな感じだったんですよ。あまりにも自分が普段好きで聴いている音楽と、自分が実際に(cali≠gariで)やってる音楽。その落差が大きすぎて、そこをうめる術が分かんなかったからそうなってたんだってことに、最近やっと気づいたという(微笑)。
──へー。cali≠gariがメジャーデビュー15周年迎えて、やっと(笑)。
それに対しても思うんですよ。「一体俺はこの15年、何やってたんだ。その間、もっと他のものになれたよね?」って(笑)。
──確かに! 冷静に考えて動いてたら、他の仕事に就くことができたかもしれない。
うん。だから「ダメだ、こりゃ」と思ってね(笑)。やっぱなんかあるんでしょうね。俺はこういう感じの人生なんだなとようやく分かったんです。ここ数年。
──それで、音楽をやっているいまの自分をやっと受け入れられたと。
うん。だから、いまの自分はスタジオまで持って。そこでずっと1日中曲作ったりレコーディングしたりしてるだけですから。そうすることで、色々解消されていってる気がするんで。本当は、もっと他にいろんなことをやりたかったんでしょうね。自分は。
──ステージに出ていって、髪立てて歌ったりじゃなくてね。
うん。そう思ったから、いま俺はこうしてGOATBED(の表現の形)になっているんでしょうね。