インタビュー/兼田達矢
──まず、15周年というのは端的に言ってどんな感触ですか。
武部(聡志)さんが還暦を迎えたり、森山良子さんの50周年のアルバムに参加させてもらったりすると、周年って30年とかでいいんじゃないのかなっていう気はします(笑)。というか、やっぱり30年くらいやって、やっと「やりました」と言えるんじゃないかなあという気がしてて。どちらかというと、結婚と出産をしたことのほうが私には区切り感が強いんです。出産してもなおアルバムが出せるというのは本当にありがたいなと思ってて、それがたまたま15年目に差し掛かったということなんですよね。
──前回お話聞かせていただいたのがちょうど1人目のお子さんが生まれた直後で、体の回復期だったんですが、その後1回ツアーをやって、今回2人目が生まれて、2回目の回復期の感覚は前回と比べていかがですか。
まあ、やっぱり腹筋は伸びてますよね(笑)。「ハナミズキ」1つとっても、高音を歌うときの、体の鳴りも違うし、ビブラートも細くなってるし。自分が実感として掴んでた、“ここに当てれば音程は合ってるだろう”とか“これくらいの力でここはウィスパーボイスが出せるだろう”みたいな感覚が全く壊れちゃってるから、そこをもう1回体と相談しながら歌うという状況になってます。
歌への向き合い方、作詞の方法、様々な変化をもたらした出産の経験
──大変だなあ、という感じですか。
いや、それはデビュー前にやっていた、歌を獲得していく作業と似てて、出産みたいなことがなければ、もしかするとダラダラと過ぎていってしまってたかもしれない毎日の中で、もう1回体をちゃんと鍛え直そうとか、ちゃんと歌の練習しようという気に改めてさせられるから、いい経験だなと思っています。それと、作詞のほうでは、書き方が素直になったなと思いますね。子供に向けてする会話って、どうしても比喩表現とか難しい言葉はわからないから、目線が動物的になった気がするし、使う言葉も変わりますよね。聴く音楽も、以前は真っ直ぐな音楽に対して“ちょっとひねりがないな”と思ったりしてたんだけど、いまは真っ直ぐに受け取れるようになったっていう。
──そうした毎日のお子さんとの暮らしと、創作の作業が地続きになってるということですか。
そうですね。それに、見たものをどうとらえるかという視点がやっぱり息子なりで、自分とは違うので、そこで自分では想像しえない擬音語が出てきたりして、すごく楽しいですよね。それがいつか自分のなかに溜まっていって、歌詞に出てくるといいなと思ってます。それから、息子がただ歌うんじゃなくて、同時に体を動かしながら音を出しているのを見てると、自分が小学生の頃にやってた行動を思い出させるというか、それこそ「ヘッド・ショルダーズ・ニーズ・アンド・トゥズ」でもなんでもいいんですけど、そういうことがすごく大事なんだなって。“またダンス熱再燃なのかな?”みたいなことは自分の中で思ってます。
──歌うということはすごく肉体的な作業なんだということを実感もするし、息子さんから教えてもらってる、と?
そうですね。やっぱり振りが付いてたほうが覚えやすいし、記憶の方法もそうなんだろうと思うんです。
──それで、シングル「七変化」のMVは踊りながら歌う内容になったんですね。
そうですね(笑)。図らずもそうなりましたが。やっぱり踊りながら歌うって、人間の喜びの根源にあるんじゃないかと思いますね。
──言葉の話に戻すと、「七変化」の歌詞はどういうふうに書き進めたんですか。
まず「伝七捕物帳2」(のタイアップ)があって、舞台が黒門町ということだったので、黒門町のあったところを散策し、江戸の本を読み、柳川鍋を食べ(笑)。これまでの人生の中で、時代劇とか岡っ引のドラマってあんまり見たことがなかったので、いろんなことを改めて調べ直して、面白いなあと思いながら書きました。
──久しぶりの作詞作業はどうでしたか。
オムツ替えと授乳に専念してると、インプットが何もないので、なかなか書けなくて…。
──やっぱり、作詞作業というのは入ってくるものがあるから出せる、という感じなんですか。
そうですね。最近はニュースすらそれほど見てないですから。
──毎日の生活と創作が地続きという話でしたが、それでも作詞のための回路が別にあって、そっち側に入ると創作がサクサク進むというわけでもないんですね。
前にアフリカを旅行してて、“なんで太陽賛歌とかが多いんだろう?”と思ったことがあったんですけど、それは彼らにとって太陽の恵みがあって、そこで1日の生活を営むってことのほうが恋愛とかよりよっぽど重要で、だから大地が揺れるとか象がどうのこうのとかっていう歌詞がリアルなんですよね。私も出産直後は、アメリカの大統領がどんな発言しようが、どんなアイドルが流行ってるとかどんな映画が流行ってるということより、ただひとえにおいしいおっぱいがあげられるということが重要で、そのために自分は体にいいものを食べるということだけなので、そこからメッセージってなかなか出てこないですよ(笑)。
──まして今回は時代設定も現代じゃないし、しかも岡っ引ものっていう。
そうですね、突然“文化”がやって来ると戸惑いますよね。“なんでしたっけ、事件って?”みたいな。
『歌祭文』を引っさげての全国ツアー、その展望は?