インタビュー/三宅正一
──前作『THE FACES』は自他ともに認める最高傑作だったわけで、今作を制作するにあたっていかにフレッシュな方法論なりモードで新しい風をバンドに吹かせられるかがポイントだったと思うんですけど。結果的に新境地であるとともに20周年にふさわしいアルバムになったと思います。
Kj(Vo & Gt) 難産だった曲は1曲もなくて。ただ、スケジュールがタイトでもあったので、制限時間いっぱいまでレコーディングを楽しむという感じだったのね。だから、フレッシュと言えばそうかな?KenKenがベーシストとして最初から制作とレコーディングにガッツリ参加してくれる最初のアルバムということもあって、その時点で劇的な変化があるから。サウンドスケープもみんなと相談しながら変化させていって。トラックダウンも何回もやり直したしね。でも、そういう試行錯誤は難産とは言わなくて。
──ブラッシュアップだよね。
Kj そうそう。ひょっとしたら、Dragon Ashの歴史上、一番自分が思い描いた音に限りなく近いアルバムができたかもしれない。アレンジはけっこうみんなに委ねてるから、当初俺がデモを作って思い描いた楽曲ではなくなるんだけど、それはいい意味でDragon Ashの曲になる。あと、とにかくちゃんと2017年の音にしたいという思いが強かったんだよね。キャリアが長くなればなるほどお家芸的な得意技がどんどん身についてくるわけで。それを理解しつつも、少しずつスパイスとして、いろんな音楽的な要素をカンフル剤として自分たちに打ち続けていくことをして。そうやって転がっていくことがDragon Ashのロックンロールだと思ってるから。それをかなり健全にできているアルバムだと思う。『20周年にふさわしいアルバム』っていろんな人に言ってもらえるんだけど、すごく意外なんだよね。全然苦労してないから(笑)。
──意外なんだ?
Kj 自分にとって音楽的にすごく楽しいアルバムができたのは間違いないけどね。誰がために歌ったり鳴ったりしてる部分が少ないと思うから、聴く人はどう思うかはわからなくて。
──いや、でももはやDragon Ashが思うように音楽を創造し、鳴らすことが誰がためになってると思うけどね。
Kj 結果的にそうなればうれしいけど。
──2017年の音という意味でポイントになったのは?
Kj それはシンプルに音像だね。ジャンルがどうこうじゃなくて、音像であり音質として。
──相当ミックスにもこだわっただろうし。
Kj うん、こだわった。世の中には音楽に限らずいろんな種類のプロがいて、いろんな好みがあるだろうけど、絶対に音はいいって感じてもらえると思う。だから、ミュージシャンだったらドラムをどう録ってるのか気になったやつはサク(桜井誠)に訊いてほしいし、ギターだったら俺に訊いてほしい。それくらい録り方から根本的に変えてるから。面倒ではあったけど、そうすることによって劇的に音が変わったんだよね。いかに音源の価値を下げないかということを意識して。俺はだいぶCDを買ったり音楽を聴くタイプだから。それもあって、劇的に音がいいというところまで苦労してももっていきたいなと思って。
──メロディやリリックを書くのも淀みなく?
Kj うん、スラスラ書いた。
──それは歌いたいことが定まってるからなんですかね?
Kj まあ、英語が多いしね。
──ソロで曲を作るときにも近い感覚で書けたということ?
Kj ああ、そうかもね。ソロも90%くらい英語だから。今回のDragon Ashの曲も「英語で大丈夫!」って思えたんだよね(笑)。
──あらためてメロディメイカーだなとも思いましたけどね。
Kj うん、メロディに耳がいくよね。
──サクさんはどうですか?完成してみて。
桜井誠(Dr) 音に関してはだいぶこだわりました。トリガー(電子ドラム音を鳴らす機材)を導入したりね。時代に合った音作りに対して興味を持って作り込んでいくというレコーディングでしたね。一人のドラマーとしては、自分のプレイスタイルとは真逆の作り方をしているところもあるんですよ。グルーヴのあり方にしてもそうだし。でも、こういう新しい試みは間違いなくプレイヤーとしての糧になるんです。また新しい経験ができた喜びがありましたね。
──Kjはアルバムを作る前から「『THE FACES』を超えるつもりはないし、あそこまでのDragon Ashはあのアルバムで完結した」って言ってたじゃないですか。そういう発想だったから新しい地平に立てたというのはデカいと思うんですけど。
Kj 俺は特にソングライティングしてるから、「『THE FACES』までのDragon Ashは一回置いておく』」っていう感覚なんだよね。その責任や自分たちなりのカッコいい立ち上がり方をあのアルバムで最高のカタチで見せられたと思うから。でも、今作は新しいDragon Ashの1stアルバムという感覚で捉えていて。その気持もあいまって、好奇心が前にきた状態で曲をいっぱい作れたなと思う。音像にもそういうクリアで明るい精神状態が出てると思うし。今作は総力戦で、みんなでDragon Ashの“ド”と“ラ”と“ゴ”って担った感覚が強くて(笑)。それもよかったな。
桜井 そういう感じがありますね。レコーディングしているなかで、こいつが音を入れるとこう変わるとか、そういう変化がわかりやすく起きてた。メンバーの誰もが必要不可欠であって、それがプラスに全部働いた感じがすごくあった。
──そのレコーディングのあり方は今後も継続していきそうなんですか?
桜井 続いていくんじゃないかな。よくも悪くもDragon Ashの制作って特殊だけど、こういう大きな変化が起きるのはすごく大きいと思う。だからこそ、スケジュール的に打ち止めがなければレコーディングをまだまだ続けられたし。
Kj そうそう。俺もまだまだいけたし。こんなに少ない曲数のアルバムを今までDragon Ashは出してないから。いつもわりとモリモリでいちゃうしね(笑)。でも、このアルバムはこれで完成したなと思ってる。
──40代を間近にしたバンドがそうやって新しいフェイズに立てるのはすごく幸福なことじゃないですか。
Kj うん、幸福だね。サクさんも今回のレコーディングのあり方も含めて、まだいろいろ成長したり進化できる方法論があって。
桜井 そうだね。やっぱり音楽にはゴールがないからね。『ドラゴンボール』みたいに化け物がいっぱい出てくるから。「なんだ、こいつ(演奏が)クソ上手えな!」っていうやつがね(笑)。決してそいつを倒したり、肩を並べるためにドラムという楽器と向き合ってるわけじゃないけど。でも、そういうやつらがいる以上は興奮するし、自分も負けてらんねえなって気分になる。それは結果的にバンドを続けるモチベーションになるから。