百戦錬磨のスタジオミュージシャンの生演奏が聴ける機会、若い人には新しい刺激として捉えてもらえれば
──このアルバムが当時のシーンにインパクトを与えた理由も、そういうところにあるのかも。
よくわからないですけどね、自分では。自分に対する評価にも興味がなかったし、とにかくやりたいことをやり倒していたというだけで。当時、インストアルバムを出したいと言ったときも“え?どうしてインスト?”って言われたんですよ。70年代の後半、80年代の前半までは高中正義さん、T-SQUAREなどのアルバムがヒットしていましたが、80年代後半になるとインストの音楽は衰退していましたから。僕としてはニッチを狙ったつもりだったんですけどね(笑)
──インストのブームは下火になっても、求めているリスナーはいるはずだと。
そうですね。日本人のインスト好きにはいくつかタイプがあると思うんですよ。ジャズに由来するようなマニアな方であれば、演奏家のちょっとしたプレイを評論することを楽しんでいたり。大衆的娯楽感覚でインストを聴いている方々は、季節感やシチュエーションが大事になってくるんですよね。『SEA IS A LADY』もそういう様々なニーズを意識していて、海をバックにしたジャケットだったり、全体的なエコー感によって“夏っぽい”というイメージにつなげているんです。“夏のアルバムだと指定することで、喜んでくれるリスナーもいるだろう”というマーケティングというか。当時そこまで考えていたわけではないけど、いま分析してみるとそういうことかなと。
──いまの若いリスナーにとっては新鮮に聴こえるかもしれないですね。
うん。打ち込みの音楽、EDMなどが定着しすぎて、飽きてきている気もするので。実際、しっかり演奏するということに興味を持ち始めている若い人も多いんですよ。親に連れられて僕のライブに来た人たちも“すげえ”って言うし。そりゃそうですよね。百戦錬磨のスタジオミュージシャンの生演奏が聴ける機会なんて、いまはほとんどないわけだから。40代、50代の方々にはエネルギッシュに音楽と向き合っていた時代を思い出してもらって、若い人には新しい刺激として捉えてもらえれば、双方向に魅力を発信できるのかもしれないですね。
──フュージョンという音楽を再発見する機会にもなるのでは?フュージョンを生で聴けるライブも少なくなっている気がするので。
確かに少ないかもしれないですね。ブルーノートやビルボードにはおもしろいミュージシャンが来てますけど──例えばマーカス・ミラーだったり、スティーヴ・ガッドだったり──でも、基本的にはクローズな場所でやっているというか、いろんな世代の人が気軽に楽しめる感じではないので。ただ、そういう音楽が好きな人たちの温度はすごく感じていているんですよ。
──『SEA IS A LADY』をこの時期にリメイクしたのも、必然だったのかもしれないですね。ギタリストとしての角松さんにスポットが当たる作品だと思いますが、いま現在は、歌、ギター、作曲のなかで、いちばん優先順位が高いのはどれなんですか?
わりと歌が好きですね、ここ1年くらいは。自分が好きな曲を歌って、気持ちよく声が出せたときは“歌っていいな”と思うので。でも、このアルバムも出るし、いまはギターって言っておきます(笑)。ツアーに向けて練習しなくちゃいけないからね。歌は練習しないけど、ギターは練習しないとダメだから。そういう意味ではやっぱり、歌が本芸で、ギターが裏芸なんでしょうね。35年経って、ようやくそこに落ち着いたというか。
80年代にやったインストツアーでは、一切、歌わなかったんです。いまは年も重ねましたし、ファンが喜んでくれることもやろうと思ってます。
──5月からは全国ツアー「TOSHIKI KADOMATSU TOUR 2017“SUMMER MEDICINE FOR YOU vol.3”〜SEA IS A LADY〜」がスタート。やはりインストが中心になりそうですか?
80年代にもインストのツアーを2回やったんですが、そのときは一切、歌わなかったんです。僕も若くて頑なだったし、“今回はインストだから、絶対に歌わない”って。ファンがヤキモキするようなことをやりたいという気持ちもあったんですが、いまは年も重ねましたし、ファンが喜んでくれることもやろうと思ってます。最初に言ったようにコーラスは入れられないんですけど、コーラスがなくても成立する曲もけっこうあるので。バックミュージシャンは最強のラインナップだから、彼らの演奏技術をしっかり聴いてもらうことをテーマにしながら、そのなかにインストもあるという感じになると思います。未発表のインスト曲をやるかもしれないし、バリエーション豊かに楽しんでもらえるんじゃないかな。
──角松さんのファンは耳も肥えているし、ツアーで何を見せるかはすごく重要ですよね。
そうですね。“こういうことをやってほしい”という声も聞こえてくるんですけど──インストをやってほしいという意見も10年くらい前からあったので──ライブを観れば納得してくれるんですよ。角松敏生というブランドをずっと信頼してくださる方もいるし、アルバムを出すたびに“どうしてこの作品を作ったのか”という理由をしっかり示す必要もあって。そういうブランディングの中心にあるのは、レコーディング芸術としてのスタジオ作品なんです。“こういうアルバムを作ってるヤツなんだから、ライブもおもしろいはずだ”と思って会場に足を運んでもらって、“ライブはもっといいな”と感じてもらう。それが本来あるべき姿だし、僕とファンはそういう関係性で成り立っているので。だからこそ、裏切るようなことは出来ないんですよね。
■TOSHIKI KADOMATSU TOUR 2017 “SUMMER MEDICINE FOR YOU vol.3” ~SEA IS A LADY~告知動画
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