「大友さん、そろそろ成熟したロックンロールをやったらいかがですか?」みたいなことを言う人もいるんですけど、バカ言うんじゃないよという話でね(笑)。成熟したらそれはロックンロールじゃないんです。
──野球の例え話を続ければ、どんなに年齢を重ねても相変わらず若い頃のように速球で三振を奪うようなピッチングを求められるピッチャーがいますが…。
そうなんですよ。僕は、いつでもストレートで勝負しないといけないんです。「いい変化球を覚えたんだけど…」という話は聞いてもらえないんですよね(笑)。それでは納得してもらえなくて、ずっと豪速球を貫いてほしい、とファンの方は思ってらっしゃると思うんですよ。
──そこで、野球のピッチャーならいくつになっても春季キャンプでは何百球も投げ込むことがあるように、大友さんもライブが決まると、普段の節制に加えて、何か集中的に歌うことのテンションを高めるような作業があったりするんですか。
それはやっぱり、ライブが決まるとリハで集中して2、3日で40曲くらい歌うということをやりますよね。昔は、そういうふうにガーッと歌って、翌日の朝起きると声帯に引っかかる部分というか、いちばん高音の部分と低音の部分の具合というのがちょっと声を出しただけでわかったんですけど、最近のように2本か3本のライブに照準を定めて臨むというのはなかなか難しいですね。
──さらにピッチャーの例え話になりますが、いつまでも豪速球を求められるとしても、キャリアを重ねたピッチャーは実際の速さ以上に速く見せてしまう技を身につけるように、大友さんもここまでキャリアを重ねてきたなかで、オーディエンスの納得のさせ方というかエネルギーの放出の仕方が以前とは変わってきているところもあるんじゃないですか。
それは、変わってないですね。いろんな人が「大友さん、そろそろ成熟したロックンロールをやったらいかがですか?」みたいなことを言うんですけど、バカ言うんじゃないよという話でね(笑)。僕に言わせれば、成熟したらそれはロックンロールじゃないんです。どんな時代でも若者が大人に対して抱く反抗精神、自分の存在感、そういうものを歌のパワーで見せつけていくのがロックンロールであって、だからこそ僕はいつまでもペース配分ができないままでいたいんです。いいんですよ。ヘトヘトになったら、その姿を見てもらえばいいんです。ファンもどこかで、一緒になってヘトヘトになりたいという気持ちがあるはずだから。僕はずっと成熟しないのがロックンロールだと思ってるし、そういう意味ではさっき声についていろいろと話したのもちょっとおかしいんですけど(笑)。ただ、自分の存在感を貫き通すためには、僕の場合は声しかないんですね。その声で、豪速球のロックンロールと豪速球のバラードを歌うしかないというか、僕はそれをやりたいと思ってるわけです。
何十年もやってると、小さなこだわりは増えてきますよね。歌は最初の4小節が命がけで、そこではずしたら、その曲はダメになると僕は思ってるんです。
──成熟しないために、何か意識していることがありますか。
何十年もやってると、小さなこだわりは増えてきますよね。ライブに対して、自分のなかでの決め事、約束事がね。それは、誰にもわからなくていいと思ってるんです。スタッフのなかには感じてる人間もいるかもしれないけど、でも少なくともお客さんには絶対わからないような細かいことなんですよね、それは。
──そのこだわりを全部クリアすると、理想のライブにたどりつけるはず、というようなことですか。
そうですね。全部クリアするのは、なかなか難しいんですけどね(笑)
──その「小さなこだわり」というのは、技術的なことですか。
僕はずっと音楽1本でやってきて、10年くらい前にいろんな出来事があって、それから映画だったりドラマだったりバラエティーだったり、音楽1本でやっていたら絶対に踏み込むことがなかったであろう世界にも入っていくというか、活躍の場を作ってもらってやってきたわけですけど、そこでひとつ言えるのはどれも全部表現なんですよね。しゃべることも表現だし、演じることも表現だし。そのなかで、歌うということは表現というよりも自分の生き様をぶつけてるということなんだなということが確認できたんですよ。映画でもドラマでも、役者さんは演じてるわけですよね。バラエティーで面白いことを言う人はちゃんとその人なりの論法があって、それを考えてやってると思うんです。でも、歌にはないんですよね。もちろん、演じて歌う、という人もいるんだけど、それにしても歌は最初の4小節なんですよ。そこではずしたら、その曲はダメになると僕は思ってるんです。だから、その最初の4小節は本当に命がけで、1本のライブで20曲歌うとすれば、20回の「命がけ」があるということなんですよね。この歳になると、そういうことができるのが幸せだなと思うんですけどね。
会場に来ていただければ、いつもと変わらぬストロング・スタイルのHOUND DOGがそこにいます。ステージに対する意気込み、魂の昂りというのは去年以上ですから、一緒に盛り上がりましょう。
──長くやっていると、ライブの面白み、あるいはその深みを発見する、ということもありますか。
長くやってると、とりあえずその怖さみたいなことは感じますよね。たくさん、いろんな失敗をしてきましたから。例えば、体調が良くなかったのが、歌ってる間に盛り返していったこともあったけど、結局悪いままで終わってしまったこともあったし、すごく体調がいいと思ってたら途中でいきなり声が出なくなったりしたこともあったし。成功例というのは、ほとんど憶えてないんですよ。失敗例はいろいろとたくさんあって、それは絶対に忘れないんですよ。
──たくさんライブをやってるということは、“今日はうまくいかなかったな”と感じた日もおそらくは人より多いということですよね。
そうだと思うんですよ。
──その結果として、以前よりも怖さを感じる度合いが高くなる、と?
ただ、それを乗り越えてアンコールを歌ってるときの充実感、達成感は以前よりも大きいですよね。
──今回のライブでもそうした達成感を味わうことになるのかもしれないですね。最後に、ファンにメッセージをお願いします。
会場に来ていただければ、いつもと変わらぬストロング・スタイルのHOUND DOGがそこにいます。自分のステージに対する意気込み、魂の昂りというのは去年以上のものがありますから、みんなもちゃんと体力をつけて来てください。一緒に、盛り上がりましょう。