インタビュー/兼田達矢
──5年前の、20周年のライブに向けてのインタビューでは「スタッフから言われて気がつきました」というようなお話だったんですが、今回の25周年についてはどんな感じで迎えることになりそうですか。
今回も流れとしてはそんな感じなんですが、何年か前に、プロデューサーの高橋研さんが25周年のライブをやったのが、わたしのなかではすごく印象に残ってるんです。周りのアーティストを見渡してもアニバーサリー・ライブというのをいろいろ目にするんですけど、そのなかでも研さんの25周年ライブはわたしのなかに強く残ってて、だから個人的な思いなんですが、25周年は大事にしたいなという感じがあったんですよね。そしたら、たまたま25周年の5月21日が週末だったことでも拍車がかかり、わりと前々から「この日はやりましょう」「はい、わかりました」みたいな感じで話が進んでいったんですよね。
──どんなライブにしようと考えていますか。
研さんの25周年ライブは、研さんがプロデュースした人や、いろいろな形で携わった人たちがいっぱい出て、地方からも研さんのことを応援している媒体の人たちが来てくれたりして、通常のライブとは違う、ちょっとお祝いモードの感じがいいなと思った記憶が、わたしのなかの25周年なんですよね。だから、自分の25周年ライブをやるとなったら、わたしの活動に携わってくれた人たちをいっぱい呼んでお祭りにしたいなと最初は思ってたんです。
──いかにも、アニバーサリー・ライブらしい感じのイメージですね。
それで“あの人も呼びたい、この人も呼びたい”という気持ちがすごく高まって、なんだったら“サプライズもいっぱい仕掛けてほしい!”くらいの感じで、でもマネージャーは気が利かないから(笑)、「普通はサプライズとかやるもんだよ」と、わたしから言ったりしてたんですよ。ところが、“25周年のライブって、そういうのでいいのかな?”とだんだん思い始めてきたんです。
──それは、どうしてなんでしょう?
わたしが最初に思ってたライブのイメージは、どちらかと言うとみんなが用意してくれたところにわたしが行くという感じじゃないですか。でも、自分の音楽人生を振り返った時に、“そういう25周年をわたしは求めているのかな?”と、ここのところ自問自答していて、例えば20周年のライブではいままで出したシングルの曲を全部やったんですね。つまり、アニバーサリーのライブというのは、それまでわたしがイメージしていた“わたし、がんばった”、“わたし、ありがとう”というライブではなくて、周りの人にすごく感謝しなきゃいけないんじゃないかなとすごく思ったんですよ。自分の歩んできた道を、もちろん20周年のときとは違った形になるとは思うんですけど、しっかり見せるライブというのが、いままで応援してきてくれたファンのみなさんやスタッフの人たちに対して大事なんじゃないかと思うし、「わたしはこの歌をこんなに大事に歌ってます」というのを、あるいは「あの時にはこんな気持ちで歌っていた自分がいまはこんなふうな気持ちで歌ってます」というのを今のベストの形で伝えるのが、わたしなりの25周年なんじゃないかなと、自分のなかでは気持ちが変わりつつあるんですよね。
──去年発表したアルバム『MUSIC』について、“自分はこれだ”という歌い方に確信が持てて、とても納得度の高い仕上がりになったと話されていましたが、そういう作品を作れたことと、自分の歩んできた道をしっかり見せるライブに気持ちが向かっていることはつながっているんじゃないですか。
わたしはこれまでにいろんなことをやってきたし、これからもやりたいと思ってて、それも自分ではあるんだけど、でも自分にとってのいちばんド真ん中のことというのがあるんですよね。そのド真ん中のことじゃないことをたくさんやっていると、自分の体のバランスが少しおかしくなってくることもあるように思うんですけど、『MUSIC』というアルバムを作った時に、“自分のアルバムでこれってものがあって、これっていうライブがあれば、他は何をやってもいいんだな”と、すごく思いました。吹っ切れた感じがしたというか。それに、わたしはいままで音楽の世界しか知らなかったけれども、子供に関わる世界とかも見てきて、いろんな人がいるなかでも結局は自分というものをしっかり持って、「わたしはこれなんです」ということをやっておけば、自分の気持ちも揺るがないし、それが生きてるということなのかなと最近すごく思うんです。だから、音楽だけの話じゃなくて、自分としてどう生きていきたいかと置き換えて考えてみたときに、サプライズとかを楽しむよりも、「自分はこれです」というものをしっかり見せるライブにするほうが節目なのかなとふと思ったんじゃないかなあ。
──ちなみに、子どもを育てることが自分の生活の主要な部分を占めるようになってから、音楽との向き合い方や距離感に変化はありますか。
24時間全部を自分のためだけに使えて、アルバムとライブのことだけしか考えていなかった日々はやっぱり懐かしいですよ。思い出すと、キューンとします(笑)。ただ逆に、その24時間全部を音楽に使えていた時期はいまほどライブを楽しみにしていたかというと、ちょっとわからないですね。昔の自分の生活のなかでは、アルバムを作ってライブというサイクルが当たり前だったし、いつも目指すところにアルバム作りとライブがありましたけど、いまはライブという目指すところがちょっと遠いところにあったりするから、そこに向けてのエネルギーの溜め方は半端じゃないというか。そういう感じはします。それから、音楽を聴いてる時の意識は、新しいものを仕入れるというよりは自分が好きだったものを確認するような感覚が強いようにも思いますね。
──そういうふうな心持ちの加藤さんが今、例えば20代の頃に作った曲を歌う時にはどんなことを思って歌うんでしょうか。
それは曲によっていろいろだと思うんですが、例えば「好きになってよかった」はいままで恋愛の歌としてずっと表現してきたんですけど、そういう思いとは違う気持ちで歌ってしまうというか、どうしても自分が歩んでいく人生みたいなところにおける表現になってしまうような気がしてるんです。それに、根本の気持ちは変わっていないけれど見ている景色が違う、ということもあると思いますね。“あの頃のわたしたちはもういないんだな”って思っちゃったりしますけど、でも誰でもそういう気持ちを抱えながら生きてるわけじゃないですか。それは20代の頃にはまったく思いもしなかった感情だけど、今はそういう感情をすごく歌いたいんですよね。立場は違っても、仕事はいろいろでも、きっとみんながこんなことを思いながら生きてるんだろうなあって思うから、いままでは恋愛のこととして歌ってたことのなかにこういう思いも混ぜながら今後歌っていくことが、30年、35年とわたしがキャリアを重ねていくことの使命みたいなことなんだろうなあと思っています。
──そのように音楽に込める思いに変化が生まれていることは、最新作の『MUSIC』が明るくてハッピーな印象のアルバムだったことと関係がありますか。
娘に読み聞かせるお話のなかで「北風と太陽」というお話がわたしはすごく好きで、それは“人の心を動かすのはこういうことなんだよな”と思うんですよね。それは娘に接する仕方も同じ話で、何か良くないことをした時に強く叱りつけるよりもゆっくりと温かく話しかけると、娘も本当に思ってることを話してくれたりするっていう。それからユーミンの「悲しいほどお天気」じゃないですけど、すごくいいお天気の日のほうがすっごい悲しかったことを思い出したりするじゃないですか。『MUSIC』の明るくてハッピーな感じというのは、わたしのなかではそれに通じてて、明るく包むことによっていろんなことが蘇ってくるっていうことがあるだろうなあと思うんです。嫌なことがある時ほど、自分が笑顔でいようと思ったりするのも同じような心の作用なんじゃないかと思うんですけど。結局は、心の中の“ウッ”と疼くような部分を歌いたいという気持ちは変わらないんです。痛いところに触りたい、と。ただ、それは痛くさせたいわけではなくて(笑)、そっと撫でてあげられるような曲であればいいなあっていうことなんですよね。
──加藤さんの音楽を受け取る人の心の中の疼く部分に触れる手法が、北風型から太陽型に変わってきているということですか。
それはみんな、その両方をきっと持ち合わせてると思うんですよ。心の中の度合いはそれぞれだろうけど。だから、わたしもこれまでは北風型というか、「泣きなさいよぉ」っていう感じで(笑)、歌ってることが多かったかもしれないけど、人の心を動かすのはそのやり方だけじゃないと思ってるということかもしれないですね。もうひとつは、単純に音楽で楽しいことができたらいいねという気持ちもあると思いますけど。
──そういう加藤さんの現在を伝えるのに、25周年ライブはどういうセット・リストにしたいと今の時点では考えますか。
シングルという枠で選ぶかどうかはともかく、自分にとって“この曲の時はこうだった”ということを1曲1曲語れるような曲をピックアップしたいなとは思いますね。その結果として、例えばアルバムの6曲めみたいな感じの曲ばかりというようなことになるかもしれないですけど(笑)、それでも自分のなかで節目になった曲だなと思うものはきちんと織り混ぜたいなと思います。
──25周年記念ライブの後にはアコースティック・ツアーが決定しています。
アコースティック・ツアーはずっと前からやろうと言ってて、だから本当はというか、もっとたくさんやりたいなとは思っていたのですが、でもスケジュール的な事情もあり、とりあえず6月の毎週末に凝縮してまずやってみましょうっていう。だから、この続編はまたやりますから、お楽しみにという感じなんですけど。「風の街へ、夏」ということは「風の街へ、秋」があったり「風の街へ、冬」があったりということですよね(笑)。
──こちらは、どんなセット・リストになりそうですか。
このツアーのステージは、ツアーと言いながら、内容は毎回違うだろうし、リクエスト・コーナーがあったり、研さんが歌い始めたりっていうこともあると思います。なにせ二人だから、臨機応変にどうとでもやれるんで。すっごい自由なライブになると思います。
──では、これまでに何度も加藤さんのライブを体験した人にとっても、ひと味違う楽しみを感じられるライブになりそうですね。
そう思います。せひ、楽しみにしててください。
■加藤いづみからコメント動画が到着!