インタビュー/東條祥恵
13階段を登ったその先には、いったいどんな景色が広がるのだろうか。2018年3月11日、<lynch.13th ANNIVERSARY-Xlll GALLOWS->と題して、lynch.がバンド史上最大キャパとなる千葉・幕張メッセ国際展示場のステージに挑む。ベーシスト脱退にライブ活動停止。バンド史上最大規模の逆風に吹かれながらも、見事復活を遂げた彼らは今年初の日比谷野外大音楽堂ワンマンライブ<TOUR’17『THE SINNER STRIKES BACK』>をSOLD OUT。その勢いを止めることなく、現在は幕張という大舞台のゴールに向かって、10月20日から早くも全国ツアー<TOUR’17「THE BLØODTHIRSTY CREATURES」>を開幕。11月8日には「おお!」と驚くニューシングル「BLØOD THIRSTY CREATURE」もリリースする彼らに話を聞いた。
──先ずはこの夏に行なった初の野音ワンマンに関してお伺いしたいと思います。ニューシングル「BLØOD THIRSTY CREATURE」の数量限定生産盤、初回限定盤は、なんと普通なら単体で発売するような野音のライブを収録した映像作品が同梱されるそうですが。シングルにこんな映像作品を付けること自体、大サービスですよね。しかも数量限定生産盤はアンコールまでノーカットでライブを収録。
そうなんですよ。ライブ自体は長くはないんですけど、「アンコール」とか、待ってる時間は見てると長く感じますけど(笑)。
──初の野音は、やってみどうでした?
野外のワンマンは初だったんですけど、想像していたよりもステージの音がクリアに聴こえたんですよ。そういう環境をスタッフが作ってくれたというのもありますし。お客さんとの距離感もそんなに感じなかったので、ライブハウスのようにやれて楽しかったです。野音は、それまで全国各地のライブハウスを回ってきたツアーのファイナルという位置付け的なことを考えても、野音をライブハウスのように演れたことはよかったなと思います。
やっているときは特別何かを意識したことはなかったんですけど、野音の映像を改めて見たら、自分はあの広い空間を活かしきれてなかったなと思いました。体が縮こまってて。来年3月、野音以上にデカい幕張メッセのステージに立つとき、どう自分を表現するのかという課題を見つけられたライブでしたね。でも、開放的なところでライブをやるというのはすごく気持ちよかったです。最初に1音出した瞬間に「野外っていいな」と思いました。lynch.で屋外というイメージはあんまりなかったんですが、やってみたら意外と合うんだなという発見もありました。
僕はまだ映像を見てないんですよ。ライブ関係の音とか映像はまったく見ないようにしてて。特に音とかは全部直したくなっちゃうから。このあと副音声の収録をするので、そこで初めて見るんですけど。なので、思い出だけで話すと、まず景色にビックリしました。お客さんがばーっとたくさんいる景色が圧巻で、人ごとみたいですけど「すげぇバンドなんだな」と思いましたね。ライブ自体も楽しかったですよ。それまで野外はイベントでしかやったことがなかったんで、音を整える時間がないからあんまりいいイメージではなかったんですけど。今回はワンマンだったのでいつものスタッフがいい環境を作ってくれたお陰で、思ってたよりも普通にできました。
──葉月さんは虫が苦手とおっしゃってましたけど、大丈夫でしたか?
アンコールのMCのとき、僕の立ち位置のところにセミがいて。玲央さんの話によると、僕はそれを踏んだらしいんです。
──うわー、それは大変!!
MCのときじゃなく、上手に煽りにきたときに踏んだんですよ。でも、これは終わるまで言わない方がいいなと思って。言ったら、また踏むんじゃないかって下を見ながらライブをやりそうだったから、黙ってました。
そこも収録されてるんでしょうね(微笑)。あと、天気が最高でしたね。序盤は曇りで、しっとりしたゾーンだけ霧雨が降ったのは演出みたいで最高でした。
経験値として野外は僕ら、そんなにやったことがなかったんで、みんな不安はあったと思うんですが。野外だけども、そんなにいつもと変わらずできました。でも、ライブハウスと比べちゃうと全然違うなと僕は感じましたね。一番いいなと思ったのは、外だから偶発的な要素。例えば雨だったり。しっとりした曲をやっているときに霧雨が降ったりということは外でしかありえないので。これはいいなと思いました。あと、途中にパンなのかお菓子なのかを焼いてるような匂いがしてきて(微笑)。ずっとそれが気になってました。外はいろいろありますね。
──野音に来られなかった方には、ライブ映像がついたシングルの購入をお薦めしたいですね。
絶対に僕は(数量限定生産盤の)Blu-rayを買って欲しいです。DVD(初回限定盤)も出ますけど。Blu-rayの方が画質もよければ音質もいいし内容も盛り沢山なので。やっぱり僕らはいい映像で見て欲しいんで、Blu-rayプレーヤーを買ってでも見て欲しいです。
──では次にニューシングルについて聞いていきたいと思います。lynch.としてここではどんなものを創ろうと考えていたんですか?
破壊力があるもので過激で激しく刺々しいもの。漠然とですけど、そういうイメージはありました。歌で勝負しようとか、そういうのは一切なかったです(笑)。来年3月の幕張メッセを発表して。このシングルが幕張前、最後の音源なんですね。だから、このシングルなりリード曲のMVでいろんな人に興味を持ってもらって、幕張にたくさんの人を引っ張らなきゃいけない。そんな使命があるシングルなので責任重大なんですよ。コイツは(微笑)。その上で、じゃあどうしようかなと考えたときに、やはりlynch.は攻撃的で激しくて、だけどもメロディーがあって美しくカッコいいバンドであるというのを表現した曲を作らなければいけないと。そう思って野音のあとに作りました。
──1曲目の「BLØOD」はその狙いにふさわしいlynch.らしいナンバーでしたね。
幕張に向けてlynch.らしいものを作ろうというところから、これは最初ギターリフができて。そこからばーっと勢いでできた曲です。「よし、lynch.らしいものができたぞ」ってことで、元々はこれがリード曲の予定だったんです。
──えっ、そうなんですか?
ええ。みんなにメールで送るときも「リード曲候補です」と書いて送りましたから。それで「もう1曲は後日出しますからよろしくお願いします」と。そこでできたのが「CREATURE」。これもささっとできて。こっちはC/W曲として作っていたので、変化球というか遊びの要素の多い曲なんですね。でも、出来上がってみたら「あれ?これがリードでもいいのかな?」っていうハテナが生まれまして。そこでメンバー、スタッフみんなに両方聞かせて「どっちがいい?」と意見を募ったら「CREATURE」のほうが人気だったんです。「新しい!」と。いままでこういう曲でMVを撮ったこともないし。僕は中立でどっちでもよかったんですけど、そこまでみんながいうならいってみようってことで「CREATURE」がタイトル曲になったんです。
──そんな経緯があったんですね。「CREATURE」はウィスパーでブツブツ喋っているようなボーカルアプローチが斬新だと思ったんですが。このアイデアはどのタイミングで思いついたんですか?
そのボーカルがすべての始まりなんですよ。ブツブツ早口でいうセクションがある曲を作ろうというところから始まったんで、冒頭のブツブツ言ってるところが最初にできて。そこから曲を広げていったんです。
──あそこでブツブツいわれるとゾクゾクするんですよ。
──あのブツブツの喋り方も、いろいろ試したんですか?
そんなには試してないです。ウィスパーと普通に喋ってる声と歪ませた声。3つの声色が2本づつ、全部で6本入ってるんです。
──違う声色を重ねたらどんどん面白くなった。
気持ち悪くなりました(笑)。あそこは悪魔が耳元で囁いてるイメージだったから、気持ち悪くしたかったんです。
──ブツブツいってみようという発想はどこから出てきたんですか?
あれは、街で流れてた名前も知らないレゲエの音楽で、レゲエだからもっとテンション高い感じでブツブツ早口でいってるのを聴いたのがヒントになってて。それを我々がやるとああいう気持ち悪い感じになると(笑)。
──玲央さんは「BLØOD」、「CREATURE」、どっち派だったんですか?
僕は「CREATURE」派でした。単純にMVを撮るにあたって「BLØOD」だとこれまでと同じような流れの映像が想像できちゃったんですよ。今回発売形態が3形態あって。そのうちの2形態は野音のライブ映像がつくじゃないですか?だから、単純なシングルというよりも、シングルでも映像作品でもない、不均衡な位置にある作品形態だと思うんですね。シングルであり、映像作品でもあるので。そういうアンバランスな位置にある作品だからこそ、MVも遊べるんじゃないかというところで僕は「CREATURE」を選びました。「BLØOD」はこれまでの王道なんですけど、「CREATURE」はlynch.でこういうのやってなかったよね?っていうところの「おお!?」っていう感じが欲しかった。だから、これを手に取った人は「BLØOD」が1曲目に流れて。「おっ、これこれ!lynch.だよね」って感じから、リード曲の「CREATURE」にいったとき「おお!?」って思うんじゃないかな。このテンポ感とか。早いビートで押し切る曲でもないし、かといって歌ものでもないし。それが新鮮なんじゃないかな。
──悠介さんはどちら派だったんですか?
僕はどちらでもよかった派です。2曲ともライブ映えする曲だし、攻めていこうという姿勢がすごく出てる曲なので。今回のシングルは、個人的には3曲目の「THE WHIRL」。これ、僕が加入して2回録り直したんですけど。1回目のときに全然自分を出せなかったんで、今回録り直して、自分が納得できる自分らしさを自然と入れることができたんで、それはすごくよかったなと思ってます。
──悠介さんお得意の空間の広がりを感じさせるギターアレンジがよかったです。
ありがとうございます。今作はファンの人にとってみればかなりお得なんじゃないかな。なかなかないですからね。新曲も聴けてライブ映像もフルで見られるような作品は。なので、ぜひBlu-rayで見て欲しい(微笑)。
──晁直さんはどちら派だったんですか?
僕は最後まで「BLØOD」派でゴネてたんじゃないかな。いままでの活動の流れのなかで、フックとして「CREATURE」をタイトル曲にするのもいいけど、それだけで終わってしまわないかなという心配もあって。だったらlynch.らしい「BLØOD」にしたほうが後々どうにでもなるんじゃないかなとうことで、最後まで「BLØOD」を推してました。「CREATURE」はこれまでのリードトラックとテンポが全然違うんですよ。lynch.のリードトラックは早い曲が多くて。最初から最後までテンション上がりっぱなし、みたいな感じなので、「CREATURE」はじっくり聴けるんじゃないかな。