──それぞれ具体的に、制作中の印象的なシーンや、曲のエピソードについて聞きます。ヨシミさん?
ヨシミ 「LOVESICK」という曲があるんですけど、そのリズムを録ってる時に、別部屋でコウタとウチュウがパソコンで作業していて、イントロから全体の構成までをどんなアレンジにするか、延々やっていて。あの時の悩みまくってる二人の顔は、今でも忘れない(笑)
フジイ 別の部屋でドラムを録って、戻ってきたら、みんながぐてーっとしてて(笑)
ヨシミ でもこの曲は、今の形が一番いいですよ。無駄を削ったんですよね。それとこの曲は、曲中に入ってるセリフが面白くて。
──ああ~。“もしもし?久しぶり”っていうセリフ。ああいう演出、カフカで初めて聴いた気がする。
カネコ あそこはもともと、コーラスが入ってたんですけど。曲自体を、ちょっとゲスな感じというか、パリピな感じというか(笑)。そういうものに特化したかったんですよね。恋愛って、そういう面はすごく重要だと思っていて、ほかの曲で真面目に愛というものを考えすぎた結果、衝動的で馬鹿な男子がいないなと思って、この曲なら行けるんじゃないかな?と。好きな子に電話する気持ちでやってみようと思って、実際に電話するところを一発で録るという。
ヨシミ そしたら、ぴったりはまった。いい雰囲気出てるよね。普通じゃない。
──ウチュウさんは、特に印象的な曲というと。
ミウラ 「No Bad」のギターソロですね。ソロを弾く時には、みんなの中にいいギターソロのイメージがあって、みんなを幸せにした上で自分を幸せにするフレーズを、というふうに僕は考えてるんですよ。それに加えて前作ぐらいから、きれいに鳴らすだけじゃなくて、オラァ!みたいなフィジカル感も求められていたので、今回はそれを全編ですごく意識しました。「No Bad」のギターソロは最後まで決まらなくて、レコーディング当日に寝ずに作っていったんですよ。最後まで待たせたからには、全員いいねと言わせないと、死んだほうがましだという気持ちで弾きました。
ヨシミ 良かったよ。昨日までとはまったく違う音で、なんだこのソロは!って思った。
ミウラ みんなで盛り上がって、いいムードを作れたという意味で、仕事を果たせたかなと思ってます。
──フジイさんは?
フジイ ドラムに関しては、「plastic city」が印象的です。今回は全体的に、譜面通りじゃなくてその一歩上のかっこよさを突き詰めた中で、それが一番できたのがこの曲で。スネアをいくつも使って、どれにすればよりソリッドになるか?とか、打ち込みを足したりとか、一番かっこいい音にしようと思ってました。
──カネコさんには、歌詞に関して聞きます。今だから書けたと自分で思う、新しい世界を拓いたと思う歌詞は、たとえばどれですか。
カネコ 歌詞において一番気に入っているのは、1曲目の「Scab」ですね。Scabはかさぶたの意味なんですけど、お風呂に入ってる時に、かさぶたがお湯にひたって血がふわーっとにじんでくるのを見ていて。かさぶたって、気づいたらなくなっているものだから、いつのまにか忘れていくものというか、今は血を流しているけど、何日かしたら見向きもしないものになるんだろうなと。それって失恋した時の気持ちに似てるなと思って、一人でぐっと来て、バーッと書いた歌詞です。そのタイミングがなかったら、思いつかなかったと思います。「City Boy City Girl」も気に入っていて、男女目線の二人の曲なんですけど、僕らが19、20歳の頃に都会に出てきた時は、まだ全然何もわかってなくて、ただいつも追われている焦燥感があって。今あらためて、渋谷の街を歩いてる子たちを見ると、すごくおしゃれしてかっこいいなと思うけど、たぶん中身は俺らが19、20歳の時とそんなに変わってないのかな?と思ったんですね。強がって背伸びして歩いてるけど、いろんなことにいっぱいいっぱいで、でもそれを楽しんでいる、一瞬のきらめきみたいなものを強く感じたので。自分もいつまでもそういう気持ちを持っていたいし、今のシティボーイ、シティガールたちはこの気持ちをわかってくれるのかな?という気持ちで書きました。
──そしてタイトル曲の「あいなきせかい」。これも非常に重要なメッセージの入った曲だと思います。
カネコ 「あいなきせかい」は、愛について自分が表しきれなかったもの、表しえないものの結晶だと思います。愛は人それぞれによって全然違うし、“愛はこういうものだ”って、たぶん言えない人のほうが多いんじゃないかなと。だから、それが答えでもいいんじゃないか?と思ったんですね。
──はい。なるほど。
カネコ 自分なりの愛を感じるものって、理屈じゃないし、誰かを愛する時に理由はないのかもしれないという、この曲はその結晶という感じがします。“あいなき”と言うのは、ネガティブな表現ではなくて、自分は愛を知っているということだと思うんですよ。人間って、それがなくなってから、初めてそこにあったことに気づく生き物だと思うし、俺はそうなんですけど、そんな自分がいつもふがいなくて。いつそれにも気づいていれたらいいなと思って、“あいなき”と言ってしまおうと思いました。
──僕が許してあげる、とか、そばにいるよ、とか。今までのカフカにはなかったような、力強い言葉がいくつも出てきます。
カネコ 全然そこに確証なんてないし、自信もないけど、気持ちは無条件に出てくるものだから。今ならそれを言葉にできるかなという感じでした。
──11月からはアルバムのリリース・ツアー『KFKの逆襲がはじまるぞツアー』が決まりました。このアルバムを踏まえて、どんなライブを見せてくれますか。
ヨシミ 「Night Circus」を出した頃(2015年4月)からか、わりとダンサブルな曲が増えてきて。カフカってたぶん暗めなイメージがあると思うんですけど、最近は、暗い曲はもちろんしっかりやるけど、振れ幅が広がったのかな。お客さんの熱量も最近すごくて、“カフカでこんなに跳ねるんだ”とか思うし。きっと、わりと暗い子が多いんですよ。でも俺らも暗いし、そんな仲間が集まって、一緒になれば怖くない。そこにライブ・キッズも増えてきて、より一層みんなで楽しいライブができるんじゃないかと思います。
フジイ アゲめな曲が増えてきたので。今回のリードの「Ice Candy」もアゲアゲで、珍しく夏の曲なので、みんな手を上げてもらえるようなライブにしたいです。
ミウラ 今回のアルバムは、すごくいいムードで制作に特化できたので。その雰囲気を会場に持って行くというか、お客さんは4人の一体感を一番見に来ると思うので、そういう意味で言うと、今はバンド史上一番いい状態だと思ってるので。いいライブができるのは間違いないと思ってます。
カネコ 自分はいつも、ツアーに出る前はユウウツなんですけど。今回、ちょっとだけそれが楽しみだというか。
ヨシミ おお、奇跡だ(笑)。何年も、嫌いだって言ってきたのに。
カネコ 最初に“名盤を作ろう”と言った時に、ライブ感は絶対に重要だと思っていたので。今回はライブで映える曲が多いと思うし、前回のツアーで得たものが、今こういう形になって、みんなからもらった愛を感じてアルバムができたから、今度はこっちがそれを返しに行く番だと思っていて。逆襲という気持ちもありますね、“見てろよ”って。楽しみです。
■カフカ メンバーからのスペシャルメッセージ動画!