インタビュー/東條祥恵
VALSHE(バルシェ)としてデビューして、イラストで3年半、実写で3年半。作品でもライブにおいても、リアルとファンタジー、実像とイラストを自由に行き来きし、最新型の手法で音楽の楽しみ方を提示するVALSHEは、まさに新世代の表現者。ジェンダーレスな声を使って、様々なタイプの楽曲を歌う音世界。さらにそこから一歩踏み込んでいくと、MVやジャケットワーク、歌詞、ライブなどにあらかじめ仕組まれたトリックが次々と露わになり、それらを紐解いていったときに見えるのは壮大なVALSHEワールド。1度ハマると沼化間違いなしのVALSHEワールドはどうやって生まれてきたのか。本人に話を聞いた。
──まずVALSHEさんがデビューに至った経緯から教えてもらえますか?
「元々自分は歌を動画サイトに投稿するというところから始まってるんですよ」
──その頃「これをきっかけにデビューできたらいいな」という考えはありましたか?
「微塵もなかったですね。そういう人もまだいない時代でしたし。だから、普通に仕事をしていて、週末の趣味としてやってたんです」
──そうだったんですか。
「はい。そこで、イラストレーターと曲を作ってる人とネット上で仲良くなって。最終的に自分とイラストレーターと作家でタッグを組んで、みんなで出ていった感じだったんです。でも、デビューするとは本当に予想もしていなかったです」
──いま歌手を目指している人たちに、こんなデビューの仕方もあるんだよというのを伝えてあげたいですね。
「そうですね。でもこれは、ちょっと前までは“路上”や“ライブハウス”で起きていたことが、自分の時代ではそれが“ネット上”で行われていたというだけの話なんですよ。自分はデビューして7年目なので、いまはまた違う形のことが起きてるのかなと思うんですが。でも、ネット上に自分の作品を上げれば、誰でもその作品を見ることができるというフィールドはそれまではなかった土壌ですから、その土壌は最大限活かすべきだとは思います。例えば“歌手になりたい”とか“ダンサーになりたい”と思ってる方にとって、まだまだネットという土壌は心強いフィールドだと思いますので」
──では、VALSHEさんはいまから考えると、なんでデビューできたのだと思いますか?
「タッグを組んでいたクリエーターと出会えたことが自分の中では一番大きいですね。あとは、自分の決断力!ここを出て行こうという。それまでの自分や自分を応援してくれた方々と一度ちゃんと決別をしなければいけない。その決断を下したのは自分の中では大きなことでした。それが、しっかりできたことが今につながっているんじゃないかなと思います」
──「デビューできる、やったー!」というのではなく、覚悟を決めての決断。当時から高いプロ意識を持ってらっしゃったんですね。
「『音楽を仕事にできたらいいのに』と子供の頃から思いながらきたんですが、ネットというツールが出てきて、デビューの敷居が下がった部分もあったと思うんです。子供の頃の自分が見ていた歌手はもっと“神聖”なものだったので、自分が趣味でやっていたところからデビューというのは、ちょっと自分の中でバランスが取れなかったんですね。なので、もっと自分が子供の頃から思い描いていたシンガー像に近づくために、そういう考え方になっていったんだと思います」
──VALSHEさんはデビュー後、イラストで顔を出さずに活動をしてらっしゃいましたけど。それについてはどう思われていたんですか?
「元々デビューを決めたときに、一つの作品を作る仲間としてイラストレーターが存在してまして。ただ、デビューするなら“ライブをやりたい”と自分は思ってたんですね。そのなかで、自分が考えていたようなライブができるようになるまで、別に顔を出す必要性がなかったんですね」
──私のこと見て、私のこと知って欲しいとは思わなかったんですか?
「思わなかったですね。自分自身も(音楽の)素材の一つという考え方なので。当時はまだイラストでやってみたいことがたくさんあったんですよ。それが、だんだんとイラストで補えなくなってきたから、この素材(自分自身)を出すようになった。そういう感覚です。実態があるからこそ表現できる。そのど真ん中にあるのがライブだと思うんですけど、イラストでしか表現できない世界観というのもたくさんあって。どちらもいいところを取り入れた作品を創っていきたいというのはいまでも思ってます」
『名探偵コナン』との巡り合わせ