春田:曲を聴くだけで様々なシーンのイメージが蘇ってくる
樋口:劇中音楽の隅々まで全部演奏するシネマコンサートは夢のような出来事
春田 そういえば、僕は正直、映画とは距離を取っていたのに、ここ2~3日、テーマ曲の<宿命>が耳からなぜか離れない。試写会から上映されるまでの期間、舞台挨拶しながら何度も映画を観ていたことが小さいながらも記憶に残ってまして。涙を流すシーンなんかは曲を聴くだけでイメージが出てくる。曲を聴けば、鈴を鳴らすシーン、お粥を食べてるシーン、自分が子どもたちに痛めつけられてるシーンとか、蘇ってきます。
樋口 僕も公開当時に観ていて、最初は後半の山場の前にインターミッション(休憩)が入ってしましたね。今回のシネマ・コンサートも同じ構成で、最初のロードショー時の再現にもなっているわけですが、春田さんも舞台挨拶の時はその休憩の頃から劇場にいたそうですね。
春田 不思議な感じで時間が過ぎていくというか。当時は何度も観る方がいたので、サインや写真をせがまれて、とか。そういうことが休憩時間の間にいっぱいあった。で、子どもながらに映画のすごさっていうのをなんとなく意識はしていたというか、色んな方とお話して握手したことを、すごく覚えてますね。
樋口 当時は国民的映画というか、何度もリバイバルされましたし。しかしこのセリフのない少年を、日本じゅうの観客がそれぞれの思いをこめて観ていたんでしょうね。
春田 セリフがない部分に、皆さんがご自由に感情を入れ込めるような形が取られていることで、僕も重大さに気づくことがありますね。僕は逆に反省しているというか、もっと映画の中でやっておかなきゃいけなかったかな? って。
樋口 それは十分かと思いますよ(笑)、お子さんの演技としては極限的にやってるんじゃないですかね。でも今おっしゃったみたいに、この映画ならびに<宿命>っていう曲の魅力は、春田さんにセリフがないから観る側が自分の親子関係とか、言ってみれば“自分の宿命”について考えるっていう、そういう皆が自分で補完するところがあるんでしょうね。
春田 例えば公開から40数年経ちますから、何かを背負ったままで観られる方もいらっしゃるでしょうし。人生を送る中で、また感じ方も違ってきたりすると思うので、映画というものはすごく面白いですよね。自分でもこの映画は<宿命>だと感じてますので。
樋口 『砂の器』はとても力ある映画だし、<宿命>も日本映画としては画期的な楽曲なんですけども、春田さんがすごく背負うものが大きくて、40数年間ほぼほぼ語ることがなかった。それが今回「そろそろ話してみようかな」と思い立ったきっかけっていうのは?
春田 熱烈な観客の皆さんの気持ちに応えて、40数年語らなかったことを話してみませんかとお誘いいただいたことで、『砂の器』っていうものを、もう一度観直すチャンスを頂いて。これを機に色んな形で、次の世代に思いをうまく繋げられたらいいなと考えます。あとは、やっぱり良い映画でお仕事させていただいたことに改めて感謝したいなと。
樋口 オールドファンはもとより意外と若いファンも含めて、リバイバル上映の時も超満員なんですよ。そして、今回のシネマコンサートも劇中音楽の隅々まで全部演奏するっていうのは、ファン的には夢のような出来事で、すごいなと思うんです。そんなコンサートに寄せて、春田さんから何かメッセージはありますか?
春田 そうですね、一生懸命、映画の撮影をやらせていただいて、いろんな方に迷惑をかけながらも、本当に皆さんに温かく見守られながらやりとげて。私も演じてた時は最後の40分がどうなるかというイメージは見えなかったんですが、最後にこういうかたちの作品になった時に、すごいものだなって感じました。僕としてはこの映画を始めたころからだと45年くらい経つんですが、すごく偉大な映画だなっていうのは、今でも思いますね。どんどんそういう気持ちが強くなってきてる部分があるし、やっぱり観ていただきたいですね、いろんな方に。
(2017年6月・都内にて)
1966年生まれ。ものごころついた時から子役として活躍、『わが子は他人』『白い地平線』『がんばれ!レッドビッキーズ』『こおろぎ橋』などのテレビドラマ、『はだしのゲン 涙の爆発』『ガラスのうさぎ』などの映画に多数出演。『砂の器』の本浦秀夫役は大きな好評をもって迎えられた。若くして子役を引退し、現在は自動車関係の会社を経営。今回、43年ぶりに初めてファンのために『砂の器』を語る。
樋口尚文(ひぐち・なおふみ)
1962年生まれ。映画評論家、映画監督。著書に、詳細な『砂の器』論を含む『「砂の器」と「日本沈没」 70年代日本の超大作映画』をはじめ、『大島渚のすべて』『黒澤明の映画術』『実相寺昭雄 才気の伽藍』ほか多数。春田和秀さんのロングインタビューを含む『「昭和」の子役 もうひとつの日本映画史』(国書刊行会)が8月刊行。