新譜も出したぞ、さぁいけって、馬がレースのスタート前のゲートに入った状態(笑)。もしかしたらこの間のライブがゲートが開いて走り出した瞬間なのかもしれない。
──40代最後の年となる2016年は新たな扉を開いた年と言えそうですね。
50歳という節目はあまり意識してなかったんですけど、2012年に音楽活動を再開して、徐々にアーティストとしての感覚が戻ってきて、今がさぁまたやるぞってスタート地点に立った状態なんじゃないかな。新譜も出したぞ、さぁいけって、馬がレースのスタート前のゲートに入った状態(笑)。もしかしたらこの間のライブがゲートが開いて走り出した瞬間なのかもしれない。
──歌手というだけでなく、プレイヤーとしての活動も際立っていました。ライブもそうですし、アルバムでも演奏クレジットにたくさん岸谷さんの名前が載ってます。これは?
私はバンドあがりなので、最初は自分の役割という意識に縛られているところがあったんですよ。私はボーカリストであって、他にベーシストもドラマーもキーボードプレイヤーもいるんだから、その領域に入っちゃいけないんだって。そういう体質って、急には変えられなかったんですけど、せっかく10年ぶりにアルバムを出すんだから、やりたいことを全部やろう、躊躇するのはやめようって吹っ切れたんですよ。誰がなんと言おうと、いいのいいの、私、ベースを弾くから、みたいな(笑)。上手い下手よりも、私が良けりゃいいんだよって。
──曲を作った本人だからこその演奏だなと思いました。
せっかく私が弾くなら、上手く弾こうってことではなくて、こういう演奏をしてほしいんだよっていうアピールのひとつとして弾くわけで、そこは歌と一緒ですよね。これはこういう曲なんだよって楽器で表現していくという。もちろん自分には弾けないこういうプレイがほしいって時には、ピアノをヒイズミ君にお願いしたり、躊躇せずにアタックしましたけど。「Kiss & Kiss」という曲の歌詞をきょんちゃん(富田京子)に書いてもらったんですが、”あの曲、私がベースを弾いたんだよ”、”えー?なんで?”、”だって弾きたかったから”って言ったら、”玉田豊夢君という立派なドラマーと一緒に演奏するのによくそんな図々しいことができるね”って言われました(笑)。”さすが、好き勝手やってるね”って(笑)。吹っ切れたからこそ、できたんだと思います。ある意味、ちゃんとしたベーシストには弾けないベースだったり、ちゃんとしたピアニストは絶対に弾かないピアノだったりするわけで。もちろん上手いということも素晴らしいんだけど、それ以外にも音楽の素晴らしさってあるなって発見のあった楽しいレコーディングになりました。
ステージの上だけでは、好きなことに対して、バランスを取らずに向かっていっていいんじゃないかなって。そういう大人げないエネルギーを持てたことが自分でも新鮮でした。
──豊洲PITでの「Dump it!」、ツイン・ベースでの演奏もすごい盛り上がりでした。
この曲、どうやろうか考えていて、最初は貴史(安達貴史)にギター弾いてもらうつもりだったんですよ。でも彼は素晴らしいベーシストなので、”ツインベースでやるとしたら、どう演奏するのがいいか、アイディアを考えて”ってお題を出したら、張り切って考えてくれて、楽しかったですよ。ツイン・ベースってだけで、バンドもおもしろがってくれるから、色々と良かったですね。
──今年は楽器に接している時間も長かったのではないですか?
長かったですね。家でもよく楽器を触っていました。やっぱり私は音楽が好きなんだな、楽器を弾くのが好きなんだなって思いました。”好きこそ物の上手なれ”という諺がありますが、子どもが好きなことやってる時のエネルギーを見ていると、好きってすごいんだなって思いますね。夢中でゲームをやって、その世界に入っていると、話しかけてもまったく聞こえないみたいな(笑)。私もステージの上だけでは、好きなことに対して、バランスを取らずに向かっていっていいんじゃないかなって。そういう大人げないエネルギーを持てたことが自分でも新鮮でした。
“ひとり旅”で感じたこと、心境の変化。