インタビュー/沖 さやこ
HINTO、SPARTA LOCALS、堕落モーションFOLK2による自主レーベルcat fish label第1弾作品としてHINTOの1st EP『LAST NIGHT』がリリースされる。HINTOとSPARTA LOCALSのフロント3人は同じメンバー。だがフロントマンの安部コウセイは「意識をしなくても、SPARTA LOCALSで音を出せば肉体的で野性的な感じになるし、HINTOは優しい感じ、一音一音に集中力を使って紡いでいくというスタイルに勝手になる」と語る。取材日は9月11日。9日にHINTOの、10日にSPARTA LOCALSのライブをしたばかりで「2日連続ライブあるの疲れるなと思いますけど」と笑う安部の表情は、非常に自然体で明るかった。
SPARTA LOCALSをやることでHINTOというバンドが持っているアイデンティティが実感としてはっきりしていった
──HINTOのインタビューではありますが、まずは2017年7月に恵比寿ザ・ガーデンホールでSPARTA LOCALSが開催した復活後初のワンマンライブ「復活のファンファーレ」について伺えればと思います。
ずっとSPARTA LOCALSでワンマンをやっていなかったし、キャパシティも大きな会場だったので、蓋を開けてみるまではどんなライブになるのかまったくわからなくて不安もあったんです。でもステージに立った瞬間にお客さんの「待ってました!」というスパルタ愛をバーンとくらって、それがバンドのエネルギーに比例していったのでむちゃくちゃありがたかった。SPARTA LOCALSを再結成しようと思えたのは、HINTOの土台や世界観がしっかり作れたからこそなんです。実際ライブをやってSPARTA LOCALSはHINTOで補填できない世界観だとも思ったし、SPARTA LOCALSをやることでHINTOというバンドが持っているアイデンティティが実感としてはっきりしていった。再結成して良かったなと思いましたね。ライブが純粋に楽しかったし。
──観ている側としても、音源だけでしか聴けなかったSPARTA LOCALSの音楽を生で聴けたことがシンプルにうれしかったです。
SPARTA LOCALSの再結成に関して「微妙だ」「複雑だ」と思ってる人もいると思うんです。でも何をやってもそう思う人はいると思うし、俺もそういう感情に引っ張られそうになった時期もあるんですけど、あのライブをやって完全に吹っ切れました。お客さんとバンドのシンプルな感情がぶつかりあう清々しさがありましたよね。
──「復活のファンファーレ」前までは、ギターの伊東真一さんが再結成に関してあまり乗り気ではなさそうなのが気にかかっていたのですが……。
ね……ほんとあいつね!(笑)でもわかりあえない部分があるから緊張感も消えず、なあなあにならないからバンドは面白いと思うんです。真くん(伊東)と俺は似た感覚を持っているところが多いけれど、真くんは「1回終わったものを再開させることはかっこいいと思えない」という美学を、俺は「その瞬間でやりたいと思うことをやりたい」という美学を持っている。だから真くんが受け入れるのに時間がかかったのは当然だと思う。でも真くんも「復活のファンファーレ」で完全に吹っ切れて相当前向きなスイッチが入ったと俺は感じているので、良かったなと思っています。
──再結成ライブは過去の焼き増しになる可能性や、解散前よりも力が劣る可能性も否定できないですが、「復活のファンファーレ」にはそれがなく、バンドがアップデートされていたことも印象的でした。
それは俺も思いましたね。解散前のSPARTA LOCALSは感情的なところでしか表現できなかったんですよ。でもHINTOで得たノウハウや積み上げてきた経験があって、「復活のファンファーレ」ではSPARTA LOCALSの音楽的な部分を体現できた。精神的な成長を手に入れているなと思いましたね。だから再結成後のほうがSPARTA LOCALSの良さがわかりやすくなっている、間口が広くなっている気がする。ポップになったというか。
──ひりついた感覚はちゃんと残ったうえでポップセンスが如実になって。
うんうん。そのバランスがいいなと思って。過大評価かもしれないけど、ライブをやりながら「下手したらいまのほうがかっこいいんじゃないか?」って気持ちになっちゃって(笑)
HINTOのオイシイところはここでしょ!というのを意識した
──コウセイさんは以前インタビューで「SPARTA LOCALSを再結成させることでいい影響も悪い影響もあると思う」とおっしゃっていました。悪い影響もありますか?
スケジューリングが難しい!(笑)
──ははは。確かにそうですよね。
HINTOでもSPARTA LOCALSでも堕落モーションFOLK2でも、やっぱりバンドをやるうえで根底にある気持ちは「お客さんに楽しんでもらいたい」ということなんです。HINTOのライブが迫っているときにSPARTA LOCALSのでっかいトピックがどーんと入ると、HINTOのお客さんとしては、なんとなくちょっとだけ「うーん……」と感じると思うんですよ。俺がお客さんの立場なら、そのちょっとのノイズが嫌だなと思っちゃう。「あ、もう少ししたらHINTOのライブだな」という気持ちになるべく水を差したくないから、そういう気遣いはちゃんと丁寧にやりたいなと。
──『LAST NIGHT』の楽曲はいつごろお作りになったのでしょうか。
全然憶えてない(笑)。そういうことすぐ忘れちゃうんですよね。ただ、いままででいちばん、シンプルにいい曲を作りたいという気持ちで作ったかな。
──コウセイさんが思ういい曲とは?
バンドでやるうえでのいい曲は、きちんとバンドのカラーに合っていることと、バンドメンバーのオイシイところにちゃんとフォーカスが当たっていること。『LAST NIGHT』はそのふたつをいままででいちばん意識して作曲したかも。HINTOは優しさや切なさがあるので、そういう部分を抽出してかたちにできたらと思いましたね。SPARTA LOCALSで表現している狂気性、暴力性、野生感、カオス感は、HINTOでは表現できない。それは長年HINTOをやってみて思ったことでもあるので、SPARTA LOCALSを再結成したことで、よりHINTOでしか表現できないことを考えたというか。HINTOのオイシイところはここでしょ!というのを意識しました。
──「SUMMERGAZER」はHINTOのテーマにもなっていた、夏の陰が描かれています。
もともとは「バンドに季語をつけて制限を設けてみたらどうなるんだろう?」という発想から始まって、徐々に飽きていって前作『WC』で完全にそれに飽きて(笑)。でもHINTOのやりたいことを突き詰めていくと9月10月のような、暑さが残っている秋の空気感と近いんだろうなー……という気がして。「SUMMERGAZER」は夏が過ぎたくらいに夏を想うような曲になりましたね。「過ぎ去ってく夏をみつめた」「恋人達は不安げに手を振った」というサビの歌詞がメロディと一緒に出てきたんですよ。僕はそういうことがあまりないので、「あ、一節で曲のトーンもわかるし、これは名曲だな。もう8割くらい曲ができたようなものだ。これに準じて歌詞を組み立てていけばいい」と思って。だから歌詞にあまり深い意味はないんですよ。「night chance」もそうだけど、かっこいいフレーズを言いたい!って感じ(笑)
安部コウセイのバンド哲学
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